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【料理エッセイ】世田谷美術館に展示されたアンドレさんの絵を見て、成城櫻子で「おきまり」を食べ、家で海賊おじやを作ったよ

 ペペ・アンドレさんの絵が世田谷美術館で展示されていたので見てきた。

 どれも素晴らしく、特に渋谷駅を描いた作品の独特な構図と可愛らしいタッチが最高だった。銀座線やスクランブル交差点をこういう角度が捉えるって面白い。

渋谷地下鉄銀座線 TOTTEMOIIー賞(世田谷美術館館長推賞)
渋谷スクランブル交差点

 青い花という絵はノヴァーリスの小説を元ネタにしていて、画面左側にはブリューゲルの『雪中の狩人』を、右側にはドビュッシーの踊り子をイメージしているらしい。それぞれ三つずつで構成されているため、しっかりとした安定感がある。

青い花

 さらには銅版画にも挑戦していて、如意輪観音の色気が好きということで、その艶かしさを強調するような描き方をしていた。そこにワンポイント、サイとキリンがいるあたり、魅力的だ。

犀 麒麟 如意輪観音核の外

 アンドレさんは元祖日の丸軒という中級ユーラシア料理店のマスターで、わたしは長いことお世話になっている。過去にもいくつか記事で紹介してきた。レシピなんかも教えてくれる。

 いまはお店を閉じてしまって、絵を描くことに専念している。それが美術館に展示され、鑑賞できるというのはとても嬉しい。

 会場であれこれ話した。わかりやすい題材の方が見てもらいやすくなるんじゃないかという発想から、渋谷駅周辺を描くことにしたんだとか。自分の知っている風景だからこそ、あそこがどうとか、ここがどうとか、説明しなくても鑑賞しやすくなるので利点である。

 パッチワークみたいな構成にするのも同様の理由。どこかで知っているものだから、よさを一瞬で共有することができる。本歌取りというやつだ。

 他にもたくさんの人が作品を展示していた。世田谷美術館は市民の芸術活動が盛んなようで、油彩や版画、彫刻、コンセプチュアルアートに至るまで、様々なジャンルがそろっていた。そして、どれもレベルが高くて驚いた。

 西洋画と日本画が並んでいたので、見比べて、その違いを考えるのも楽しかった。特に目立っていたのは余白の有無。このあたり、叙事詩と短歌や俳句の差に通じるものがあるのかなぁ、なんてことを思った。

 また近々お会いしましょうと約束し、わたしは成城学園前に移動し、駅前の甘味処・櫻子でお決まりを食べた。このお店、江國香織さんの『流しのしたの骨』に出てくることで知られている。

 ちょっとずれた家族のお話で、一見すると平和な日常なんだけど、よく考えるとヤバいのでは? というバランスが絶妙な小説ですごく面白い。

 櫻子はみんなで街に出かけたとき、それぞれが用事を済ませた後、待ち合わせする場所として登場する。こじんまりとした店内にちょこんと座って、白玉やところてん、おしるこを食べるのがなんだか可愛らしかった。

 お昼、数量限定で「おきまり」というランチをやっていて、これが堪らなく美味しい。まるで精進料理のような野菜を中心とした定食なんだけど、上品な味付けが滋味深く、栄養が身体に染み渡る感覚に浸ることができる。

 今回はひすいご飯だった。銀杏ご飯をそう呼ぶらしい。出汁をたっぷり吸ったカブも絶品だった。

 今年の銀杏は少し黄色なんだとか。例年はもっと緑らしく、だから、翡翠ご飯なのかと納得した。ただ、味はしっかりしていて、一口噛むたび、ほどよい苦味が鼻を抜けて心地よかった。

 こういうご飯を作れるようになりたいなぁと、毎回、ハッとさせられる。肉も魚も使っていないのに、様々なきのこを組み合わせることでこんなに満足度を高められるとは。つい、塩味や甘味に頼りがちだけど、酸味や苦味を駆使すれば、同じ食材でも全然別の表情を引き出せる。

 せっかくなのでデザートもつけた。『流しのしたの骨』にも出てきた田舎じるこを。コクのある粒あんは甘過ぎず、香ばしく焼かれた餅との相性抜群だった。箸休めの昆布も嬉しい美味しさ。

 その後は諸々の買い物をして、家に帰ってゆっくりしてから、夕飯を作った。スーパーで魚介類が割引になっていたので、日の丸軒があった頃、すごく好きだった海賊おじやを再現してみた。

 要するにブイヤベースにご飯を入れたものなんだけど、アンドレさんの「海賊おじや」というネーミングがめちゃくちゃいい。同じ料理でも、なんて呼ぶかで食べたときの印象も変わってくる。

 考えてみれば、名物料理って、名付け方にきらりと光るものがあるような気がする。うちの近くに鉄板麺という料理を出している人気の定食屋さん、大盛軒がある。ぱっと聞いたら、焼きそばが出てきそうだけれど、実は鉄板焼きとラーメンのセットなのである。

大ボリューム!
でっかいタバスコをばかすこかけて食べる

 これも鉄板焼き定食のラーメン付きだったら、なんてことない印象で、名物にはなっていなかったかも。頭に残る言葉ってめちゃくちゃ大事。

 そういう意味ではアンドレさんの日の丸軒には海賊おじやを筆頭に、ターメイヤとか包みピザとか、魅力的な料理がたくさんあった。未だに思い出し、また、いろいろ食べたいなぁと懐かしくなる。 




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