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#10 「絶望の時代」の希望の恋愛学

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宮台 真司(編)(2013).「絶望の時代」の希望の恋愛学 中経出版

本書紹介 from KADOKAWA

僕らはもう、「恋愛」で幸せになれないのか?

非モテ、負け犬、草食系男子、アイドルブーム、「非婚」……「不幸な時代」の男と女を、ミヤダイが斬る! 人間関係と社会に絶望している君に贈る、恋愛と社会の教科書。

本書感想

やはり経験は机上に勝るなと思いました。ナンパについての話,性愛についての話ですが,実経験を伴っている分,言葉に説得力があります。「人間は考えも肉体で行なっているもの」(p.238)と述べられますが,まさにその通りで,頭だけで「ナンパとは何か」「性愛とは何か」だけ考えていてもどこにもたどりかないわけです。肉体(=経験)を使いつつ,頭(=言葉)も使う。本書はまさにそれを実践しています。

プロローグ,第1部は難しい言葉も出てきますが,第2部はトークイベントが元になっているということもあって読みやすかったです。

トークイベントとは「宮台真司の愛の授業2012」というもので,社会学者の宮台真司とゼミ生の立石浩史,ナンパカメラマンの鈴木陽司,若手カリスマナンパ師の高石宏輔と公家シンジ,女ナンパ師のサユリ,隠れ超越系のナオミ,ナンパ指導を受けた非モテ系大学生のバリア君が登場します。

第二部の冒頭は宮台氏が話しすぎではないか?(宮台パートが多すぎではないか?)と思いましたが,読み進めていくうちに高石氏や公家氏の語りが増えてきて,宮台氏の一人語りではない場の”空気感”みたいのがなんとなく伝わってきました(宮台氏が話しすぎていたのも戦略かも?と思われた)。ただ,サユリやナオミの語りが少なかったので彼女たちの声も聞きたかった部分もあります(当日のトークイベントでは話したのかもしれませんが)。

本書で語られるナンパと性愛の鍵は<変性意識状態>。登壇者の一人である高石氏(カリスマナンパ師/カウンセラー)によると変性意識状態とは「自分の好奇心と,ときに現れる恐怖心とも向き合いながら,新しいものを求めていく過程で得られる特別な意識の状態」(p.132)とされます。心理学で言うと,フローに近い状態かもしれません。

ナンパの過程で<変性意識状態>になり結果として忘我のうちにナンパしてしまっている。セックスに取り組むうちに<変性意識状態>になり結果として深い=獣のようなセックスをしてしまっている。ナンパ学ないしはセックス学とも言えるような話が本書では出てきます。ちなみに,セックスに関する話は,アダム徳永氏とも共鳴するように思いました。

テクニック以外でナンパや性愛を言語化している本としてとても興味深く拝読いたしました。ただ,少し物足りなさもあって,それは概念の焼き増し感です。たとえば,島宇宙は以前(援交少女の分析時)から宮台氏が用いていますし,非日常(これは<変性意識状態>にも関わりますが)概念の重要性もこれまでに言われていることのように思います。トークイベントを書籍化した本書に求めすぎてしまってすみません。それくらい面白い本でした。

ページ数から見る著者の力点

本書は第1部+第2部(5章)の6章ありました。プロローグとエピローグを含めると計8章ありました。各章のページ数は以下の通りです。

絶望の時代の希望の恋愛学ページ数

第5章「「非モテ」は吠えるが愛のキャラバンは進む」のページ数が58ページで最多でした。本章は他の章と異なり,フロアとの質疑応答がメインで構成されていました。質疑応答では登壇者だけでなく,質問者の話も載せているので,その結果,ページ数が多くなっているのかなと思いました。もちろん,質問されたから答えが饒舌になるという部分もあるのかもしれません。

それにしても質問者の質問を無に帰すような回答をしていて「バッサリ斬って爽快だな」と思う反面,登壇者と質問者とには非対称性がある(登壇者は時間に比較的余裕があり,自分語りを色々とできる反面,質問者は時間がほとんど取れず,説明の言葉が不足する)ので,その点を考慮してあげても良かったのかなと思ったりもしました(イベントでは考慮していたのかもしれませんが)。

