MWU Writers in Residence

MWU Writers in Residence の作品を公開します。この創作活動は限…

MWU Writers in Residence

MWU Writers in Residence の作品を公開します。この創作活動は限定会員(MWU関係者)によるものですが、完成した作品は様々な人に読んでもらうことを期待しています。スキ、とっても励みになります。

マガジン

  • 2024小説まとめ

    2024年に集まったクリエイターでそれぞれ小説を書きました。 試験的なプログラムにおける作品群につき、それぞれの表現価値に鑑み、そのまま掲載しています。

  • 2023夏のまとめ

    • 14本

    2023年夏に作った小説・詩・脚本などをまとめました。

最近の記事

束の間の休息

作・夢霧 凪奈(ゆめぎり なぎな) 「お父さん!!お帰りー!」 ドアを開けると、満面の笑みの愛しい我が子達と嬉しそうな笑顔を浮かべた妻が立っていた。 「ただいま、イリア、イワン、ナターシャ。ああ、我が家だ、、、、、、。」 ドアを開けたら妻と子供達が居るという事は日常である筈なのに、まるで腰から力が抜けた様な妙な安心感を覚えて、僕はどこか腑抜けた表情をしていたと思う。 「お父さん?大丈夫?」 心配そうにイリアとイワンがこちらを覗き込む。 「ねぇ、アナタ、もしかして、、、、、。」

    • ニャるお系小説~転生したら鳴尾駅近辺の猫だったので、さくっとキセル乗車してみた~

      作・猫田 歩  宝塚記念当日。人生を懸けて臨んだその日、目が覚めると私は猫になっていた。茶色と、ちょっと濃い茶色の縞模様。いわゆるトラ猫である。貯金ができればエステにでも行こうかと考えていた腕には、密林のような体毛が生えそろい、手のひらには肉球がちんまりとある。我ながらかわいらしい。  そんなことはどうでもいい。おびただしいデータとにらみ合い、一つの真実を見出した。今日はその答え合わせの日、宝塚記念。それなのに!  なんで猫なんだ!  太陽はすでに頭上に近い。今はいったい、何

      • 花占い

        作・めのう  花占いというものを、私は一度も試したことがなかった。せっかくなら、答えが予想できないほうがきっと楽しいと思って、花弁の多い花を探すことにした。  私の家の庭は広くない。広くないし、殺風景である。例えば植物に対して、芝生と雑草の区別がつかないような、その程度の興味しか持ったことがない。どの花の苗を、どんな日当たりの場所に、いつ植えればよく育つかを、調べたこがとない。玄関を出て、もう長らく磨いていない石畳の上を歩くと、かつかつと足音ばかりがよく響く。隣に住んでいる

        • 仮にそいつをAとする

          作・おいさん 【仮にそいつをAとする】  人間、誰しも妙に記憶の端に引っかかっている人物がいるものだ。  仮にそいつをAとする。  Aは自身を「部活回遊魚」と名乗っていた。Aの所属は「帰宅部」または「無所属」としか言いようがない。が、実際はありとあらゆる部活に顔を出しては、しばらくそこで過ごし、いつの間にかいなくなっている…を繰り返していた。つまり、Aはこの学校のありとあらゆる部活と部室をグルグル回っていたのだった。なので、「部活回遊魚」らしい。  最初の頃は教師陣も難色を

        マガジン

        • 2024小説まとめ
          8本
        • 2023夏のまとめ
          14本

        記事

          高嶺の花

          作・咲夜 「君さ、何を思ってこれを書いたんだい?」 「あ、その、えっと、これは主人公が懸想した相手にーーー」 そんなことはわかってるよと相手の呆れたような声が耳朶を打つ。ああ、まただめだ。 家路をとぼとぼと歩く。昼下がり、賑わう人通りを避け、路地にはいってすぐの家の扉をガラガラと開け、力なく後ろ手でしめた。 「はあ…。またか…。」 僕は、しがない物書きである。まだ売れたことすらない、作家志望のままである。 最初は、ものを書くという行為は、もっと光に満ちていた。あれやこれや

          ハビタブルゾーン

          作・みぎりん 「会いに来てね」と彼女は言った。  目が覚める。空はあきらかに起きなくてもいい時間帯の様子で、とても心地いいとは言えない目覚めだった。その不快さにルーカスは青と紫の混じった色を覚えた。その感覚にさえ苛立ち、仕方なしにベッドから体を起こす。  人と人は感じていることはそれぞれ違っていて、それは当たり前なのに、わかってもらえないことがどうしようもなく耐えられないのがルーカスだった。彼はあらゆる事柄に色を感じている。例えるならば数字の一と聞けば水色で、アルファベット

          ハビタブルゾーン

          現代社会のユーロビート

          作 東道海馬 ◆無意識空間のパノプティコン 「あの人が、亡くなった」  急な知らせでございます。その日私は普段通り、縁側にて煙管を吹かせながら茫然と中庭を眺めている所でございました、するとそこに水を差すように、確かにその人の死が舞い込んできたのでございます……それのなんとまぁ唐突たるや。すぐさま煙管を放り投げ、ベランダの錠を閉めるのさえ忘れ、私はすぐさまあの人のもとへ、駆け出すのでした。いえ、決して知らせをくれた若者に対して非難するつもりはありません…ましてや急逝したその人

