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最終回
家内のこだわりりポイントは、ポイ活と、クーポンと、節約である。だが、他にも、実は、たくさんある。そのうちのひとつが、最終回である。
先日、NHKの大河ドラマの、「麒麟がくる」が、最終回を迎えた。そして、家内のその、拘りポイントへの執着が、発動したのである。
そもそも、家内は、NHKは、ほとんどの場合、見ない。99.9%、民放である。それがなぜか、朝ドラと、大河ドラマには、時々、触手が動く。
その最終回が、日本史の中でも断トツの謎である、本能寺の変だ。私も、ここまで大河ドラマを見ていたならば、とても期待をして、最終回を見たことだろう。だが、ここ何十年も、大河ドラマを見ていない。だから、今回も、全く興味が無かった。でも、それであっても、魅力のあるテーマでは、ある。
その土曜日の家内は、朝から、そわそわしていた。そして、なぜか、NHKに、チャンネルを合わせていた。
そして始まったのが、ダイジェストや、主演の長谷川博己さんの、トークバラエティになぞらえた、番宣番組である。
家内は、それらを、熱心に、貪るように、見ていた。
静かに見ているだけならば、私は、何の文句も言わない。だが、いろいろと、質問してくる。
本能寺って、寺なの?
何処にあるの?まだ、あるの?
帰蝶って、誰?信長と、どういう関係?
斎藤道三って、何者?
どうして、信長は、殺されたの?
機関銃のように、後ろ手に言葉を投げかけられるのは、私が電気を消し忘れた時のようだ。だが、今回は、質問されて、こたえる身。立場的に、ちょっとは、分があるはずだ。
最初は、ひとつひとつ、こたえていく。知っている限りで。
でも、家内は、だんだんと、こんな、質問をしてくる。
長谷川博己って、何の役?誰?
心の中の、リトルkojuroが、狼狽えながら、吐き捨てた。
おいおい。そりゃないぞ。その質問は。
私は、こういうナンセンスクエスチョンには、しびれを切らす。
そして、言い放った。
いいかい。そういう質問は、してはいけない!
そういう質問をする人は、最終回を、見ては、いけない!
いつになく強い口調で言い始めると、家内が、天国の父を呼び始めた。
ケーシー!注1)ケーシー!あなたの息子が、優しくありません。優しく質問に答えてくれません!
迷える子羊を捕まえて、いじめます!
心の中の、リトルkojuroが、ボヤいた。
でも、質問が、低レベルすぎるのも、事実だよな .....。
うるさいので、しばらく放っておくと、鼻歌交じりに踊り出した。
心の中の、リトルkojuroが、笑いながら呟いた。
耳につく、人を苛立たせる歌と踊りだな。
私は、呆れるしか、無かった。
そして、日曜日の夜。いよいよ、最終回だ。
始まってから、家内は、ずっと、ナンセンスクエスチョンを繰り返し、時々、苛立った私は、強い口調で家内をしかり、そのたびに家内は、手を組み、天井を見上げて繰り返した。
ケーシー!ケーシー!あなたの息子は、優しくありません。あなたは、コジくんの育て方を、間違えたようです。
どうか、コジくんに優しく、私の質問にこたえさせるために、この世に舞い降りてきてください。
その、繰り返しだった。
おかげで、私は、見たかった最終回を、ほとんど味わうことなく、放送は、終焉を迎えた。
家内は、言った。
いやあ、最終回って、本当に、面白いわ。
.......。
テレビを消して、風呂に入り、上がってきた家内は、洗い物をし始めた。
すると、お尻を振りながら踊り、何やら歌っている。
.......ほんっ、のうっ、じの、へん!
心の中の、リトルkojuroが、お腹を抱えて笑いながら家内を指さして言った。
本当は、これ、踊りたかっただけじゃないの?
変だ。とても、変だ。最終回って、ほんとうに、いつも、変だ。
今回も、やっぱり、変だった。
.......ほんっ、のうっ、じの、へん!
注1)私の父は、高校の歴史の教師だった。そして、我が家でのあだ名は、ケーシーだった。