私と結婚
先日の8月8日、結婚してから13年が経った。
しかし私は今独身だ。要するに離婚している。
私の結婚相手は、私にとってこれ以上ない理想の人だった。
夫としても、恋人としても、友人としても、家族としても、時には父親としての役割も果たし、そして何より人間として好きだった。
私たち夫婦は一般的な夫婦とは少し異なったかもしれない。
まずお互いの一人の時間を大切にしている。
月に2日だけはお互いと過ごす休日、それ以外は自分の好きなことをする日と、毎月決めていた。
そしてお互い別々の部屋を持っていた。
眠るのも当然別々で、お互いの部屋に一つずつベッドがあった。
食事も無理に作らないし、時間が合わないときは一緒に食べない。
ふらっとその日のノリで「今日は外食にしようか」となり、よく近所のファミレスや焼肉屋に食べに行ったりもした。
家事はお互い余裕がある方がやる。やらなくてもお互い特にそれでイラついたり喧嘩になったことはない。
帰りの時間が遅くなっても(それが例え午前様だろうが)事前に連絡しておけば問題はないし、異性の友達と遊びに行くときも同じだ。
夫とは趣味がとにかく合った。音楽、本、服、お笑い…。
お笑いでとりわけ私たちのお気に入りの芸人は、バナナマンとおぎやはぎだった。
DVDを買い、休みの前の夜お気に入りのコントをDVDが擦り切れるまで、台詞を覚えるまで繰り返し見て笑った。
子どもは作らないということも、意見が一致していた。
じゃあなぜ離婚したのか?とよく聞かれる。
それはさまざまな事情が複雑に絡まってるし、離婚前後のことは辛すぎて私の記憶にないし、いつ離婚したかも定かではなく、離婚届を書いて判を押したことすら覚えていない。
だけど私は夫のことを一度も悪く思ったことはない。
悪く思うどころか、あんな幸せな結婚生活を経験させてくれて感謝している。平凡だけど夢のようなかけがえのない日々だった。
好きな人に私の結婚生活の話をしたことがある。
好きな人は「周りで離婚した人の話を聞くと、みんなどれだけ相手がひどい人だったか、結婚生活がいかに地獄だったかってことばかり言うけど、君の口からは一度も旦那さんの悪口が出てこないね」と少し驚かれた。
それは当たり前のことなのだ。だって今でも夫を嫌いになってはいないから。
ただそれだけ好きな人と別れるときは本当に辛く、離婚したあとは人生のどん底だった。体も心も壊し、仕事も辞めた。辞めざるを得ないほど追い詰められていた。
元気になるまで相当の年月がかかったが、彼と別れなければ巡り会えない出会いもあって、その出会いが今の私を支えてくれてる。
私の結婚生活を一言で言うならば、やまだないとの「西荻夫婦」、映画「ぐるりのこと。」そのものだった。
両方とも結婚したあとに出会った作品だが、あまりにも私たち夫婦にそっくりで驚いたのを覚えてる。
一度結婚を経験してるので、また結婚したいという願望は特にない。
夫ほどの理想の人、そして価値観が合う人が現れて、私と相手の気持ちが結婚したいと思うなら結婚するかもしれないが、今のところその可能性は極めて低い。
最近の若い人は結婚願望がないと聞くが、それでも私の周りにはとても結婚に焦ってる人がいて、それは圧倒的に女性が多い気がする。なぜそんな若いのに焦るのだろう?それに結婚をゴールにしてるように見えるけど、そこがスタートでそれからが大変なのにと疑問だったが、子どもが欲しいからなのかとも思った。
私は生まれてからこのかた一度も子どもを欲しいと思ったことがない。それは人間の本能としておかしいので、何かが欠けてるのかと思うほどに思わない。自分の世話をすることでも精一杯なのに、子どもを育てるなんてとてもできないし、自分が一番可愛いから親になる責任など負えないと自覚してるからだ。今でも子どもを産んだ人、産みたいと思う人の気持ちはまったくわからない。私にはとてもできないのですごいなぁ、大人だなぁと思う。
夫と別れたことで私は独りになった。孤独と向き合う生活はとても苦しいけど、自由と引き換えにしたのだから仕方ない。今私は誰かの人生を背負ったり責任を取る立場ではないから、自分の好きなことだけをして生きていくと決めたのだ。だから結婚に限らず、自分の自由が拘束されるような恋愛もしたいとは思わない。
毎年8月8日になると、幸せだったあの日々を少しだけ思い返す。
それは当時に戻りたいとかではなく、自分の心の宝箱をそっと開けその中の宝物を静かに見返すだけだ。黒歴史という言葉があるけれど、私にとって結婚は金糸のような歴史だ。