脳卒中者への短下肢装具における底屈制限が反張膝に与える影響
理学療法士のyukiです。
脳卒中者に対して、短下肢装具を用いた治療法は脳卒中ガイドライン2021においてもグレードBで評価され、”勧められる”とされています。
一方で、臨床においては装具の調整に難渋したり、悩むセラピストも多いのではないでしょうか?
特に、歩行時においては”底屈運動をどの程度に制限するか”は歩容に大きく関わる点だと思われます。
今回のその辺で悩む方の参考になるかなと思われる論文を引用してまとめたいと思います!
そのため、この記事では
・装具の調整の1考察にしたい方
・装具の調整によって歩容にどのような影響があるかを知りたい方
・装具使用による脳卒中者の生体力学的な考察を知りたい方
上記に参考になる内容となっています!
では、早速、
今回引用した論文はこちら↓
このnoteについて
論文雑誌:Clinical Biomechanics, 1.624(IF)
文字数:4855文字(参考文献URLを含む)
参考文献数:10本
本日の記事はご購読者からご依頼頂いた内容で、上記の論文を引用しながらまとめていきたいと思います!
脳卒中者の歩容と下肢装具について
脳卒中者の歩行では、一般的に屈曲共同パターンや反張膝などの歩容を示します(1)。
この反張膝において最も懸念すべき点は機能的な可動域が制限されることや”関節病変(変形性膝関節症や炎症など)を引き起こす可能性があること”です(2)。
膝関節の炎症に関しては、”膝伸展筋や屈筋群の筋力低下や足関節屈筋群の痙縮や拘縮が原因”として考えられています(3)。
膝関節への負担を軽減するためにも長下肢装具(KAFO)(4)や膝装具(5)、短下肢装具(6)などの装具が利用が一般的となっています。
また、AFOにおいては主に尖足防止のために使用されており、適切に調整されたAFOや底屈制限の機能性を持っているAFO(7)では脳卒中者の反張膝を減少させることが示唆されています。
先行研究では、ジョイント付きAFOの足関節底屈に対する抵抗量が脳卒中後の膝関節の運動に影響を与えることが示唆されています(8)。
そこで今回引用した論文では、反長膝を有する脳卒中者に対してジョイント付きAFOの足底屈に対する抵抗量を変化したときの膝関節の運動学および生体力学を検討しています。
論文の詳細は下記↓
対象:反張膝を有する脳卒中者6名(年齢:52±11歳、発症後:7±4年)
対象基準:
1) 歩行時の立位で反張膝を有する方
2) 歩行補助具なしでAFOを使用してトレッドミル歩行が安全に行える方
3) 脳卒中後6ヶ月以上の反張膝は、麻痺側立脚期で膝伸展0度を超えるものと定義した(9)
臨床評価
Timed up & go test(TUG)
Modified Ashworth Scale(MAS)
Manual Muscle Testing(MMT)
歩行分析
装具は4段階(S1~4)に足関節底屈方向に対する抵抗力を変化させることができる装具を使用↓(論文より引用)
それぞれのバネの強さの定義はこちら↓
足関節の角度によりそれぞれの抵抗感が定義されています(単位:Nm)。
0度:1.98(S1) ~ 8.29(S4)
10度:2.12(S1) ~ 12.61(S4)
20度:2.41(S1) ~ 20.35(S4)
※今回の論文ではこの硬さの定義が大事なように思います!
理由として、後の結果を見ていただければわかりますが、この装具の硬さによって統計学的な結果が異なっています。
下記は参考程度に↓
Nmの定義:ある定点から1 m隔たった点にその定点に向かって直角方向に1 Nの力を加えたときのその定点のまわりの力のモーメント。
最も柔らかい設定(S1)に比べて最も硬い設定(S4)は足関節0度で約4倍の強さなので、臨床で活用する場合、主観的にはなりますが、柔らかい装具(フレキシブル)と比べて硬い装具(リジッド)は約4倍程度の力の入れ方など調整をして評価すると良いかもしれません。
加えて、論文情報から少し外れますが、渡邉英夫先生の「脳卒中の下肢装具」(10)では、下記のように装具の硬さ(たわみの程度)を定義しています↓
フレキシブル:手で容易にたわむ程度の硬さ
セミフレキシブル:手でどうにかたわませることができる程度の硬さ
セミリジッド:手でたわませることは難しいが、体重をかけるとたわむ程度の強さ
リジッド:体重をかけてもたまわない程度の強さ
この辺も加味しながら装具の硬さや歩容を観察できると良いかと思います!
では論文からの情報に戻ります↓
身体にマーカーを接地して各関節の動きを観察した。
歩行はトレッドミル上で、ハーネスを装着し快適歩行にて実施。
4つの硬さに設定できるバネの条件(S1~4)でそれぞれ歩行データを測定した。
各対象者から反張膝と特に関連する立脚初期から立脚中期にかけて下記の生体力学的なデータを取得した。
1. 足関節底屈角度の最大値
2. 足関節背屈モーメントの最大値
3. 膝伸展角度の最大値
4. 膝関節屈曲モーメントの最大値
統計学(差の検定)
1. Friedman検定、Wilcoxon検定を実施
2. 統計学的有意差は0.05とされた。
結果
対象者の各臨床評価
1. TUG:10.62~20.18秒
2. MAS:2~3
3. MMT:足関節屈筋1~4、足関節背屈0~4、膝伸展3+ ~5、膝屈筋2+ ~5
※↑これは、今回対象となった方の”属性”として捉えれば良いかと思います。つまり、下記に示す結果を解釈するに当たり、臨床的にも上記に該当する方であれば同様の所見として観察される可能性がある、ということですね。
では、生体力学的な特徴を深めていきましょう!
1. 足関節の角度とモーメントについて
装具の硬さ(S1~4)の条件で足関節の角度とモーメントは統計学的な有意差が観察されています!
具体的に解釈すると、
足関節角度:S1と比べて、S3,4は統計学的有意差あり
背屈モーメント:S1と比べて、S4で統計学的有意差あり
AFOの足関節底屈への抵抗量を増加させることで、足底屈角度の最大値が減少し、足関節背屈モーメントの最大値が増加することが示されました!(下図, 論文より一部編集して引用)
2. 膝関節の角度とモーメントについて
装具の硬さ(S1~4)の条件下で膝関節伸展角度とモーメントの平均に統計学的な有意差が認められています。
具体的解釈では
膝関節伸展角度:S1と比べて、全ての硬さ(S2~4)で有意差あり
膝屈曲モーメント:S1と比べて、S3,4で有意差あり
AFOの足底屈に対する抵抗量を大きくすることで、膝伸展角度の最大値と膝屈曲モーメントの最大値の両方が減少することが明らかとなりました!(下図、論文より引用)
臨床解釈
知見からのまとめ
では、ここからは考察と合わせて臨床的解釈を深めましょう!
関節角度とモーメントの関係性から見ていきます!
まず、モーメントの種類についてざっくりまとめていきます。
人体で発生するモーメントは主に2種類です。
外部モーメント:床反力などによって発生する外部から発生するモーメントのこと
内部モーメント:外部モーメントに対して人体内部で発生させているモーメントのこと(多くは筋肉)
イラストで見てみましょう!
外部モーメントのイメージはこんな感じ⇧
つまり、この外部モーメントに内部モーメント(筋)が働かないと膝関節は屈曲方向へ誘導されます(いわゆる膝折れ)。
一方で内部モーメントを発生させると、
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脳Life 〜PTのための英文Review〜
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