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2023夏のまとめ

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2023年夏に作った小説・詩・脚本などをまとめました。
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記事一覧

母性に代わるもの

母性に代わるもの

厚底ピザ作
 しのぶが初めておばあちゃんの家に一人で長期滞在したのは、小学三年生のときだった。
 父と母の離婚調停が思いの外長引き、母方の祖母が一人で住まう田舎へと預けられたのである。一口に田舎と言っても、コンビニが近くになく、やや都心部へのアクセスが悪い集合住宅地や、誰もが田舎と聞いて想像するような野畑や山の連なるのどかな土地などさまざまあるが、しのぶの祖母の邸宅は、まさに後者であった。
 一帯

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裸眼家族

裸眼家族

小野美香作
 午後九時、豪雨。避難指示を告げた我が家唯一のテレビは停電により、今この時をもって黙り込んでしまった。え、本当に避難しないといけないの?年寄とか水辺に近い人だけじゃない?と思いながら窓の外を見ると、懐中電灯やらスマホの明かりやら何やらがちらちらと移動しているのが見える。やべ、まじか。えー、くそ熱いこの時期に停電ってだけでけっこうクるのに、人が密集してる場所にわざわざ行くなんてどうかして

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夏のおもいで

夏のおもいで

さとう りょう作

  明日お墓参り、付いてこられる? 予定なければ。
 スマホのバイブレーションの音とともに、画面に表示されたメッセージを確認する。送り主は父。久しくやり取りをしていなかったくことを反省しながら、これはデートのお誘いのような文章だと一瞬考えたりもしたが、ご先祖様への後ろめたさと、父への少しの気まずさを感じたため、ふざけた考えを頭の中からかき消した。
 私の地元は神戸にある。中心地

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彼女と星の椅子

彼女と星の椅子

ナポリタン作
 ピンポン。四畳半の部屋に、短い、気の抜けたドアチャイムが鳴り響く。
玲が返事をする間もなく、そこら中に散らばっているカップ麺を避けながらニコが部屋に入ってくる。玲の部屋にあるのは、たばことカップ麺と2脚の椅子とテレビ、そして一本のギター。天井には、いつもプラネタリウムが映し出されている。
「相変わらずちぐはぐな部屋だねえ」
ニコは、天井を見ながらつぶやき、玲の隣に置いてある椅子に座

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陰のヒーロー

陰のヒーロー

フラミテ作

夜更かしをしている人々は真夜中と呼び、早々に就寝した人々は早朝と呼ぶ、あいまいな時刻に差しかかった頃、カーテンのわずかな隙間から激光が差し込んできた。ベッドの上で寝ていたヴァクトは一瞬で目を覚ます。おそらく過去一の寝起きの良さだ。何事かと思いカーテンを開けるとそこには、おそらく地球にいる生き物ではなさそうな生き物がこちらを見つめて突っ立っていた。聞いてもいないのに名前はエンジェルだと

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動悸のない日常A

動悸のない日常A

小紫作
 ことの発端はアルバイト先で、「○○人とつく流行っている言葉知らない?」と聞かれ
たことだったと思う。三十も年上のおじさまというには品がありすぎる、いつも髪の毛が漆みたいに黒黒と人工的な光沢を放つ先輩だった。
私はリサイクルショップに持ち込まれた古着の鑑定をするため、ルーペを蟻を観察する自由研究中の小学生男子のように一心に見ているときだったから「はあ」という気の抜けた声しか出なかった。

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膜質について

膜質について

戸川 百葉子作

オオバコはぐカタカナ あのひとの文体を生きたいと思った

私淑 でも知りたくなってしまうから木管楽器の指にんで

わたしには膜が見える。
膜はきまって話す人に付随する。膜は前方に見えるときと、後方に見えるときがある。そのとき話した人は前者で、だから、あの人は後者だった。膜はレースカーテンのようで、人によっては花柄なんかもついている。と聞くと膜じゃなくて幕だよと言いたくもなるだろう

