【ラーゲリより愛を込めて】

希望とは、誰かのたった一言にあったりする。

【あらすじ】
第二次大戦後の1945年。そこは零下40度の厳冬の世界・シベリア…。
わずかな食料での過酷な労働が続く日々。死に逝く者が続出する地獄の強制収容所(ラーゲリ)に、その男・山本幡男は居た。
「生きる希望を捨ててはいけません。帰国(ダモイ)の日は必ずやって来ます。」絶望する抑留者たちに、彼は訴え続けた――
身に覚えのないスパイ容疑でラーゲリに収容された山本は、日本にいる妻・モジミや4人の子どもと一緒に過ごす日々が訪れることを信じ、耐えた。劣悪な環境下では、誰もが心を閉ざしていた。
戦争で心に傷を負い傍観者と決め込む松田。旧日本軍の階級を振りかざす軍曹の相沢。クロという子犬をかわいがる純朴な青年・新谷。過酷な状況で変わり果ててしまった同郷の先輩・原。
山本は分け隔てなく皆を励まし続けた。そんな彼の仲間想いの行動と信念は、凍っていた抑留者たちの心を次第に溶かしていく。
終戦から8年が経ち、山本に妻からの葉書が届く。厳しい検閲をくぐり抜けたその葉書には「あなたの帰りを待っています」と。たった一人で子どもたちを育てている妻を想い、山本は涙を流さずにはいられなかった。
誰もがダモイの日が近づいていると感じていたが、その頃には、彼の体は病魔に侵されていた…。


キャスト全員の演技がいい作品が好きだ。
全員がそれぞれ「らしく」演じている作品が好きなのだけれど、ラーゲリはまさにそれだった。
桐谷健太さんの無骨な、でもだんだんと柔らかくなっていく表情も、松坂桃李さんの影を落とす、だけれど濁りのない瞳が印象的な演技も、安田顕さんのとても馴染む、人間らしい演技も、深みも、中島健人さんの笑顔はスクリーンに映るたび、ほっとする輝きがあった。
それ全てとてもいいバランスで、ラーゲリの中の窮屈さ、だからこそ対比でわかる空の青さ、自然の脅威があるからこそ、暖かな日の川の水飛沫が愛おしい。
そんな風に、何かしらが対比となって、だからこそ今、自分が手にしているものはもしかしたら希望なんじゃないか、と思えるような、観たあとに少しだけ世界が明るく見えるような映画だった。

映画の感想とは少し離れてしまうけれど、書きたかったことがある。
この映画を観に行く少し前に、わたしの推しているアイドルグループがアリーナツアー発表をしていた。
それに合わせてアルバムが発売され、リード曲のMVの一部がYouTubeで公開された。
そのグループはいつも、背中を押してくれるような、全肯定の楽曲を歌っていることが多く、今回も明るくてキャッチーで、それでいてとてもアツい楽曲だった。
その中の歌詞で、「生きてるだけでまずは合格」という歌詞があった。
彼ららしくて、まっすぐストレートな言葉だなと思った。
それを何の迷いもなく、あまりにも楽しそうに歌っていて、その純粋さが好きだなと、毎日のように聞いている。

そのあと、このラーゲリを観た。
作品の中で、「生きているだけじゃダメなんだ」というセリフが出てくる。今まで敵前逃亡して、卑怯者のレッテルを抱えながら、生きる希望がないまま日々を消化していた松田が、山本に治療を受けさせる為に立ち上がり、異議を申し立てたシーンでのセリフ。
それまで、楽しそうに野球をする仲間達を遠目に眺めてたり、理不尽な仕打ちを受けても何も感じないようにしていたり、その真ん中でいつも希望を持っていた山本のことを、どこか疎ましそうに、なんでそんなことをわざわざするのか、とでも言いたげにしていた彼が、
山本が病床に伏せったとき、みんなの希望である彼を助けるために、そう言ってデモを起こしていた。
何も感じないように生きていれば、何にも期待せず、ただ日々を消化していれば傷つくこともない。誰かの目について酷い仕打ちを受けることもない。
それでも、それじゃだめだと、何かを失うことになっても……そのシーンでは、おそらくは命を落とすことになっても、希望がそこにあるのなら、できることがあるのならば、と、強い意志を感じるセリフだった。

「生きてるだけでまずは合格」
「生きてるだけじゃダメなんだ」
とても両極端で、でもどちらも自分の中に突き刺さる。
どちらが刺さるかはきっと、その日その時のメンタルや状況によって変わってくるのだろうけれど、その選択肢があることがどんなにしあわせなことなんだろう、と思う。
そして両極端であっても、その二つの先にあるのは、本作の中で何度も出てくる「希望」なのではないか、と思える。
違うエンタメの畑で、両極端の、だけれど希望がある「生きるため」の言葉に触れたのがとても面白かったので、メモがてらに書いておく。

自分の希望とはなんだろう、と思う。
希望、と言われてしまうと、なんだかとても大きなもののような気がしてしまって気圧されてしまうような気がするけれど、多分希望はそんなにおおきな場所にあるわけじゃない。
誰かがそこで微笑みかけてくれることが、目を閉じれば脳裏に浮かぶ誰かがいることが、希望になったっていい。
これを信じているから生きていける、ではなくて、今日は空の広さに気づいた、そんな一瞬が、たった一日、明日の希望になったっていい。
そんな風に日々を過ごして、生きているだけで合格だって自分を慰める日もあれば、生きてるだけじゃダメだと、意味を探す日があってもいい。
どこか頭の隅で、いつか何かが希望になりますようにと願いを込めて、そしてこの映画も、きっと誰かの希望のカケラになりますようにと、強く願ってしまう。

前述にも書いた通り、観たあとにほんの少し、空の青さも、雨の匂いも、太陽の光も、夜空に映る星も、いつもよりも輝いて見える、そんな映画でした。

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