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№180【2分で読める】日々の暮らしにクスっとエッセイ『母の番』

ある日、たくさんおかずを作ったので、これから遊びに行く実家に持って行こうと思った。でもいつも使っている、ちょっと大き目の蓋つきの保存容器がない。

「おやっ? そういえば最近見かけないな・・・」
仕方がないので、別の入れ物を探したけれど程よいものが見つからない。
めんどくさいので、鍋ごと持って行くことにした。


思った通り、母は大喜び。
「やった~! 今日の夕飯作らなくてもイイや! まいまい、ありがとう!」
上機嫌の母を見て父もまた機嫌よし。
「悪いな」
そう言いながら、またワタクシの作ったものに、しっかりと文句つける気でしょ。なので「美味しい、ありがとう以外の感想は受け付けません」と釘を刺しておく。それから母とゆっくりお茶の時間を楽しんだ。

そろそろ帰ろうかな、とワタクシが言ったのは2時間後。
母が何か持ち帰らせようと冷蔵庫、冷凍庫の他、あちらこちらの棚の扉を開け始めた。そのとき
「あ! これ。保存容器がうちに全部あるわ~」
そう言ってワタクシに見せたのは、朝探し回った、例の大き目の蓋つきの保存容器。

わが家のが2つ分、そして母のが1つ、全部で3個、実家に勢ぞろいしていた。どうりでしばらく見なかったハズ。

すると母がニッコリ笑ってこう言った。
「持って帰ってくれる?」

ワタクシもニコッと笑い返してこう言った。
「いいや、何か美味しいものをたっぷり詰めてもらって持って帰ることにする。次は母の番ね」
そう言って2人で笑い合った。

しりとりでも、鬼ごっこでも、干支でも順番を守らなくては成り立たない。空の容器を持っている方が料理を作る番。そのうえワタクシ、鍋も持ってきたよ。
ワタクシ、母との暗黙の了解を破るわけにはいかない。心を鬼にして空の容器を置いて帰った。


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