【料理エッセイ】鮨アカデミーでお寿司の食べ放題を堪能しつつ、「実は選挙に出たいんだよね」と友だちから打ち明けられた
先日、何年も会ってなかった友だちと新宿でランチをした。どこへ行くと事前に決めていなかったけれど、向こうは密かに行きたい店があったらしい。
なんでも鮨アカデミーというお寿司の専門学校がやっているお店で、本格的な味で食べ放題4,000円なんだとか。テレビで紹介されているのを見て、いつかの機会にと公式LINEに登録していたという。
予約しなきゃダメなんじゃないかと思ったが、電話をかけるといますぐだったら大丈夫とのこと。早歩きで向かうことにした。
新宿大ガードの下をくぐり、河合塾の横を進み、人通りの少ない路地裏にそれはあった。
テーブルにタブレットがあり、一回に20貫まで注文できるというスタイルだった。とりあえず、マグロとかエンガワとか、定番のネタをに2貫ずつ頼むことにした。
握られるのを待っている間、ビュッフェスタイルのサイドメニューをとってくる。ハムカツや揚げシュウマイなどおつまみが目立っていたけれど、これを食べたらお腹がいっぱいになってしまいそう。様子を見るため、マグロの煮物や卵焼き、きんぴらごぼう、ほうれん草の胡麻和え、高菜なんかをピックアップしてみた。思いがけず、渋い色合いに笑
セルフのお茶と味噌汁を飲みつつ、おべんとうばこの歌みたいなお惣菜を食べていると、すぐにお寿司がやってきた。これがけっこう早かったのでビックリ。めちゃくちゃ手際がいいんだと思う。
なお、見た目もいい感じ。
味に関してはネタはどれも美味しいんだけど、ちょっとシャリが大きくて、口の中で旨味がボケてしまってもったいなかった。食べ放題だからなのかな? ご飯はお腹に溜まってしまうので、なんか、あまり種類を食べられないかもと不安になった。
もちろん、4,000円だし、そういう仕様なのは商売として仕方がないのかもしれない。でも、だったら、食べ放題じゃなくていいから、4,000円でシャリ普通のおまかせ8貫+細巻きor手巻き+椀もの+茶碗蒸しみたいなコースの方がぶっちゃけ嬉しい。特にお刺身のクオリティが高い分、切実にそう思った。なにせ、ノドグロの炙りがあったりするんだよ。本当は丁寧に味わいたい。
とは言え、食べ放題だし、頼めるだけ頼むしかないのも現実。二巡目はそれぞれが好きなものを選ぶことにした。
ウニも、金目鯛の昆布締めも、アワビも、サヨリもせぶよかった。つくづく、シャリさえ小さければ悔やまれる。結局、お腹が膨れてしまって、早々にまったりタイムに突入した。
さて、今回、友だちから会おうという連絡があったので、簡単な近況報告が終わったところで、
「実は相談があってね」
と、本題が始まった。
「選挙に出ようと思っててさ」
やっぱり。そう納得したのはこの友だち、過去にも区議会選に立候補しているから。それも3回。うち、2回はわたしも手伝っている。結果は毎回ブービー賞。無論、当選はしていない。
「うーん。政党に所属しないとまずいんじゃない?」
「わかってる。いつも、そうアドバイスしてくれているもんね。一応、今回は政策の近い政党の演説を聞きに行って、代表と写真を撮ってもらったりしたから大丈夫だよ」
なんというか、それは候補者というより支持者のムーブなのではないかと首を傾げたくなったが、本人にしてみれば大きな前進なわけで、細かいツッコミはやめにした。
「まあ、候補者になれるかどうかは別として、ひとまず公募に出してみるってこと?」
「そのつもり」
「提出書類とかは用意してる?」
「うん。下書き段階なんだけど、持ってきていて、今日、ちょっと読んでもらいたくてさ。どんな風にしたらいいか教えてほしくて」
そう言うと友だちは鞄から紙を何枚か取り出し、渡してきた。そこにはその政党から立候補したい理由、いくらまでならお金を出せるか、協力してくれる仲間は何人いるか、街頭演説をする際の想定原稿を書くようにという指示があった。
埋められた内容に目を通している間、友だちはハムカツや揚げシュウマイを食べていた。せっかくならお寿司を食べればいいのにと思いつつ、わたしは文章を読むのに忙しかった。
