見出し画像

【料理エッセイ】Blueskyで教えてもらった荻窪の老舗鉄板焼き屋ふくやに行ってきた! 24年の歴史に幕を閉じられましたが、ぜひまた食べたい絶品の数々!

 Blueskyで同じ区に住んでらっしゃる方が美味しそうな鉄板焼きの写真を投稿していた。思わず、美味しそう! とコメントせずにはいられなかった。すると、ありがたいことにどこのなんてお店なのか教えてもらえた。

 なんでも、そのお店は9月末に閉店らしい。行くなら早く行かなきゃいけない。そんな風に思いながらも、なかなかタイミングを見つけられないまま、9月も終わろうとしていた。

 たぶん、ここで行かなかったら後悔する。パートナーと話し合い、なんとか二人で行ける時間を作り出し、先日、なんとかギリギリ予約できた。

 結論、めちゃくちゃ最高だった! また行きたいのにもうないなんて、悲しいにもほどがある。せめて、いかによかったかの思い出だけでも残しておきたい。

 いかにも老舗って感じの雰囲気。赤い提灯が魅力的。ドアを開けるとカウンターに常連さんが座っていて、忙しく動き回るおかみさんや店員さんの代わりに、

「とりあえず、ここに座っちゃって」

 と、接客してくれた。地元の人たちに愛されているお店なんだなぁって感じがいきなり伝わってきた。

 とりあえず、ビールを頼み、Blueskyで見たそそられるおつまみ、イカゲソの鉄板焼きとごぼう揚げ、シーフード焼きそばをお願いした。

 ただ、注文が渋滞しているとかで、料理はすぐに出さないらしい。結構待ってもらってもいい? と聞かれた。やらなきゃいけない仕事を済ませておいてよかった。ゆっくりで大丈夫ですよと応じたところ、キムチをサービスしてくれた。

 のんびり待っていたら、隣の席に座っていた人生の大先輩たるご婦人が話しかけてきた。

「寂しいよね。ここがなくなっちゃうなんてね。わたし、毎日のように来てたのよ。あなたもけっこう長いわけ?」

 やばっと思った。でも、嘘をつくのは忍びないので、恥ずかしながらも正直に答えた。

「実ははじめてなんです」

「え! どうして? 逆になんで、いま、来ようと思ったの?」

「閉店とお聞きして」

「この辺に住んでるの?」

「隣の隣の駅から来ました」

「電車乗ってきたの! どうして、また?」

「SNS……、インターネットで教えてもらったんです」

「ひえー! ネットに載ってるのね、ここが。凄いわねぇ。ママー! ママー! 聞いて。ネットで見て、来たって。ママー! ママー! ネットよ、ネット。ママー! ママー!」

 大先輩は鉄板でお好み焼きをジュージュー焼いているおかみさんに呼びかけまくっていた。そして、華麗にスルーされていた。素晴らしい酔いっぷりだった。

 なんだかんだで一杯目のビールを飲み干したわたしは大先輩になにを飲んでいるんですか? と尋ねてみた。

「紹興酒。ここは紹興酒が美味しいの。甕出しのやつでね、特別なのよ。あんたも飲む? ママー。紹興酒二つ」

「はい!」

 おかみさんの素早く返事した。ちゃんと聞こえていたらしい。これがこの店の日常なのだろう。山田洋次の映画を見ているような臨場感が堪らない。

 さて、紹興酒を飲みながら、大先輩の人生を聞かせてもらった。生まれはどこで、バブルの頃は港区でブイブイ言わせていたけれど、いろいろあって荻窪にやってきた、と。このお店にはオープン以来、24年間ずっと通ってきた。

「そもそも、わたしはこの場所が好きでね。鉄板焼きの前の前にあったフレンチレストランも常連だったの」

「そうなんですね。ちなみにひとつ前は?」

「ラーメン屋だったけど、あれはダメだった」

「ラーメンはお好きじゃないんですか?」

「好きよ、好き。ただね、わたしは天下一品しかラーメンとして認めてないの」

 意外にも、大先輩は過激な天一マニアだった。

 さて、そんな風に一期一会のおしゃべりを楽しんでいたら、待ちに待った料理がやってきた。

 いやー、どれも最高に美味しい! 

