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あの日チャットモンチーに恋をした
もうそれは、一目惚れでした。
小学生の頃のこと。
当時の私はアイドルが大好きで、毎日毎日アイドルのことばかり考えていました。その日はMステのスペシャルを観ていて、好きなアイドルの出番はいつだろう「まだかな、まだかな」とテレビの前に座っていました。
この人たち知らないなぁ。
チャットモンチーの出番がきたときの私は、なんともマヌケな顔でテレビを観ていた気がします。
それなのに。
曲がはじまって、はじまってというか、鳴りはじめたその瞬間、私はチャットモンチーの音楽の沼に落ちたのだと思います。
今 とび魚になって
空と海 バタフライ
曲は「とび魚のバタフライ」。
画面の下に出ている歌詞を見ても、その意味はよくわからなかったけれど、小さい頃に絵本を読んだときの感覚。なんだか真似してみたくなる、かわいくて陽気なリズムでお話がはじまる。
空へ駆け上がっていくように色が響くと
ブルー ブルー ブルー ブルー
ブルー ブルー ホワイトブルー
私の身体も、心も、いっしょに浮き上がっていくような気がしました。
衣装とかセットとか、特別こだわって作られたものじゃないのに。
音楽の力だけで一気にその世界に連れていってくれる。そんなものに私ははじめて出会ってしまったのです。
「好き」
出会ったその日に、私はチャットモンチーの音楽に恋をしました。
さっそく母に頼んで着うたフルをダウンロードしてもらいました。
(着うた、懐かしすぎて泣きそう)
毎日毎日聴いて、口ずさんで。
だけど、友達にチャットモンチーのことは教えなかった。
全世界でたくさんの人がチャットモンチーの音楽を愛しているというのに、当時の私は、「この気持ちを独り占めしてやる」とメラついていました。
そうして、チャットモンチーをこっそりと愛し続けた私は
29歳になりました。
あれから今日まで、私のそばにはいつもチャットモンチーの音楽がありました。
鬱陶しいルールに縛られて苦しかった中学生の私は、「ヒラヒラヒラク秘密ノ扉」を聴いていました。
はじめて先輩のことを好きになった高校生の私は、「8cmのピンヒール」を聴いていました。
ひとり暮らしを始めた部屋で「東京ハチミツオーケストラ」を聴いて、「親知らず」を聴いてホームシックになりながらも、「きらきらひかれ」を聴きながらこの生活を頑張ってみようと決めました。
だけどまわりと馴染むことのできなかった専門の帰り道、私は「橙」を聴いて泣いていました。
「桜前線」を聴いて入社式に参加して、仕事を辞めた日「ハイビスカスは冬に咲く」を熱唱していました。
「majority blues」を聴きながらこれからの人生に悩んで、「コンビニエンスハネムーン」をテーマ曲に結婚生活をはじめました。
そして今、「びろうど」に励まされながら不妊治療を頑張っています。
私の頭の中にある世界を、いつも、ひとまわりふたまわり、まるで本を読んだあとみたいに広げてくれるチャットモンチーの音楽は、私をもっともっと私らしくしてくれた。
今も、きっとこれからも、私はチャットモンチーの音楽といっしょに生きていくのだと思います。
だけど、これからは、自分のものだけにしない。
私の大好きな人たちにもチャットモンチーの音楽を好きになってほしいし、偶然出会っただけの人にも、これを読んでくれているあなたにも、好きになってほしい。
だから私は、私の「大好き」を共有することにしました。
「#ハマった沼を語らせて」