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【映画感想文】令和版グーニーズだし、ゲームMOTHERみたいだし、スタンド・バイ・ミーっぽいし、つまり、みんな好きなやつ! - 『リトル・ワンダーズ』監督: ウェストン・ラズーリ

 もうね、令和版グーニーズと言われたら見に行くしかないよね笑

 なんで、話題になっていないのか不思議なぐらい、みんなが好きな要素が詰まりまくっている映画だった。

 やんちゃな子どもたちがテレビゲームをしようとするも、風邪で寝込んでいるお母さんがテレビにロックをかけていた。なんとかパスワードを聞き出そうとするも、代わりにブルーベリーパイを買ってきてと頼まれてしまう。

 子どもたちはお店に向かうもパイ職人も風邪で休んでいたので購入することができず。仕方ないので、パイ職人の家へ行き、レシピを聞いて、自分たちで作ることにするんだけど、スーパーでラス1だった卵を先に奪われてしまう。後を追い、なんとか取り返そうとするも、犯人はなんと悪い魔女の一味だった!

 ワクワクどきどきのアドベンチャーはまさに『グーニーズ』だし、RPGみたいにクエストをこなしていく構成は糸井重里さんが手掛けた名作ゲーム『MOTHER』シリーズっぽいし、笑いと毒のバランスは『スタンド・バイ・ミー』みたいだし、つまり、みんなが好きなやつだった。

 当然、監督もそのことは意識しているというか、めちゃくちゃオマージュしまくっているので、ずっと「こういうのでいいんだよ」と『孤独のグルメ』の井之頭五郎気分でうなずきながら鑑賞していた。

 あえて映像の質感はレトロにしているし、フォルクローレな音楽を使っているし、キーアイテムを手に入れたときはゲームらしいジングルが鳴るし、いちいち心地よかった。

 そして、なにより子どもたちが可愛い!

 兄弟と大人っぽい少女、お姫様な女の子の四人組なんだけど、みんな、それぞれキュート過ぎる。後半、創作ダンスを踊るシーンがあり、ここがひたすら幸せだった。世界で一番ハッピーなキスにキュンキュンした。

 とはいえ、ビジュアル面もさることながら、なにより凄いセリフまわし。

 魔女たちの車に乗せられた卵を取り戻そうとして、忍び込んだら発車してしまい、知らない山奥へ連れていかれてしまった場面において、誘拐だと騒ぐ仲間にさらっとこんなことを言う。

犯人が誘拐に気づいてなきゃ誘拐って言えないよ

『リトル・ワンダーズ』より

 お兄ちゃんと少女が言い合いになって、取っ組み合いの喧嘩を始めた際には弟が二人を止めるためにこう叫ぶ。

子供かよ

『リトル・ワンダーズ』より

 ちょっとした言葉遊びなんだけど、リズムよく繰り出されるのが素早しく、この辺はゲーム『MOTHER』の影響なのかなぁ、なんて思った。少女の来ているTシャツにアニメ風のプリントがしてあったり、悪いやつらの中に漢字の刺青をしている人物がいたり、日本オマージュらしきものは遍在していたし、間違いなかろうと勝手に合点している。

 ちなみにこの部分も含めて、公式YouTubeで本編映像が無料公開されているので、気になったら、ぜひ見てほしい。この雰囲気、刺さる人には刺さるはず。

 もっと話題になっていい作品だと思う。

 バカバカしさと現実の残酷さが共存していて、子どもが見れば大人になることのビターさを味わえるし、大人が見れば子どもの頃の甘い日々を思い出すことができる。

 あと、現代っぽい生活と魔法が共存している感じも楽しいんだよね。呪文で他人を好き放題にコントロールできる魔女がスーパーの冷凍カニにテンション上がる描写とか、グッときてしまう。本当はなんでもできるんだけど、目立ったら警察に捕まってしまうので、人目を避けなきゃいけない世知辛さが堪らなくいい。

 ツッコミを入れようと思えばいくらでも入れられる。でも、登場人物たちが違和感を覚えていないのだから、観客がそれになにか言うのは野暮ってものた。それって子どもたちのおままごとやごっこ遊びと一緒で、たとえしっちゃかめっちゃかになろうとも、見ている分には微笑ましい。

 そんなおもちゃ箱をひっくり返したような映画を作ったウェストン・ラズーリ監督は今回、『リトル・ワンダーズ』公開に際して来日もしていたみたいなんだけど、取材記事は見当たらず、どんな人物なのかめちゃくちゃ気になる。

 英語版のWikipediaを見る限り、出身地はユタで、カルフォルニア美術大学(CCA)を卒業後、2015年に映像制作会社を立ち上げ、デビュー作が本作『リトル・ワンダーズ』なんだとか。そして、いきなりカンヌ映画祭の監督週間/カメラドール部門に選ばれるなど、インディーズの監督としては華やかなキャリアを歩みまくっているっぽい。

 でも、それぐらいしか情報はなくて、アメリカでもまだまだ未発掘の状態なのかもしれない。ひとつ、取材に応じている記事を見つけたけど、これを読むと大学では美術やデザインを勉強し、映画について学んだわけではないことがわかる。そのことがいい意味で作用しているからこそ、最新の技術を駆使するのではなく、監督本人が馴染み深い懐かしい映画の参照によって『リトル・ワンダーズ』の独特な世界観が成り立っていると筆者は分析している。ここでは『E.T.』にも似ていると言及されていた。

 調べても年齢は出てこないけど、写真の見た目から判断して三十代なのかな。たぶん、若い。だから、今後、どういう作品を制作していくのか、とても楽しみ。

 たぶん、カルトな人気を集めていくんじゃないかなぁ。なんとなく、『リトル・ワンダーズ』を見ていて、ピーター・ウィアー監督の『ピクニックatハンギング・ロック』を思い出した。

 内容は全然違うけど、低予算で現実と非現実の境目を行ったり来たりするような幻想的世界を生み出した点、似ているように感じた。ピーター・ウィアー監督の場合は『ピクニックatハンギング・ロック』が評価された後、自分の人生が知らないうちに全世界にテレビ放送されていた男の話『トゥルーマン・ショー』を手がけた。

 ウェストン・ラズーリ監督もアイディア勝負で映画史に残る一本を作り出しそうな雰囲気に満ち満ちている。これはずっと追いかけていきたい。




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