『音楽は自由にする』坂本龍一自伝読了
『天才はいない。天才になる習慣があるだけだ。-インプット・ルーティン-』(菅付雅信著・ダイヤモンド社刊)を読んで、生前の坂本龍一氏のすさまじい読書を始めとしたインプットの質と量を垣間見て、クリエーターの本質に迫る気がして、一市民として、かなりしびれました。
坂本龍一氏が、死の直前に、老子などの中国の古典思想にも触れていたとの記述に触れ、『老子』(岩波文庫刊)も買って読んでみました。
※上善水の如し、千里の道も一歩から、なんて言葉も、老子由来だったんですね。読み終えるまでは、知りませんでした。
そして、本屋でウロウロしていたら、坂本龍一氏の初の自伝に出会いました。
『音楽は自由にする musik macht frei』(坂本龍一著・新潮文庫刊)です。
2009年に単行本として発刊された本ですが、表紙の帯には、死を前にしてと思われるコンサート映画における坂本龍一氏の写真が載っています。
坂本龍一氏は、1952年生まれで、2023年に71歳で亡くなっていますから、死を前にしてと思われるその写真もそのあたりでしょう。
しかしながら、帯に載る坂本龍一氏の写真は、近頃世間の71歳にしては年老いて見え、80歳代後半と見間違うほどの「老い」が漂っています。
坂本龍一氏の全くの白髪であることと、顔に漂う張りのなさや皺は、その人生において重ねてきた辛苦を物語るようで、何だか少し悲しみさえ感じます。
坂本龍一氏の自伝を読む限り、ものすごい知性と才能を感じますが、同時に、ものすごいスピードで、高い質の仕事を、大量に成し遂げてきたことがわかります。
自伝には、自分は怠け者であるとの記述も見受けられますが、そんなことはあり得ないとすぐわかるような大量の仕事を成してきたことが、本の端々から伝わってきます。
冒頭に挙げた『天才はいない。天才になる習慣があるだけだ。-インプット・ルーティン-』を読んで、坂本龍一氏のクリエーターとしての創作の秘密は、その大量のインプットにあるという事前知識がありましたが、この質がともなった大量のアウトプットは、まさにそのとおりだなと感じ入りました。
ただ、71歳と今の時代では、高齢者とも言えない年齢で亡くなったのは、ひとえに、働き過ぎだったのではないかと、自伝を読んでいて、改めて思いました。
とにかく、幼い頃から、自伝のできる56歳時まで、坂本龍一氏自らが「馬のように元気」に働いたと言うように、とにかくよく働いています。
それが、亡くなる前のポートレートから、実年齢を超えた著しい「老い」を感じさせる大きな理由だったのではないか、強く推察させられます。
自伝からは、冒頭で掲げた本のとおり、大量のインプットを行ってきた人生であることもわかりますし、同時に、本当に大量の仕事を、ものすごいスピードでこなしてきた人生であることもわかりました。
ちなみに、漫画界の不世出の巨匠、手塚治虫氏は、1989年に60歳という若さでなくなっていますが、この天才漫画家も、大量のインプットと大量のスピード・アウトプットで鳴らしたものですが、やはり、天才といえども、ムリにムリを重ねた人生は、早死にを招いたのではないか、そんな気がいたします。
坂本龍一氏は、自身を作曲家のドビュッシーの生まれ変わりではないかと言っていますが、そのような天才(の生まれ変わり)であっても、創作において、ムリにムリを重ねた人生は、一般人と異なる早死にを招いたのではないか、そんな気がいたしました。
文庫本の表紙の帯に載った坂本龍一氏の写真の中に「老い」を見出せば、私の言うことにも理ありとみなさんも思うと思いますよ。