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スピードスター

次女の大学は、早々と前期、後期両方の授業をオンライン授業とするということを発表した。そのため、次女は今年1年間、大学構内にはほとんど入らないことになった。

ほとんどというのは、次女はスポーツをしている。そのスポーツ推薦で大学に入れてもらっている。そのスポーツの練習のためには、特別に申請して許可をもらい、構内に入れてもらっているという状態である。

次女は、高校時代は全寮制で、顧問の先生は成績にある程度うるさく言ってくれてはいたが、ほとんど勉強という勉強を積極的にはせずに大学に通っている。いわゆるスポーツバカのアスリートなのである。

いくらスポーツバカでも、カリキュラムは登録する。そして講義には出て、単位をとらねば卒業できない。リアルな講義では、代返やサボりをしていても気付かれないが、オンライン授業となると出席状況は容易に把握されるので、嫌でもzoomに繋ぎ、参加することとなる。

このオンライン授業化で、いろいろと講義のやり方も変わったと言う。今まであまり学生に当てて講義をしなかった教授が、いきなり順番に当てていって授業を進めるようになったりするのは、その変化のうちの顕著なものだと次女は嘆いていた。

ある日、そういう授業の講義に、次女は出ていた。そしてその講義は、本来ならばレポート提出のみを課す、いわゆる単位を稼げる授業だったそうだが、今年のリモート授業で評価基準が大いに変わり、ひとりひとり順番に当てていくようになったそうだ。

毎週、その講義のグチを聞かされていた。そして、いよいよ当てられそうだと頭を抱えていたのだが、その恐れていたことが起こったという。

では、ここのところを、学籍番号、○○番の.....○さん、どうぞ。

うっ.....ブチっ!

次女は、教授に指名されるや否や、zoomの接続を断ち切って、そのオンライン講義を離脱したという。

その講義は、同じ部の先輩も何名か履修している。その先輩が、講義が終了してから笑って電話してきて教えてくれたらしい。

教授が、

絶妙なスピードとタイミングで離脱しましたね。彼女はスピードスターですかね。

と言った瞬間、みんなはマイクをミュート(消音)にしているから聞こえなかったが、恐らく参加学生全員が大爆笑していただろう。少なくとも自分は腹が痛いくらい笑って楽しませてもらった、と。

私が調べると、その講義の成績評価基準は、発表が40%。毎週の課題が20%。最終日のオンライン試験が40%だった。

私は、

こりゃ、落としたな。

と、次女にLINEで伝えると、

この講義は選択必修なので、落としたら、単位をとれるまでチャレンジになる。

と冷静にLINEで返答があった。

ヤバいじゃないか!

私は、心の中で叫んだ。が、運を天に祈るしか方法がなかった。

つい先々週だった。大学から履修状況の封書が届いた。家内と恐る恐る開くと、不可がついた科目が見当たらなかった。そして、次女にLINEで確認してみると、ほどなく返答があった。

フル単(全部単位をとったという意味)。あの講義は、Bをとった。

私の実力は、こんなもんよ!

次女は、根拠のない自信というものを、とてつもなく持ち合わせている。それが羨ましくもあるし、親として少し自慢でもある。だが、それよりも、いわゆる「アスリート対応」をしてくれた優しい教授に、ただただ頭が下がった。

家内と共に、成績表を神棚に捧げ、2人並んで大学の方角をむいて、手を合わせ、深々と頭を下げた。

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