
足場
実は、今年、我が家のマンションは、大規模修繕の年なのである。この工事は、年明けから始まり、すべてが完了するのは、年末になる。
外壁、ベランダなどの修復があるので、当然、足場が組まれている。
ほどほどに上の方の階なのだが、私は、高所恐怖症で、ベランダから月や星や、遠くの景色を眺めることはあっても、階下はなるべく見ないようにしている。
心の中の、リトルkojuroが、ボソッと呟いた。
よくまあ、こんな足場を、スイスイ歩くよな。作業をしている人は。
尊敬に値する。
我が家で、家内と長女は、高いところが苦手ではない。むしろ、好んで高いところに行こうとする。
心の中の、リトルkojuroは、よく、言っているのだ。
あの人達は、ここから落ちたらなんていう、まともな想像力が、たぶん、少し、欠如しているんだよ。
それでも高いところが好きな人も、いる。
それはそれで、いいと思う。私は、そういう人を、日頃、勇者と、呼んでいる。
日曜日、訳あって、家内の足を、マッサージしていた。
ベッドに、呑気に寝ころびながらベランダを見ていた家内が、ボソッと呟いた。
あそこに乗りたいなあ。
私は、最初、何を言っているのか分からなくて、2度聞きした。
今、なんて?
だから、あそこに、乗ってみたいって。言ったの。
ベランダを見てみると、足場が、静かに佇んでいた。
私は、ちょっとばかり、呆れて、言った。
あそこは、怖いでしょ。
すると、家内が、笑いながら、言った。
いや、でも、今しか、乗れないでしょ。
乗ってみて、どんだけ怖いか、下を覗いてみたいのよ。
心の中の、リトルkojuroが、呆れながら呟いた。
怖いもの見たさとは言うけれど、そう思う、あなたが怖いよ。
確かに、足場自体は、もうすぐ撤去されは、するけれど。
空は、決して、飛べないからな.....。
家内は、明るい人だ。愉快な人だ。だが、時に、何を考えているのか、分からないときがある。
また、心の中の、リトルkojuroが、ちょっとおどけなら、呟いた。
帰宅して、ベランダを見て、足場に乗っかっているのを発見したりしたら、それこそ、怖いな。
私と、リトルkojuroは、顔を見合わせて、震えながら、静かに、呟いた。
そ、それは……。怖いな。
それから、私たちは、ベランダの外の、足場を、見ることは、なくなった。