『不穏な眠り』身体を張る不運な女探偵が紐解く、日常に潜む深い闇
不運という名の宿命？葉村晶が挑む世界
「仕事はできるが、不運すぎる女探偵」。そんな形容がぴったりな葉村晶は、若竹七海氏の人気シリーズの主人公です。
しかし、今回の『不穏な眠り』では、不運を超えた「ツイていない」状況に追い込まれる一方で、意外な形で命拾いをする場面も多い。
事件解決のたびに「本当に不運なのは葉村晶ではなく、彼女に挑む悪人たちでは？」と思わせるストーリー展開に、読者は驚きと納得を繰り返すことでしょう。
あらすじ
『不穏な眠り』は、短編を集めたミステリー作品です。それぞれの物語に共通するのは、どれも単純な依頼に見えて、蓋を開けると複雑怪奇な裏事情が絡み合う点です。
「水沫隠れの日々」
終活を進める老婦人が、親友の娘を刑務所から連れてくる依頼を出します。しかし、その娘が移送途中で拉致され、事件は予想外の方向へ。
「新春のラビリンス」
解体予定の幽霊ビルでの警備任務が、失踪事件へと発展します。寒さと孤独の中で葉村晶が見出す真相とは？
「逃げだした時刻表」
ミステリー専門店でのイベント中に起こったABC時刻表の盗難事件。コレクター同士の欲望が絡み合う中、葉村晶はさらなる秘密を暴いていきます。
「不穏な眠り」
表題作では、従妹の家で発見された遺体の知人を探る依頼が発端。調査を進める中、葉村晶自身が命の危機にさらされます。
登場人物
葉村晶（はむら あきら）
仕事はできるが不運すぎる女探偵。探偵業とアルバイトを掛け持ちする日々を送る。事件解決に全力を尽くすも、なぜかいつも巻き込まれ役に。
藤本サツキ
「水沫隠れの日々」の依頼主。親友の娘を刑務所から連れ戻してほしいと葉村に依頼する。
田上遥香
刑務所から拉致される娘。彼女の過去が事件解明の鍵となる。
公原（こうはら）
「新春のラビリンス」で失踪事件の捜索を依頼する女性。幽霊ビルの寒さと恐怖が緊張感を高めます。
葉村晶シリーズの魅力と今回の特徴
葉村晶シリーズの特徴は、日常の中に潜む異常さを巧みに描く点です。
『不穏な眠り』では特に「シンプルな依頼から広がる怒涛の展開」が目立ちます。例えば、「水沫隠れの日々」では、単なる移送依頼が予想もしない誘拐事件へと発展。
一見無関係な登場人物や小道具が、物語後半で大きな役割を果たす。
また、短編それぞれのテーマも見逃せません。表題作「不穏な眠り」では、ホラー的要素が強く、読者に不安感を与えつつ物語を進めます。
「逃げだした時刻表」では、鉄道ファンの熱意が極端に描かれ、笑えるほどの緊張感が漂います。
身近な例で読む魅力の比喩
葉村晶の不運ぶりは、まるでコント番組でバナナの皮を踏み続ける主人公のようです。
依頼人に振り回され、危険な現場に放り込まれる葉村の姿に、私たちはクスッと笑いつつも応援せずにはいられません。
また、登場する事件は日常の延長線上にあるものばかり。「終活」「鉄道」「解体予定の建物」など、普段接するキーワードから壮大な謎が展開するのも、このシリーズの特徴です。
流行語を取り入れた分析
葉村晶の活躍は、現代の「バズる」要素を満載しています。
例えば、幽霊ビルという舞台設定は「映える」スポットとして話題性抜群。さらに、「鉄道ミステリフェア」では、マニア層の熱狂ぶりが事件解決のカギとなるなど、SNSでのコミュニティの力を象徴しているようにも思えます。
終章：葉村晶、本当にツイていないのか？
葉村晶のキャラクターは、読者に愛される一方で疑問も投げかけます。
「本当に彼女は不運なのか？」と。実際には、彼女が解決する事件の悪人たちの方が最終的に損をしているのです。
『不穏な眠り』を読み終えた後、「次の葉村の冒険はどこへ向かうのだろう」と期待せずにはいられません。日常の延長線上にある非日常を描く葉村晶シリーズは、ミステリー好きはもちろん、日常に飽きた読者にもおすすめです。