「まず政党から立候補したい理由だけど、抽象的な表現が多いから具体的にした方がいいと思う。政策が一致しているからって当たり前過ぎて理由にならないと思うんだよね。地域でお店を経営する中で多くの区民と接してきたけど、昨今の物価高で人々の生活は本当に苦しくなっている。このままではうちも成り立たないし、みんなの暮らしも成り立たない。なんとかしなきゃいけないという危機感から政治を変えなきゃと決意し、色々調べる中で御党の政策を知り、ぜひ一緒に戦いたいと胸が熱くなりました、的な。本当のことをそのまま書いた方がいいよ」
「なるほど、なるほど」
「あと協力してくれる仲間5人は少ないかも。家族や親戚に応援されてないの? って思われちゃうよ」
「まあね。でも、まだ誰にも話してないんだよ」
「それは先に話さなきゃ」
「えー。いつも反対されるんだよね」
「過去3回、いまいちな結果だったし、仕方ないよ。ただ、今回は政党から出たいって話で現実味が増しているから印象は変わるはず。とりあえず、ちゃんと協力してもらえる体制を作って、少なくとも数十人の仲間はいるって言いたいね」
「わかった」
「演説はいいと思う。この地域で生まれ育ったこと、地域の仕事をしてきたこと、誰もが安心して暮らせるような福祉に力を入れたいこと、すべての子どもが健康的な給食が食べられるようにしたいこと。自分の主張をしっかり訴えられている。当然、財源はどうするんだ? ってツッコミはあり得るけど、そこは候補者になれた後、政党の考えを反映させればいいんじゃないかな」
「うん。ありがとう」
「用意できるお金は300万か。これ、区議選に出たいって話だよね?」
「違うよ」
「え? どの選挙に出るつもりなの?」
「来年の参院選。比例だったら受かるかなぁって」
おいおい。待ってくれよ。前提がひっくり返り、積み上げてきた理屈がガラガラ崩れ落ちてしまった。
「参院選だとお金、全然足りないよ。供託金だけでも普通に出るので300万、比例で600万は必要だよ」
「うん。ただ、政党が出してくれるんじゃないの?」
「候補者に選ばれたらね。でも、そう簡単には選ばれないよ。だって、参院選の比例は全国で個人名を書いてもらわなきゃいけないんだもの。有名人じゃないのにわざんざ選ぶメリットがないって」
「そういうもんか」
「てか、立候補する理由も演説内容も、地域に根差しているんだし、区議会選に出るもんだとばかり……」
「もちろん、区議になりたいよ。なりたいけど、3回も落ちているし、いっそ国会議員の方がなりやすいんじゃないかなぁって」
わたしにはわからない論理だったが、本人の中では考えがあるらしい。つい、反論したくなってしまうも、別にまだ政党の公募に出す段階、口うるさく止めるほどのことでもなかった。
「まあ、チャレンジは自由だからね。せっかく労力を使うんだったら、成功確率高い方がいいと思うけど、そこは自分で悩んで決めるしかないね。頑張って。もし、政党から出れることになったら協力するよ。参院選でも、区議会選でも」
そのとき、お店の人がやってきて、あと10分でお寿司がラストオーダーである旨を伝えられた。せっかくだし、もうちょっと食べようかということで三巡目をこじんまりと頼んだ。
「美味しいね」
大トロを嬉しそうに頬張る友だちを見ながら、いろいろ早計なところはあるけれど、社会を変えたいと立ち上がり、実際、行動に移せているんだから立派だよなぁと改めてリスペクトの念が湧いてきた。簡単ってことはないけれど、国会議員を目指しているぐらいじゃなければ地域をよくすることなんてできないのかもしれない。
「いや、政党の公募が通らなかったとしても連絡してね。そこからできるもあるだろうし」
「うん。わかった。ありがとう」
そして、わたしたちは締めに大トロを食べた。お寿司の食べ方として定石を外れている自覚はあったが、それでよかった。むしろ、それがよかった。
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