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複雑怪奇

家内のこだわりポイントは、ポイ活と、クーポンと、節約である。そして時に、それは、エスカレートして、複雑で、ついて行けないミッションに繋がる事がある。

何度か、そういうことを記事にしてみたが、今日と明日の2日間で、少し前のことだが、家内のこだわりミッションに負けそうになったことを、書こうかと思う。



2月の末、次女の要望があり、新しい、少し、グレードの高いドライヤーを、家内と私は、探していたのだ。

1万円以上と、なかなかの値段だったので、ネットも調べ、近隣の電気屋さんの広告も調べて、時間をかけて、何とか少しでも安く、グレードも高いものをと物色していた。

2月も末になり、だいたい、機種と値段が固まって来たのだが、目当てのものの、Amazonでのタイムセールを逃してしまい、月末にリニューアルオープンする、近隣の電気屋に朝から並んで手に入れることになった。


朝、10時開店なので、8時過ぎには着こうという計画を、実行に移した。

到着すると、かなりの数の車が、既に駐車場に駐まっている。

心の中の、リトルkojuroが、不安そうに呟いた。

まさか、全員が、ドライヤー狙いじゃ、ないよね。

もう、長蛇の列ってことは、ないよね。


車を降りてすぐ、電気屋さんに向かう。すると、まだ、並んでいないではないか。

心の中の、リトルkojuroが、嬉しそうに呟いた。

やったぜ、これならば、買えるぞ。


早速、家内と2人で、並ぶ。

だがほどなく、家内が怪訝そうな声で、ボソッと言った。

列が、ふたつ、ある。おかしい……。

そして、家内は、すぐ前に、一人だけ並んでいた、若い男性に声をかけた。

お兄さん、この列は、なんの列?

すると、その、若い男性がこたえた。

ここは、ホビーの列です。家電は、たぶん、あちらです。

そう言って、対面にある、無人の列を指さした。


家内と私は、その、若い男性に礼を言い、家電の列に並び直した。家電の列では、最前列だった。

心の中の、リトルkojuroが、嬉しそうに呟いた。

なおさら、ゲット確実になったな。


だが、また、ほどなく、家内が、いぶかしげに呟いた。

ドライヤー、限定品リストに載っていないのよね……。

私が確かめると、確かに、店頭の限定品リストには、掲載されていなかった。

すると暫くして、店員が、声掛けにやってきた。

開店まで、いましばらく、お待ち下さい。こちらが、家電製品の列。あちらが、ホビーの列です。お間違いないように、お並びください。


家内は、その機を逃さなかった。

ねえ、店員さん、このハガキの、これ、ドライヤーなんですけれど、ね。店頭の限定品リストに載っていないのだけれど、得値で売り出されますよね。

店員は、丁寧に、このハガキは、優良顧客向けの、シークレット限定品であり、間違いなくドライヤーは、限定販売されると明言してくれた。


開店まで待ち、時節柄、5組ずつ、ゆっくりと、店内に案内される。

私と家内は、小走りに、ドライヤーを、即座にゲットした。

心の中の、リトルkojuroが、ホッとした声で、呟いた。

ミッション、ほぼ終わったぞ。


家内は、現金なものである。他に、気になる特売品が無いかを入念に確認すべく、店内を、小走りに、巡回していった。

そして、かねてから欲しかった、自分専用のコードレスイアホンを、買い物かごに追加した。



さて、帰れると思ったのも束の間。実は、ここから、試練が待ち受けていた。

レジに並ぶ前に、家内に、呼び止められた。そして、重大なミッションが、告げられたのである。

目の前には、いつもの、マイクロテープが置かれている。

お疲れ様。コジくん。

今回のミッションは、ポイ活とクーポン、そして、キャッシュレス決済を、全て活用し、超得値限定商品のドライヤーを、さらにお得に購入することを、実行して欲しい。

ひとつ。優良顧客向けハガキにある、本日限定のクーポン100円を、使うこと。

ふたつ。リニューアルオープン限定の、5%ポイント還元の特典チェックをすること。これは、スマホアプリ会員限定である。年末に、君は、入会しているはずだから、アプリを開いてバーコードチェックを受けて、つけること。

みっつ。期間限定の、au PAYのキックバックがあるから、支払いは、現金やカードを使わずに、必ずau PAYで決済すること。

4つ。イアホンは、数量限定品ではなく、単なる特売品である。いったんカゴから取り出し、会計を別にして、分けて決済すると、本日限定のクーポンは、200円のものが使える。

5つ。ただし、au PAYのキックバックがつく決済は、1日、残金10000円までの買い物だから、イアホンの決済は、d払いを使って、別のキックバック制度を使うこと。

6つ。当然のことだが、レジ袋は、断り、エコバッグに入れて、車まで戻って来ること。

分かっているとは思うが、あとでレシートを確認させてもらう。途中で挫折したり、レシートを廃棄したりして証拠隠滅を図るような、エージェントにあるまじき行為だけは、決してしないように。


例によって、君、もしくは君のメンバーが捕えられ、あるいは殺されても、当局は一切関知しないからそのつもりで。


なお、このテープは自動的に消滅する。

目の前に現れたマイクロテープは、発火装置が作動し煙が出て破壊された。

プシュ〜〜.......。


心の中の、リトルkojuroが、慌てて叫んだ。

ちょっ、ちょっ、ちょっと、待って!


だが、家内は、無情にも、またもや、小走りで店を出て行った。後ろ姿を、目で追いかけると、どうやら御手洗に駆け込んだみたいだ……。


長い沈黙の後。私は、既に消滅したマイクロテープから流れてきたミッションの数々を、無い記憶力を辿りつつ、思い出していた。

震える足で、レジに向かう。

そして、震える手で、スマホを操作し、震える声で、店員に確認しつつ、慎重に、まるで、爆弾の起爆解除をしていくように、ひとつひとつ、複雑怪奇な手はずを、整えていった。


何分経っただろう。ようやく、二度目のレジでの支払いが、終了した。


店を出て、疲れ果てた足取りでエスカレーターまで辿り着く。そして、手すりにしがみつくように乗って、階下に至ると、御手洗を終えた、爽やかな顔つきの家内が待っていた。

しおれた私の手から、家内は、ピシッと、レシートを取り上げた。

そして、暫くの間、指さし確認で、ミッションが遂行されているかの答え合わせをしている。


……。

よろしい。コジくん。

合格だ。


心の中の、リトルkojuroが、疲れ果てて涸れた声で、ようやくのことで、消え入るような声を、絞り出した。

ミッ.......ション、コン.......プリート.......。



疲れ果てて帰宅すると、家内が、また、笑顔で寄ってきた。

コジくん、はい。宿題。

最初、意味が分からなかった。

で、手渡されたものは、これだった。

レシートは、会計分、つごう、2枚ある。

アンケートが、宿題として、残っていた。

これにこたえると、抽選で、500ポイントらしい.......。


心の中の、リトルkojuroが、白目で、口から泡をふきながら、絞り出した。

ミッ.......ション、イン.......コン.......プリー.......ト.......。


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