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高級お菓子
父は、カステラが、大好きだった。そして、食べるのは、決まって、文明堂のカステラだった。
父は、大病をして、長い療養生活をしていたのだが、そのあいだ、母は、父にだけ、毎日、文明堂のカステラを、食べさせていた。他にも、そういう、栄養をとる、父特別のものが、いくつかあったが、私には、カステラが、高級お菓子の、ダントツ、代表格だった。
父は、本当に、食欲がなくて、好きなものでも食べられないような、危機的な状況だったので致し方なかったのだ。また、昔は、父親というのは、一番良いものを、いちばんたくさん食べるし、飲むものだった。だから当時は、当然だとは思ったが、それでも、どこか、子供心にも、釈然としないものがあった。
心の中の、リトルkojuroが、ボソッと呟いた。
でも、コジは、家庭の中で、立場、昔も、今も、変わらないね。
いちばん質素で、いちばん少ない.....。
このことは、ちょっとばかり、置いておこう。父の話に戻る。
そんな父だが、元気なときは、家族のために、一肌脱ぐ姿も、見せてくれていた。
そして、数は少ないが、遊びを教えてくれたりも、した。
大人になり、結婚して、関東に越してきて、ほど近くに、文明堂の工場がある。
次女のスポーツチームでは、大事な試合の待ち時間に、この、文明堂のカステラを、みんなで、食するのが伝統だった。
カステラならば、何でも良いような感覚にも陥りそうになるのだが、なぜか、ブランドが、文明堂と、決まっていた。
時々、それを、買い出しに出るのだ。
工場に行くと、窯出しの、美味しいカステラを、直販してくれる。
私は、それに、飛びついた。昔の、カステラに対する憧れのイメージも手伝い、家内と結託して、かなりの数を、我が家用に、買い求め、持ち帰った。
それでも大半は子供たちのお腹の中に入り、私は、かろうじて、一部、そのご相伴に預かる。
そんな、思い出が、ある。
そして先週、家内が、近くを通ったとかで、その、蔵出しのカステラを買ってきてくれた。だが、それは、すぐに秘密の扉に収まり、私からは、隔絶された。
家内は、私に言った。
コジくん、いい?
カステラは、高級なお菓子だからねっ!
心の中の、リトルkojuroが、半ば笑いながら、呟いた。
まるで、ご飯を、待てって、されている犬のようだな。
リトルkojuroの言うように、私にとって、カステラは、永遠に高級お菓子である。
昔も今も、手の届かない、幻の、高級お菓子なのだ。
そう言っていると、机の上に、配給が、やってきた。
心の中の、リトルkojuroが、ぼやきながら呟いた。
これは、窯出しじゃ、ないな。
カステラ巻きの、切り端だな。
我が家は、家内と子供たちで、まわっている。そして、家族が幸せであれば、それだけで、私は、幸せなのだ。
カステラ巻きは、形は、小包装されるものに比べると歪だ。
でも、味は、父が食べていたあの、カステラの味と、きっと、同じだなのだと思った。
これで、いいのだ。