          現代社会のユーロビート

          遥か彼方で声がする

          作:朝日かる 1  ちょっとあなた、と呼び止められて足を止めた。  深夜三時の住宅街に人が多いわけはなく、私以外に「あなた」に当てはまるような人間はいない。同時に、呼び止めてくるような人間も滅多にいない。これが噂に聞く職務質問かとやや怯えながら振り向いたが、街灯に照らされて道路の真ん中に立っていたのは一人の女の子だった。同じくらいの年頃だろうか。果たして同じ年頃の女性を「女の子」と言っていいものなのか、そろそろ二十四歳になる私は自分たちの属する位置がよくわからなくなってきて

          遥か彼方で声がする

          「金木犀」

          ゆ作   〈原案〉「冥途」内田百けん作 1 M駅/夕方     電車が出発する様子を映す。ぞろぞろとホームから出てくる人の足元を映す。 2M川沿いの道/夕方から夜にかけての時間  流れる川の映像から、一人で歩いている私の後姿を写す。他人よりもゆっくりと歩いている。  私(心の声)「最近、何度も同じ夢を見る……」  正面からのアングルに切り替わる、俯いている為表情は分からない。  暗転 3 部屋/昼頃(夢)   私は、部屋に入った時に何かの匂いに気が付く。 私(心の声)「

          夏のおもいで

          さとう りょう作   明日お墓参り、付いてこられる? 予定なければ。  スマホのバイブレーションの音とともに、画面に表示されたメッセージを確認する。送り主は父。久しくやり取りをしていなかったくことを反省しながら、これはデートのお誘いのような文章だと一瞬考えたりもしたが、ご先祖様への後ろめたさと、父への少しの気まずさを感じたため、ふざけた考えを頭の中からかき消した。  私の地元は神戸にある。中心地から離れた住宅街の一角に私の住む家がある。大学を卒業し、就職してから二年経ったが

          彼女と星の椅子

          ナポリタン作  ピンポン。四畳半の部屋に、短い、気の抜けたドアチャイムが鳴り響く。 玲が返事をする間もなく、そこら中に散らばっているカップ麺を避けながらニコが部屋に入ってくる。玲の部屋にあるのは、たばことカップ麺と2脚の椅子とテレビ、そして一本のギター。天井には、いつもプラネタリウムが映し出されている。 「相変わらずちぐはぐな部屋だねえ」 ニコは、天井を見ながらつぶやき、玲の隣に置いてある椅子に座る。 「コイツも下手くそ。どいつもこいつも馬鹿ばっかり。なんにもわかってない、最

          彼女と星の椅子

          白昼夢

          はちみつねこ作  Aと出会ったのは、高校二年生の春だった。 新学期のクラス替えで、一年の頃にできた友人たち全員と見事に離れてしまった私は、始業式の日から暇を持て余していた。そんな私に話しかけてきたのが、隣の席になったAだった。 Aはとにかく人との距離の測り方が下手だった。そしておしゃべりだった。そんなAが当時の私にはうっとうしかった。しかし、Aは私の露骨に嫌そうな顔にも気がつかなかった。Aは同時にとんでもなく鈍いやつでもあったからだ。 Aは休み時間になるたび、私に話しかけてき

          陰のヒーロー

          フラミテ作 夜更かしをしている人々は真夜中と呼び、早々に就寝した人々は早朝と呼ぶ、あいまいな時刻に差しかかった頃、カーテンのわずかな隙間から激光が差し込んできた。ベッドの上で寝ていたヴァクトは一瞬で目を覚ます。おそらく過去一の寝起きの良さだ。何事かと思いカーテンを開けるとそこには、おそらく地球にいる生き物ではなさそうな生き物がこちらを見つめて突っ立っていた。聞いてもいないのに名前はエンジェルだと教えてくれた。だが、お世辞にもエンジェルとは呼べない容姿だ。きりっとした目つきに

          ワンダフルワールドエンド

          ゴマ作 一閃が私を攫っていく。 それはステージの後ろからの照明でも、誰かのスマートフォンから漏れる光でもない。 それは紛れもなく本物の魔法であり、祈りだった。 視界を貫いて目を眩ませた光芒がわたしを包んだ時、 その魔法に意図的にかかったままでいることを、たとえそれが呪いでも、 それを祓わずにいることさえも、赦されるような気がした。 フィクションではもう泣けなくなってしまったわたしの涙を流させる唯一の音楽。 ずっと足元を照らしてくれているささやかな光は、 画面もイヤホンも介さ

          ワンダフルワールドエンド

          裸眼家族

          小野美香作  午後九時、豪雨。避難指示を告げた我が家唯一のテレビは停電により、今この時をもって黙り込んでしまった。え、本当に避難しないといけないの?年寄とか水辺に近い人だけじゃない?と思いながら窓の外を見ると、懐中電灯やらスマホの明かりやら何やらがちらちらと移動しているのが見える。やべ、まじか。えー、くそ熱いこの時期に停電ってだけでけっこうクるのに、人が密集してる場所にわざわざ行くなんてどうかしてるよ。ってかどこに避難すんの?避難バッグとかもちろんないし。あ、でも通帳いるかな

          「再会」

          やまし作   〈原案〉「冥途」内田百けん作 1 土手/黄昏時(撮影:M川河川敷)   私はゆっくりと土手を歩いている   私の手にはお酒の缶が握られており、少しふらふらとした足取りである   左手にはコンビニの袋がある。   線香の煙が空に昇っていく   ぼうっとした様子で煙の方向に目を向ける 私「お線香……?」   足を止めて、あたりを見回し、   線香の匂いの出所を探す   遠くに提灯が見え、煙が上っている様子が見えた 私「あ、お盆……」   納得してまた歩き出す 私(ナ