 こうなるとメインのお好み焼きも行かないわけにはいかなかった。メニューを読んだら、山芋100%のとんとん焼きが名物らしいので、それを頼んだ。

 あと、にんにくチャーハンがおすすめと聞いていたので、お腹がいっぱいになるのを覚悟で行くことにした。だって、もう閉店してしまうんだもの。いま食べなかったら、二度と食べることができない。ならば、多少の無理はやむを得ない。

 この頃、大先輩が待っていたお土産のチヂミも完成した。

「うちの旦那が食べる分。酒飲めない身体になっちゃったから、一緒に来れないからさ。かわいそうでしょ。せめて、これぐらいね」

「そうなんですね。優しいですね」

「違う違う。優しくなんてないの。顔を合わせたら、いつも、喧嘩になるもの。早く死んでくれって思ってるわ」

「でも、食べるものは用意してあげるんですね」

「一応ね。可哀想だからね」

 そして、大先輩はおかみさんにさよならを伝え、千鳥足で帰っていった。

 静かになった店内。なんとなく、トイレに行ってみたところ、妙な張り紙が気になった。

 ……コロ助?

 とりあえず、素直に従ったところ、驚きの光景が広がっていた。

 おお! プラネタリウムみたい!

 こういう演出にグッとくる。純粋にお客さんが喜ぶことだけを考えている。いいなぁ。閉店しちゃうなんてもったいないなぁ。そんなことをしみじみ思った。

 席に戻るととんとん焼きとチャーハンが届いていた。

 もちろん、絶品。山芋100%というのは初めて食べたけど、フワフワ具合は想像をはるかに超えていた。これなら、いくら食べても0カロリーなのでは? サンドウィッチマンに教えてあげたい。

 にんにくチャーハンはにんにくがあまりににんにく! チャーハンににんにくが入っているというより、にんにくにチャーハンが入っていると言うべき代物。明日、大事な試合があったとしたら、これでパワーをマシマシにできるだろう。

 いやはや、大満足も大満足だった。

 また来たいなぁ。でも、それは無理なんだもんなあ。そう考えると行きたいお店には早く行かなきゃいけないと、改めて、大事なことがなにかわかってくる。この世に常なるものはない。無常という言葉が身に染みる。

 外に出た。立ち上がると予想以上の満腹っぷりに驚いた。ちょっと歩くことにした。

 路地裏を進んでみると古風な文字の刻まれた石碑を見つけた。小学校の脇にあるから校歌の歌詞が記されているらしい。

 どういう意味かはわからなかったけれど、最後に書いてある作詞者の名前には見覚えがあった。

 与謝野晶子。

 そう、あの与謝野晶子!

 近くに与謝野晶子自ら、なぜこの学校の校歌を担当するに至ったのか、説明している文章も掲げてあった。

 要するに、夫である与謝野鉄幹に来たオファーだったけれど、亡くなってしまったので、代わりにやってほしいと頼まれたので引き受けたとのことである。

 そうか。一回、なくなった話であっても、思いがあれば他の誰かが引き継いで、こうして時代を超えて残ることができるのか。

 ふくやもいつか、復活することを願って。

 ふと見上げたら、東京の空に珍しく小さな星が輝いていた。




マシュマロやっています。
匿名のメッセージを大募集!
質問、感想、お悩み、
読んでほしい本、
見てほしい映画、
社会に対する憤り、エトセトラ。
ぜひぜひ気楽にお寄せください!! 


ブルースカイ始めました。
いまはひたすら孤独で退屈なので、やっている方いたら、ぜひぜひこちらでもつながりましょう! 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?