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真夜中に見た、デンチャーズ

最初にそれを見たのは小学4年生頃だったと思う。

真夏の夜。夜中に目が覚めて水が飲みたくなり、ふらふらと台所に行くと
テーブルの上にある物が見えた。

常夜灯を頼りに近づいてみると、マグカップの中にピンク色の歯茎と歯があった。
「えっ、歯?」と慌ててしゃがみ、上下左右からまじまじと眺めたが
やはり、どう見ても歯である。

「なんでここに歯があるの???」

見てはいけないものを見てしまったのかもしれない。
部屋に戻った瞬間にお布団をかぶってブルブルと震え、
「歯が襲ってくるかもしれない。。。そうだ。今、わたしの歯はあるの?」と自分の口を開けて確かめる。
ゴツゴツとした歯の手触りがあって安心したが、その後は怖くてしばらく眠れなかった。

翌朝、寝ぼけまなこで「台所に歯があったという夢を見た」母に言うと、急にソワソワした様子で

「歯を見たの?」
「うん。大きな歯があった」
「あぁ、それは夢じゃないよ。それはお母さんの歯なの」

「えええーーーーーーーーーー」

母が言うには、20代の若かれし頃にお肉屋さんに住み込んで働き、朝から晩までとても忙しくて歯を磨く時間がなかった。
ついには虫歯だらけになり、部分入れ歯になったとのこと。

「こうなったのは、自分のせいだけど辛いわ。歯の大事さを痛感するわね。それにしても、いきなり入れ歯を見てびっくりしたでしょう」
入れ歯と言われても実感がなかったが、単純に自分の歯じゃないお母さんがかわいそうだと思った。

かわいそうという感情から、そうならないようにしないといけないと気づいた頃、給食の後に友だちに話をした。

「歯は磨かないと自分の歯じゃなくなるって知ってる?」
「えー、自分の歯じゃないってどういうこと」
「入れ歯をするんだよ」
「入れ歯ってなに?」
という会話を繰り返し、歯磨きの重みを力説し始めた。

決して母親が入れ歯をしていることは言わずに、歯磨きは習慣としていかに大事であることを言い続けていたら、いつの間にか健康委員になっていた。(されていた)

友達に広めるためには自分の歯もていねいに磨くことを心がけ、中学までは虫歯ゼロを達成した。だが、高校に入ったら部活で忙しくなって虫歯がひとつできた。

「お母さん、虫歯ができちゃった。ごめんね」
「今までよく頑張ったよ、えらい!」と労いの言葉をかけてくれた。

母が身をもって体験したことを忘れかけていたが、それからは気を緩めずに歯磨きを丁寧に習慣づけた。

忙しいからと言って、歯磨きを決しておろそかにしてはいけない。
1回のゆるみが、次々と連鎖していくことがあるから。

未来の自分をつくるのは、いつも、今のわたし。











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なべとも
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