*目次*

── プロローグ 社会に適応するから絶望するんだ。社会に抗う術を身につけよう
─── 本書の出発点:伝説のナンパ講座
─── 性愛への関心を失ってはいけない
─── エロと科学が同時並行する混乱期
─── 混乱期に上昇する反啓蒙的思考
─── 通常的生活を送ることで負う義務
─── 性愛の知恵のない国民の外交音痴
─── <恨みベース> or <希望ベース>
─── 社会に抗い<希望>の歌を唱おう
第1部 恋愛絶望社会,日本
─── 「ビッチ」という後ろ指を恐れる
─── 性的に過剰な女子がイタくなった
─── リアルにこだわる男子もイタイ
─── オタク領域でも生じたイタサ回避
─── 何事につけ過剰さがイタイ時代に
─── 過剰というイタサを回避する理由
─── [社会への適応] = [性愛への絶望]
─── 体感から属性へのバックラッシュ
─── 近代は開かれた身体性を抑圧する
─── 性と政治の変性意識状態の等価性
─── 家族と国家の変性意識の不可欠性
─── あなたが生き残るのに必要なもの
─── 実践だけが切り開ける<内発性>
─── 進化論的な生存戦略から見た評価
─── おまけ:マニュアルがダメな理由
第2部 性愛から,社会が見える
─ 第1章 ナンパ の極意は<変性意識状態>にあり
─── フィールドワークとナンパの類似点
─── 初恋の失敗を取り戻すためのナンパ
─── 自己啓発と宗教とは共通する
─── 東大は「性的なカオス」だった
─── 自己啓発化する現代のナンパ
─── 感覚が閉じている「マグロ女」
─── タブーが「性」を非日常にした
─── 園子温に学ぶ変性意識獲得法
─── 今はナンパがしやすい時代だ
─── 理性や技術でナンパはできない
─── ナンパは黒光りした戦闘状態でやれ
─ 第2章 「非日常」への扉を開けよ
─── ナンパのおかげでフィールドワークできた
─── 趣味の合致が変性意識状態へのフック
─── 女の子が変化する劇的な瞬間の感激
─── <内在系>と<超越系>の違いを見極めるべき
─── 「あり得ないことが起こっている」という感覚
─── 誰もが<ここではないどこかelse-where>を望む
─── 成功するナンパと失敗するナンパを分けるもの
─── 心象風景が立ち上がる地方/対人恐怖症の東京
─── 中国やタイとかつての渋谷に共通する微熱感
─── 渋谷のスクランブル交差点で仁王立ちできるか
─── <瞬間恋愛>という究極体験を知らずに死ねるか
─── 数を稼ぐか,それとも奇蹟的体験を目指すか
─── この世は見かけによらずワンダーランドだ
─── 童貞を卒業すると男子の人格が変わる理由
─── かわいい女子とエッチするのは最高なのか
─── 数を稼ぐな,自分を掘り下げよ
─── 一見身持ちの堅そうな女子の本心とは
─── 「沸騰しにくいけれど温度が高い」女子
── COLUMN-1 変性意識状態とは何か?
─ 第3章 女性は男たちのことをどう考えているのか?
─── もしコミュ障の童貞男子がカリスマナンパ師にナンパを教わったら
─── 「最初の1秒」を学ぶには塾講が一番だ
─── 安定したテンションをどう維持するか
─── 女子は「ナンパ」をどう感じているか
─── 「自己言及ツイート」をやめなさい
─── 人間関係が期待外れなのは当然だ
─── 自己防衛系男子は愚痴のゴミ箱だ
─── 相手のニーズに合わせたら失敗する
─── スティーヴ・ジョブズに学ぶナンパ
─── 仕事ができる人,ナンパができる人
─ 第4章 自分の内側から湧き上がる力,<ヴァーチュー>を覚醒させよ!
─── <ヴァーチューvirtue>とは何なのか
─── <ヴァーチュー>はどこから湧くのか
─── 宮台真司がフィールドワークしたわけ
─── 「構造的必要性」の自覚から始めよ
─── 「人目を気にする」のと「自分を感じる」のは違う
─── 女性の過去を知ろうとしない男はやめておけ!
─── 「母親探し」をするためのナンパはやめておけ!
─── マザコン男はAKB48が好き?
─── 女子を<物格化>する男子たち
─── 「処女厨」は女子から認められない
─── 男子と女子で性に対する感覚が違う
─── 自分の欲望や心の動きを表現するべきだ
─── 「高偏差値女専門ナンパ師」が生まれた理由
─── これからの「本当のセックス」の話をしよう
── COLUMN-2 重力としてのトランス状態の中で他者と向かい合う
─ 第5章 「非モテ」は吠えるが愛のキャラバンは進む
─── 「ヒーローのまねごと」をしても意味がない
─── 声かけ,前から行くのか,横から行くのか
─── 「ナンパ場所や時間帯はどうすればいいか」
─── 男子の欲望を受け止めてしまいすぎる女子
─── 恋愛,性愛,ナンパ──その可能性のゆく先
─── 「祭りのセックス」「愛のセックス」「ただのセックス」
─── 次の「ステージ」で関係性が変化する
─── 宮台真司はいかにしてナンパをやめ(られ)たのか
─── 「依存関係」をどのように断ち切るのか
─── 断られたときに傷つくのが怖くて,声をかけられない
─── 女子だってナンパしたい!
─── 女子の「素の良さ」をどう引き出すか
─── 頭でっかちなナンパじゃ「幸せ」にはなれない
─── 性的トラウマを負った男子の回復は可能か
─── 「ナンパはゆきずりだから傷つかない」ってホントか
─── セックスに幻滅した女子が多い今こそチャンス
─── 研究者であること,ナンパ師であること
─── それで結局,どうすれば愛に至れるのか
── エピローグ <物格化>から「人格化>へ──<恨みベース>から<希望ベース>へ──
─── <物格化>のイヤな匂いに満ちた暗さ
─── 風俗労働に参入する女たちの動機分布
─── <物格化>をもたらす<親への恨み>
─── 男子と女子が互いに<物格化>し合う
─── <親への恨み>と<物格化>の結合態
─── <親への恨み>はそれでも希望がある
─── <人格化>をどうすれば達成できるか

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仲嶺真
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