何気ない日常に耳をすませば必ず幸せを見つけられる | 〜小川糸「食堂かたつむり」を読んで
自信をもって「私はいま、すごく幸せです!」と言うことはなかなか難しいと思っていました。でもとんでもなく平凡な毎日の中に、幸せの粒がたくさんあるのかもしれません。
小川糸さん著、「食堂かたつむり」を読みました。NHKでドラマ化もされた「ツバキ文具店」の作者・小川糸さんの最初のヒット作です。
小川糸さんの作品を読んだことがある方にはわかっていただけると思うのですが、この作品「ザ・小川糸ワールド」といった感じで、とにかく優しく温かい雰囲気でほろっと泣いてしまうような物語でした。
コロナ療養中に出会った作品
実は2月の中旬にコロナに感染してしまった私は、熱が下がり自宅療養期間が終わったも体調が優れず、身体と心がモヤモヤした状態で過ごしていました。外に出る元気もなく、でも家でやることもなかったので暇つぶしとして近くの本屋で買ったのがこの作品でした。
コロナにかかって一番しんどかったのが実は精神面。誰にも会うことが出来ず、外にも出れず、狭い家でずっと過ごしていると心がどんどん荒んでいきました。
「なんのために生きてるんだろう」
とくになにがあったわけでもないのに、一人で悶々と考えて勝手にネガティブな気分に陥ってしまっていました。
そんなときに読んだのがこの食堂かたつむり。
日常の幸せに気づき、噛み締める大切さ
主人公の倫子は東京で飲食の仕事をしていましたが、あることをきっかけにど田舎のふるさとに帰ることにしました。倫子はそこで「食堂かたつむり」を開きます。でも普通の食堂とは違います。お客さんは一日一組限定。メニューはなし。倫子がお客様と会話をする中でどんな料理がいいのかを決めます。
料理のジャンルはさまざま。食材は特別高級なものを使うわけではなく、地元で穫れた野菜や近くの牧場などからお肉を調達しています。でも倫子の手によってとんでもなく美味しい料理に仕上がるのです。
この作品では、倫子が作るもの以外でもたくさんの料理が出てくるのですが、どれも素朴。子供の頃の味、家庭の味のするようなものばかり。高いお金を払って、私生活では決して食べられないような料理を食べることも幸せの一つですが、そればかりではないと思わせてくれます。
印象的だったのが近所のおばあさんが握ってくれたおにぎりを食べている時のシーン。
決して一流料亭が作る松花堂弁当のような華やかさはないけれど、自分が本来の姿に戻れるような、しっかりと大地に根を下ろしたご馳走だった。「こういうのが、一番ホッとするのよねぇ」-小川糸「食堂かたつむり」
何もかもが追い切れないほど早い速度で動いていく世の中で、息つく間もないほど忙しない毎日を送っていると、食べる時間すら惜しいと思い「食べる」という行為をおざなりにしがちです。
でもそんな時こそ一度その流れの中から飛び出て、落ち着いて食べる・食べたものの味をじっくり味わってみる時間をとってみるのです。
それは小さなことかもしれません。でもきっと「幸福」を感じることができるはずです。そして小さな幸福に気づくことができれば、自分の日常には幸せの粒が溢れていることにも気づけるかも。
自分でちょっと手間をかけて作った料理が突然愛おしくなるのと同時に、久しぶりにお母さんの作ったなんでもないおかかのおにぎりが食べたいなぁ。読み終えたあとはそんな気持ちになりました。