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チクッとされた - 『批評の教室 チョウのように読み、ハチのように書く』
この本はあくまでも批評の第一歩を踏み出すための初心者向けの説明です。あなたにものすごく文才があれば、私やその他の人間がどんなに型に嵌めたとしてもあなたは自分のスタイルを見つけ出せるはずなので、こういう本を読むことで自分の独自性が損なわれるのではないかと心配しないでください。
チクッと刺された感覚があった。本書の副題は、あの有名なモハメド・アリの名言「チョウのように舞い、ハチのように刺す」から来ているが、この文章を読んだ時に確実に刺された感覚があった。
本書はNew Criticismという1920年代に創り上げられた批評理論に基づいて批評のノウハウを解説している。New Criticismは大学などの教育機関が大衆化される中で盛り上がりを見せ、「文学史についての広く深い教養」に裏付けされた批評ではなく、「精読」によって丁寧に読書することで批評することを目指す。
第1章はひたすらに精読する方法について解説している。現実ではストーキングはゆるされないが、作品の世界ではとことんストーキングせよ。作品世界は現実とは違って理解され得るように作られているのだから。
正直なところ私はこの「精読」というものに懐疑的だった。例えば、本の中でケンダル・ウォルトンという哲学者のフィクション論が紹介される。フィクションとは「ごっこ遊び」であり、しっかりとしたルールがある。そして、北村はこう結論づけする。
よく、「作品には間違った解釈はない」という人がいます。これは間違いです。
つまり、ルールに従わない解釈は間違っていると看做して構わないというのだ。しかし、そんなの窮屈ではないか。正しい意味を掬い取るために精読する。これはまるで私が嫌いだった小中学校の国語の授業みたいじゃないか。私にはもっと自由が必要だ。堅苦しい精読ではなく、独創性を発揮できる読み方が必要だ。
・・・と思っていたところに先ほどの一文である。もう一度引用しよう。
あなたにものすごく文才があれば、私やその他の人間がどんなに型に嵌めたとしてもあなたは自分のスタイルを見つけ出せるはずなので、こういう本を読むことで自分の独自性が損なわれるのではないかと心配しないでください。
つべこべ言わずに素直になった方が良さそうだ。