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【料理エッセイ】毎月1日は「釜揚げうどんの日」だから丸亀製麺で釜揚げうどんを半額で食べてきた!

 毎月1日は「釜揚げうどんの日」だから丸亀製麺で釜揚げうどんを半額で食べてきた。この半額が半端ない。だって、釜揚げうどんを170円で食べられるんだもの。

 このキャンペーン、いつもバグってるなぁと思う。普段からそんなに高いわけでもないのに、それを半額って、どういうことだよって。ただ、それゆえ、毎月1日の丸亀製麺はめちゃくちゃ混んでいる。

 列に並んでいるとほとんどの人は釜揚げうどんを頼んでいた。当たり前だ。なのに、そんな中でも料金の変わらない明太釜玉うどんを頼んでいる人もいる。

 カッコいいなぁと感じる。硬派だなぁって。こんなに釜揚げうどんの空気が蒸気と一緒に満ち満ちている環境で自分が好きなものを普段通り頼めるなんて。わたしには無理だ。

 とはいえ、天ぷらについてはちょっと頑固を出してみた。店頭にかき揚げが並んでいなかったので、黙って待つのではなく、キッチンに声をかけてみた。すぐに揚げたてを出してくれた。あとはエビ。この二つは欠かせない。

 うどんと天ぷら2種類で500円ぐらい。ありがたや、ありがたや。この物価高時代の外食とは信じられない。味はもちろん美味しい。

 コシの強いうどんも、水で冷めなければフワフワ。甘いつゆとの相性は抜群。食べ進めてからネギを入れたり、七味を入れたり、味変しながら楽しんでいく。ちなみに天ぷらは塩でいく。小賢しいのはわかっているけど、サクサクのままにしておきたいんだよね。

 丸亀製麺が讃岐うどんを代表することに批判があるのは知っている。実際、旅行で香川県に行ったとき、製麺所で食べた讃岐うどんと比較しても、最近、都内に増えてきた本格讃岐うどんのお店と比較しても、たしかにけっこう別物。ただ、半額の日にそんな論争はどうでもよくなってしまう。

 振り返れば、わたしにとっての讃岐うどんは常に安さと密接な関係にあった。中高生の頃、少ないお小遣いの中から外でお昼ご飯を食べるとき、これでもかって重宝しまくった。

 なお、客観的に見れば、これまで讃岐うどんは何回もブームになってきた。最初は1960年代、後に総理大臣となる大平正芳が町おこしを仕掛けたという。折しも小麦の輸入が始まる頃で国産の小麦を守ろうという機運にマッチ。各地の物産展で讃岐うどんが販売されたとか。

 そして、1980年代後半の瀬戸大橋開通にまつわるブームで、1990年代の田尾和俊の著書『恐るべきさぬきうどん』によるブームと続き、基本的に讃岐うどんは香川県の観光促進ツールとして大きく機能してきた。

 2000年代、はなまるうどんが現・吉野家ホールディングスと資本・業務提携したことを皮切りに東京進出を果たしたことで讃岐うどんを巡る状況は一変する。讃岐スタイルと呼ばれるセルフのうどん屋さんがどこでも通用すると証明されたのだ。

 その上、2006年公開の映画『UDON』の宣伝に伴い、讃岐うどんがメディアをジャックしたことで、身近に追体験できる場所としてセルフのうどん屋の需要が急拡大。

 あっという間に讃岐スタイルを模倣するお店が爆発的に増加した。丸亀製麺もその中のひとつとして兵庫県で誕生している。

 こうして讃岐うどんはブームを突破し、国民食としての確固たる地位を得るに至ったわけであるが、この時代を中高生として生きるわたしにとっては経緯なんて知る由もなく、ただ、ひたすら安さに魅了されていた。

 はなまるうどんのかけ上100円はなによりも衝撃的だった。あの頃、マクドナルドのハンバーガー59円とか、吉野家の牛丼270円とか、デフレを極めに極めまくっていたけれど、うどんはボリューム的に価格的にも個人的にちょうどよかった。商業施設のフードコートみたいなところに入っていたのも嬉しくて、中学生の頃はアホみたいにリピートしたものだ。

 高校生になると土曜日、授業の後にみんなでご飯を食べにいくことが定番だった。ただ、あまりお金のないわたしは毎回付き合うことが難しく、定期的に用があるからと断っていた。そんなときは八王子の古本屋で澁澤龍彦の文庫本を購入し、黄色い看板がやたらうるさい讃岐うどんのお店で280円の釜揚げうどんを食べてから、ドトールで夜まで読書に勤しんだ。

 バイトもせずに、悠々自適に過ごせていたのはデフレのおかげだったとよくわかる。労働する側になるとこんなに苦しいことはないけれど、消費者として生活する分にはめちゃくちゃ有利な時期にわたしは思春期を過ごすことができた。その象徴こそ、讃岐うどんだったのである。

 はなまるうどんのかけ小もいまでは330円。マクドナルドのハンバーガーは170円で、吉野家の牛丼は498円。古本屋だって街から消えまくっている。図書館で勉強することも禁止になりつつあるし、中高生がお金をかけずにぶらぶらするってことがどんどん難しくなっているなぁと感じる。

 そんな中、月一回であっても、釜揚げうどんを170円で提供している丸亀製麺はめちゃくちゃ凄い。ずるずると麺をすすりあげているとほのかに2000年代の香りが広がるような気がする。

 無論、大人になってしまったので、デフレがいいとは言えないけれど、インフレにしんどさを覚える昨今、ほんのちょっとデフレに懐かしさを見出してしまうのも本当なのだ。

 お金について、わたしはすべてをみうらじゅんの言葉から学んだので、デフレについても探すものだと信じている。

 毎月1日、丸亀製麺に行くと「あ、デフレだ!」ってデフレと再会することができるので好きだ。「俺の隣にデフレが座ってるなう」を体験することができる。




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