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『悪魔が来りて笛を吹く』死と復讐を告げるフルートの音色

突如として響き渡るフルートの音色。それは、死者の魂が奏でる悲しみの調べなのか、それとも復讐者の勝利の歌なのか。

横溝正史の傑作「悪魔が来りて笛を吹く」は、このような不気味な音楽とともに読者を戦後の闇へと誘います。


あらすじ

1947年の東京。名探偵・金田一耕助(きんだいちこうすけ)のもとに、一人の少女が訪れます。椿美禰子と名乗るその少女は、「天銀堂事件」の容疑者とされた父・椿英輔子爵の真相を探ってほしいと懇願。

椿子爵は「これ以上の屈辱、不名誉に耐えられない」という遺書を残して自殺したとされていましたが、家族たちは死んだはずの子爵の姿を目撃していました。

そして、子爵が作曲した「悪魔が来りて笛を吹く」というフルート曲が、不可解な事件の度に響き渡る。

金田一が調査を進めるうち、次々と起こる殺人事件。その背後には、華族社会に潜む重大な秘密と、ある男の壮大な復讐計画が隠されていました。

主要登場人物

金田一耕助(きんだいちこうすけ)
独特の風貌と鋭い洞察力を持つ名探偵

椿美禰子(つばきみねこ)
事件の依頼人である健気な少女

椿英輔(つばきひですけ)
天銀堂事件の容疑者とされた元子爵

椿秌子(つばきあきこ)
美貌の夫人、夫への罪悪感を抱える

新宮利彦(しんぐうとしひこ)
秌子の兄、左肩に火焔太鼓の痣を持つ

飯尾豊三郎(いいおとよさぶろう)
天銀堂事件の容疑者

悪魔の笛が象徴するもの

作品を通じて響く「悪魔が来りて笛を吹く」という曲は、単なる不気味な演出以上の意味を持ちます。

それは復讐者の勝利の象徴であり、同時に戦後の混乱期に没落していく貴族社会への鎮魂歌でもあります。

フルートという楽器の選択も象徴的です。西洋の優雅さを象徴するフルートが、日本の伝統的な階級社会の崩壊を告げる道具として使われている点に、作者の巧みな演出を見ることができます。

戦後社会の断層を映す鏡

『悪魔が来りて笛を吹く』は、単なる推理小説の枠を超えて、戦後の日本社会が抱える問題を鋭く描き出しています。

特に注目すべきは、旧華族たちの没落と、新しい時代への適応に苦しむ人々の姿です。「天銀堂事件」という設定自体が、当時実際に起きた「帝銀事件」をモデルにしていて、社会の混乱と人々の欲望を如実に反映しています。

心理描写の深層

従来の金田一耕助シリーズと異なり、『悪魔が来りて笛を吹く』では登場人物たちの心理描写により多くの紙幅が割かれています。特に、復讐者と被害者の複雑な感情の機微が、丁寧に描き込まれている。

まるで能面のように表情を変えない登場人物たちの内面に、人間の根源的な欲望と愛憎が渦巻いているさまは、現代の心理サスペンスの先駆けともいえるでしょう。

技法的革新性

『悪魔が来りて笛を吹く』は、従来のミステリー小説の定石を巧みに破りながら、新しい表現方法を確立しています。

例えば、「金田一耕助西へ行く」の章では、探偵が移動する情景描写そのものが重要な伏線となっていて、これは当時としては画期的な手法でした。

また、フラッシュバックを効果的に用いて過去の事件を描写する手法や、音楽を物語の重要な要素として組み込む構成は、後の日本のミステリー作品に大きな影響を与えています。

特に、「悪魔が来りて笛を吹く」というフレーズの反復使用は、読者の心理に強く訴えかける効果を生み出している。従来の本格推理小説がトリックを先に考案してから物語を構築するのに対し、本作は逆のアプローチを取っています。

これにより、論理的な推理の面白さだけでなく、文学的な深みと人間ドラマの魅力を両立させることに成功している。

結論

『悪魔が来りて笛を吹く』は、戦後の社会変動期を背景に、人間の根源的な感情を描き出した傑作です。

優雅なフルートの調べと残虐な殺人事件という極端な対比、そして複雑に絡み合う人間関係は、現代においても色褪せることのない魅力を放っています。

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