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『総理にされた男』読書感想文:現代政治の縮図を描く緊迫の一冊

驚愕のスタート:あなたが「総理」になる日が来るかも?

「もし、ある日突然、あなたが内閣総理大臣の替え玉を頼まれたらどうしますか?」

そんな非現実的な設定が、中山七里氏の『総理にされた男』の始まりです。これは普通の政治サスペンスではありません。実際に起こり得る政治の裏側や、現代社会におけるリアルな問題を鋭く描き出す一冊です。


物語の中心:売れない役者が「総理」に

主人公は売れない舞台役者・加納慎策。彼は、内閣総理大臣・真垣統一郎に瓜二つの容姿を持ち、さらにそのものまね芸も見事なものです。

この特殊な才能が、官房長官・樽見正純の目に留まり、慎策は「国家の大事」のため、総理大臣の“替え玉”として任命されます。

ここで注目したいのは、「替え玉」という設定です。表面的には、フィクションらしい設定ですが、実は現実の政治にも「代理」や「表の顔」といった概念は存在。

リーダーの決断が現実と密接に関わる点は、読む側にも大きな共感を呼び起こします。

政治の不条理と主人公の葛藤:現代の政治問題とリンクする

加納慎策が直面する現実は、政治や経済の重大な課題ではなく、派閥抗争や官僚の駆け引きなど、不条理なものばかりです。

ここで浮かび上がるのが、私たちが日常で感じる「政治の不透明さ」

加納慎策は政治に無関心だったため、現実とのギャップに驚き、苦しみます。

この部分は、多くの読者が共感する部分でしょう。特に、現代日本でも政治の不透明さや決定過程への疑問がメディアでしばしば報道されます。

この物語では、加納慎策が次第に義憤に駆られ、国民の声を代弁しようと奮起していく姿が描かれます。これは、私たち自身が抱える「政治への期待と失望」という感情ともリンクするでしょう。

現実とフィクションの境界を揺さぶる展開

『総理にされた男』は、非常にリアルな社会問題を扱っています。

例えば、現代の政府でも議論されている「政治家の信念」や「派閥抗争」がストーリーの軸となって進む。登場する政治家たちが、現実の政治家とリンクして見える点も面白さの一つです。

「本当にこんなことが起こるのだろうか?」と疑問を持ちながらも、現実とフィクションの境界が曖昧になる瞬間を感じさせる展開です。

現代のSNS文化(インフルエンサーやネット上でのバズ)ともリンクしており、加納慎策がネット上で話題を集めるシーンは、まさに今の時代を象徴している。この要素が、ストーリーをより身近で興味深いものにしています。

『総理にされた男』の魅力

ここで、『総理にされた男』の魅力を整理してみましょう。

『総理にされた男』は、政治の裏側を知りつつも、エンターテイメントとして楽しめる一冊です。

リアルな設定と非現実的なストーリーが絶妙に組み合わされており、現代日本の政治問題ともリンクしています。

主人公が政治の裏で繰り広げられる派閥抗争に巻き込まれつつも、演説で国民の心を動かしていくシーンは圧巻です。特に、最後の未曽有の危機に直面した際の演説シーンは、読者の心にも響くものでしょう。

このように、『総理にされた男』は、現実の政治に興味がない人でも、夢中になって一気読みできるほどの魅力があります。

身近な例で説明:替え玉の現実的な側面

たとえば、スポーツチームにおける「キャプテン代理」を思い浮かべてみてください。

チームのリーダーであるキャプテンが不在のとき、代理がその役割を担います。しかし、その代理が本当にチームを引っ張れるかどうかは、状況次第です。

このような状況が、加納慎策の「替え玉」という設定に置き換えられています。

最後に:現実の政治と未来への問いかけ

この物語の最後には、「現実の政治家が、作中のように国民のために動けるか?」という疑問が読者に突きつけられます。

それは私たちが普段、政治に対して感じている不安や期待そのものです。慎策が「総理大臣」として果たす役割を通じて、読者は「もし自分だったらどうするか?」と考えざるを得なくなる。

この点が、『総理にされた男』をフィクション以上のものにしている理由です。

現実の政治に興味を持たせ、私たち自身の責任についても問いかけてくるこの作品は、現代日本にとって非常に意味のある一冊だと言えるでしょう。

エピローグ:読後の爽快感

『総理にされた男』のエピローグでは、加納慎策が直面する「違憲云々」という問題が少し唐突に感じられる部分もありますが、それさえも中山七里氏らしい展開と捉えることができます。

全体として、リアルな政治劇とフィクションを組み合わせたライトな読み心地が楽しめ、読後には爽快感が残ります。

総評

『総理にされた男』は、現実の政治に疎い人でも楽しめる作品でありつつ、深く考えさせられる点も多い一冊です。特に、政治の不透明さや派閥争いといった問題に興味がある方には、一度手に取っていただきたい作品です。

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