ずる賢さがのび太並み
近所の農家のガレージの片隅にある無人野菜市に、えだまめが並び始めた。
この無人野菜市は、毎年夏に、えだまめ、とうもろこし、きゅうり、ナスなどがすこしずつタイミングをずらしてならび、朝晩すごしやすくなったと感じはじめるころに閉鎖される。
その土地でそのとき収穫できるものを、その日に買って食べると、こころなしか生きている実感が強まるのはなぜだろう。
とにかくその野菜市でえだまめは人気で、近所のひとたちがどんどん買うので昼にはなくなってしまう。
ゆうべ寝る前に、長男と、明日の朝8時か9時には野菜市に行ってきゅうりとえだまめを買おう、と約束して寝た。その宵越しの約束を、ゆうべ酔っぱらっていたわたしは今朝忘れていたのに、長男は覚えていた。
日々わたしがてきとうにやり過ごしてしまう約束も痛みもよろこびも、まだ6歳の長男はあますことなく受けとめて、咀嚼して、成長していく。
* * *
長男と次男はひとりひとつ貯金箱を持っていて、ずぼらなわたしがバッグのなかにじゃらっと入れたままの小銭やなんかをときおり入れてやる。
野菜市にえだまめときゅうりを買いに行くときなんかに、わたしが小銭を借りたりもする。
長男の貯金箱はもうだいぶ重く、次男のは軽い。
昨日豆アジの南蛮漬けを作ろうと思って豆アジのあたまと内臓をひとつひとつ取っていたら、リビングで兄弟がひそひそ話をしていた。
長男が「どろぼうごっこしよう。」と次男を誘い、兄とあそべてただうれしい次男は「いいよー!」とノリノリで小躍りしている。
・・・どろぼうごっことはなんぞや?
長男が次男に説明するルールに聞き耳を立てる。
どうやら、貯金箱の中身をそれぞれ全部出して、いっせーのでできるだけたくさんの小銭をあつめて自分の貯金箱に入れる、入れたぶんは自分のものにしてよくて、相手の貯金箱に入っていた小銭を盗んでもいい、とのこと。
おお!ずる賢さがのび太並みだ!
結局次男はすこし軽くなった貯金箱を大事そうに抱えてお片付けしていた。
きみが「にーにに騙されてくやしい」と気づくのと、にーにが弟も別の人格を持った尊重すべき他者であると気づくの、どちらが早いだろうか。