パニック障害当事者が『夜明けのすべて』を読んだ/観た感想
先日、夜明けの全ての小説及び映画を読了・鑑賞した。
僕は普段、あまり読書や映画鑑賞をするタイプではないのだが
「パニック障害の人とPMSの人が出てくる映画がやってるらしいよ」と母に勧められて、せっかくなら比較してみようと思い、小説と映画の両方を履修してみた。
一言で表すなら「こういうのがいいんだよな、こういうのが」といった感じ。
僕は自身がパニック障害という事もあり、山添君に感情移入していた。
世間で言う"普通"じゃいられなくなったことを受け入れられない辛さ。
"普通"を諦めることで自分を保とうとするが、同時に人間として営むことができなくなっていく絶望。
自分の本心や他者の善意と向き合う恐怖。
多分当事者にしか分からないような細かい機微まで描かれており、とにかく共感の嵐だった。
(調べたところ、著者の瀬尾まいこ氏もパニック障害を経験しているらしい。納得。)
そんな山添くんが藤沢さんとの関わりをキッカケに
自分の髪形で久しぶりに笑ったり、桜餅やクイーンが好きだったことを思い出したり、他者とのつながりを持つようになってみたり
再び"自分の人生"を歩み始める様子を見て
僕も「もう少し"生きて"みたいな」そんな風に思うことができた。
何かが解決したり病気が治ったりなど、派手な起承転結があるような物語ではないが
そういったリアルさが特に心に沁みたし
加えて僕は恋愛モノアレルギーであるため、山添君と藤沢さんが「恋愛関係になって病気も治ってめでたしめでたし」なんてチープなファンタジーにされていなかったのもすごくよかった。
(また過去に付き合っていた人がPMS疑惑だったことを思い出した。
当時は僕も本人も知識不足だったため「わがまま」というレッテルを貼って関わっていたが
ちゃんと向き合っていればもう少しうまく手を差し伸べることができたのかなぁ…なんて思ったり思わなかったり)
ちなみに個人的には
小説だったらクイーンの鑑賞会(?)を終えてクイーンが好きだったことを思い出すシーン、
映画だったらオフィスで「誘いを断る言い訳にパニック障害を使えるから便利だよね」「PMSだからって何言ってもいいわけじゃないですよ?(笑)」的なやりとりをしているシーンが印象的だった。
ここまで山添くんの事ばかり書いてしまったが、藤沢さんの存在も欠かせない。
上のやり取りのように、度々人によってはヒヤッとするくらい山添くんのセンシティブな部分に踏み込んでくるのだが、それがむしろ心地よかった。
(これは人によるのかもしれないが)変に気遣いをされたり過度な心配をされるくらいならいっそイジってくれた方が気が楽だったりするからだ。
"普通"の人だったら腫れ物に触れるようにしか扱えないものを題材にしながらも
くすっと笑えるシーンや会話がちりばめられており、真面目と笑いの塩梅が絶妙な作品。
(これもまた調べたところ、瀬尾まいこ氏の「会話ファン」がいるらしい。なるほど。)
何となくあたたかい気持ちになれるような作品が読みたい/観たい方はもちろん
特に身近に同じような状態の人がいる方や自身が同じような苦しみを抱えている方には是非読んで/観てほしい。
(個人的には前者は病気の描写が比較的ライトな映画、後者はよりリアルな小説の方が入り込めるような気がします)
追記:そして、バトンは渡されたも買いました。
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