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夜 10 時の吸血鬼さん

夜 10 時の吸血鬼さん

おいさん作
ある日、町の中、吸血鬼に、出会った。 
花咲く森の道ではなく、歩道橋のふもとで、出会った。 
*** 
塾から家への帰り道は二種類ある。 
1、明るくて遠回りのルート。 
2、暗くて近道のルート。 
その日の私はそろそろ家、学校、塾の「 真夏の大三角か!」とツッコミを入れたくなる三 点周回の生活にいいかげんにうんざりしてきていたのと、(ギリギリ自転車通学が許可され 
ない距離)+(学校

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「金木犀」

「金木犀」

ゆ作   〈原案〉「冥途」内田百けん作
1 M駅/夕方
    電車が出発する様子を映す。ぞろぞろとホームから出てくる人の足元を映す。

2M川沿いの道/夕方から夜にかけての時間
 流れる川の映像から、一人で歩いている私の後姿を写す。他人よりもゆっくりと歩いている。
 私(心の声)「最近、何度も同じ夢を見る……」
 正面からのアングルに切り替わる、俯いている為表情は分からない。

 暗転

3 部

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白昼夢

白昼夢

はちみつねこ作
 Aと出会ったのは、高校二年生の春だった。
新学期のクラス替えで、一年の頃にできた友人たち全員と見事に離れてしまった私は、始業式の日から暇を持て余していた。そんな私に話しかけてきたのが、隣の席になったAだった。
Aはとにかく人との距離の測り方が下手だった。そしておしゃべりだった。そんなAが当時の私にはうっとうしかった。しかし、Aは私の露骨に嫌そうな顔にも気がつかなかった。Aは同時に

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ワンダフルワールドエンド

ワンダフルワールドエンド

ゴマ作

一閃が私を攫っていく。
それはステージの後ろからの照明でも、誰かのスマートフォンから漏れる光でもない。
それは紛れもなく本物の魔法であり、祈りだった。
視界を貫いて目を眩ませた光芒がわたしを包んだ時、
その魔法に意図的にかかったままでいることを、たとえそれが呪いでも、
それを祓わずにいることさえも、赦されるような気がした。
フィクションではもう泣けなくなってしまったわたしの涙を流させる唯

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「再会」

「再会」

やまし作   〈原案〉「冥途」内田百けん作
1 土手/黄昏時(撮影:M川河川敷)
  私はゆっくりと土手を歩いている
  私の手にはお酒の缶が握られており、少しふらふらとした足取りである
  左手にはコンビニの袋がある。
  線香の煙が空に昇っていく
  ぼうっとした様子で煙の方向に目を向ける
私「お線香……?」
  足を止めて、あたりを見回し、
  線香の匂いの出所を探す
  遠くに提灯が見え、

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落花

落花

坂永みこと作

春。今年も桜は綺麗に咲くだろうか。
徐々に芽吹く準備を完了させてゆく木々を横目に、人々は今日もせわしなく歩を進める。
さわやかに山から吹き下ろす風に背中を押されて、僕は電車に飛び乗った。
今日は久々に君に会える1年に1度の大切な日。1年に1度の、大切な、日。

春。僕たちの出会いは4年前。街中が桜色に染まる春。淡いピンクの吹雪が舞う通学路。
学校なんか、好きで行ってるわけじゃない。

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渇望

渇望

七本キメラ作
 その一年間のことを、私は激しい胸の痛みと共に思い出す。いや、胸が痛み出すと同時にその時のことが思い出されると言った方がいいだろうか。それは比喩表現でもなんでもなく、本当にじくじくと胸が締め上げられるのを感じるのだ。
 痛みが襲ってくると、私は俯いてそれをやり過ごす。下を向くと、自分の赤毛が視界に入ってくる。
 私は半ば眠るようにして、過去の記憶が奔流のように押し寄せてくるのに身を任

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