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続神社の境内/香具師が来た!
「僕の昭和スケッチ」47枚目
<画/もりおゆう 原画/水彩 サイズF5>
学校帰りの神社の境内に「香具師(やし)」が来ている事があった。
香具師とは、フーテンの寅さんでお馴染みの「てきや」のことです。
一番良く見かけたのは、「軟膏売り」、いわゆる「がまの油売り」です。
その口上は中々のものでした。
短刀を片手に、「切ります!」と二の腕に刃を当てる…
ぐるりと輪になって取り囲む観客は固唾(かたず)をのんで香具師に注目する…
だが…
「とくと、ご覧あれ! 切ればたちまち赤い血がドロドロと流れ出ます。ですが、ご心配めさるな、この軟膏を塗ればたちまちにしてピタリと血は止まる。私も生きた人間だ、血が出たままじゃ死んじまう〜」
と観客の笑いを取り、中々切らない。
或は、ハブを使う場合もありました…
「ハブです! 噛ませます!」とハブの頭を二の腕に運ぶ…
恐いもの見たさの観客は身を乗り出して香具師とハブに注目する…
だが…
「このハブの猛毒は一噛みで象をも倒すと言うげに恐ろしきもので、およそ人間などは一たびこれに噛まれたるあかつきには〜〜〜〜」
とハブの説明に戻り、これ又中々噛ませない。
こうして、今切るぞ、今噛ませるぞ、と集まった客をつり込み、結局のところ切りも噛ませもしないで軟膏を売りまくる、その口上は巧みで大の大人がそれをこぞって買うのでした。一種の集団催眠のようなものです。
昭和三十年代中頃までは、全国各地でよく見られた軟膏売りの香具師の姿ですが、その後は次第に姿を消していきました。
*がまの油売りは大道芸の要素もあり、刀身の一部をつぶして切れないようにした上で切ったように見せる謂わばマジックのような技を用いたりします。この記事では、あくまで口上の巧みさで軟膏を売る香具師の紹介をしました。