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沖縄から貧困がなくならない本当の理由

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樋口 耕太郎(2020).沖縄から貧困がなくならない本当の理由 光文社

本書紹介 from 光文社

沖縄の根本原因を突き詰める旅は、日本の根本原因を突き詰める旅であり、そして、私たち自身を見つめる旅である。

*目次*

はじめに 沖縄は、見かけとはまったく違う社会である
第1章 「オリオン買収」は何を意味するのか
第2章 人間関係の経済
第3章 沖縄は貧困に支えられている
第4章 自分を愛せないウチナーンチュ
第5章 キャンドルサービス
おわりに これからの沖縄の生きる道

本書感想

 沖縄出身の私にとって,沖縄をめぐる話はどうも自分をえぐられているように思えて素直に読めないところがあります。私自身も私がわからないのに,どうして他者にわかるのだろう,と。もちろん,他者から見た方がわかることもありますが,そもそも「本当の私(あなた)は〇〇だ」と言われること自体に違和感もあります。

 ですので,私はまだ本書をうまく読み込めていないと思います。「自分探し」をされていると思わず,なるべくフラットに読もうと心掛けはしましたが,おそらく上記の理由から,猜疑心を持って読んでしまった部分もあるように思います。そのうえでの感想です。

 本書の主張を大胆に心理学用語で要約するとこうなるでしょうか。

学習性無力感に陥った沖縄あるいはそこに暮らす人々は,自尊心も低く,それによって多くの(あるいはすべての)社会問題が引き起こされている。自尊心を回復させることが社会問題の解決の肝であり,そのためには共同注視と,それを行う一人一人の取り組みが必要である。

 本書全体を読んで第1-4章の印象も変わりました。第5章がなければ,つまり著者の考えていることが見えなければ,「根本原因」と著者自身で言っているにも関わらず,「沖縄に生じている問題」を「沖縄の問題」にすり替えるように思えたためです。

 おそらく著者は,「沖縄に生じている問題」を「沖縄の問題」にしたいのではなく,その先の社会を考えているように思います。すなわち,より人間が自分の可能性を試せるような,そのような社会をどうやって創造できるか,そのために「沖縄に生じている問題」を「沖縄の問題」として位置づくかのように見せ,その先に行くためのリソースとして考えているのではないかというように感じました。

 もしそうであるとしたら(※1),著者の主張は基本的に賛同しますし,大切なことだとも感じます。著者自身も言うように,今後のポイントは,状況の影響に弱い個人という存在を,共同注視をする存在へと変える状況づくりをいかに行っていくかです(※2)。難問ではあると思いますが,「次の私の課題は,「第三のデザイン」を具体的に描き,現実社会で形にすることだ」(p.227)と述べているように,本書はあくまで「開始宣言」。次の著者の「結果報告」はどのようになるか,不安と期待が入り交じりながら待つばかりです。本書がただの啓蒙にならないことを祈っています。

(※1)そうでないとしても,その正しさに異論の余地はありますが,社会分析自体は大きく外れていないと思います。
(※2)「自分を愛する人=自尊心の高い人」を育むことがその道だと著者は考えていると思うのですが,個人的にはなかなか難しいことなのではないかと思います。なぜなら,「自分を愛せないこと」もまた人間の本質だと考えるからです。個人的には,「愛すること」と「愛せないこと」の往復をどう考えるかが大切な気もしていますが,まだうまく言語化できていません。

ページ数から見る著者の力点

 本書ははじめに+5章+あとがきで構成されています。各章のページ数は以下の通りでした。

図1

 構造的問題に着目する必要性を説く導入が第1章,続く第2章と第3章はその構造的問題を示し,第4章はそれから生じる結果としての自尊心の問題に触れています。その後,第5章でその自尊心の回復の方法を説き,それが構造的問題の解消につながることを論じます。

 現状から目を背けるな!と力説し,本書の世界に引き込むために,第1章のボリュームが厚くなり,今後の未来を考えるヒントはここだ!を力説したために第5章が厚くなったのかなと思いました。

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642字

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