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「弾いてみた」の著作権問題と、自分なりの付き合い方の話

どうも、今日は比較的お堅い話をする予定のkです。

私、ちょっと前まで所謂「弾いてみた」動画を時々投稿していたんですが、とある出来事をきっかけにすっぱりとやめてしまったんですよね。で、やめてかれこれ1年半くらい経つんですが、先日筆者の知り合いが、演奏動画が原因でTwitterアカウントを凍結されるというレアイベに見舞われました。一体何K from 何として時雨を弾いたんだ…(適当)

この問題が一層シビアになったのを感じると同時に、現状、著作権を取り巻く環境について気になり、調べ直し始めるきっかけとなりました。

こちらは私が動画投稿を中断したきっかけの一つでもある、タメシビキのYouTubeチャンネルで有名な山口和也氏のツイートです。正直な話、「弾いてみたって著作権侵害だよな~」という漠然とした意識を持ちつつも、具体的な問題がどこにあるか、把握しないまま「ま、みんなやってるしいっか」と動画投稿をしていた方、結構多いのでは無いでしょうか?(私もそうでした)

とはいえ、私自身ギター弾きとして成長する上で、弾いてみた動画にはメチャメチャ大きな影響を受けましたし、演奏そのものだけでなく、演奏者同士のコミュニティを形成する上でも、多くのアマチュア演奏者にポジティブな影響をもたらしてくれている文化であることも否めないと思っています。

この記事ではどうしたらクリーンさを遵守しつつも弾いてみたを楽しめるか、調べ物のまとめがてら記事を書いてみたので、ぜひ読んでいただけると幸いです。

この記事のゴール

先に結論を言ってしまいますが、弾いてみたにまつわる著作権問題は現時点で完全にグレーゾーンを脱するのは難しい状況です。アーティストの利権の完全な保護と、アマチュア演奏家がやりたいことを100%両立させる法整備や、仕組み作りは完成しきっていません。

かといって、これから述べるような論点をないがしろにしたまま、今のまま弾いてみたを続けるのも良くないな、と思っています。自分がこの問題について考えるようになったのは、とある弾いてみた演奏者のツイートがきっかけでした。

あまり蒸し返したくないので程々にしますが、ざっくりまとめると、その昔、弾いてみたで収益を得ていたことに否定的なコメントをされた際に「弾いてみたがあることで原曲が広まるんだから、逆に感謝して欲しい」といった趣旨の発言をされた方がいらっしゃったんですよね。

これは流石にTwitterで炎上し、ご本人も謝罪されていたので、これ以上深掘りして攻撃する意図はないのですが(そもそも実態だけみれば同類だった自分にそんな権利は自分にない)、この件は自分が過去にTwitter上で投稿していた動画を全て削除し、投稿を現在に至るまでストップした決定打となりました。多くの労力の上で作られたであろう楽曲に安易にフリーライドしてしまっていた気がして、後ろめたさや恥ずかしさを感じたんですよね。何より曲を作った方々へのリスペクトは絶対に忘れてはいけないな、と考えさせられる一件でした。

しかし、コロナ禍でバンド活動もし辛い中、演奏に対する欲求は高まる一方。なんとかアーティスト側の利益を守りつつ、自分もルールの範囲内で楽しむ方法を実現する、をゴールに、この問題について考えてみました。

現状

筆者の知識はほとんどインターネットベースなのに加え、概要に関する記事は既出の為、出典はしっかり出しつつ、基本的には要約を中心にお届けしたいと思います。
極めて分かりやすいフローでまとまった記事がありましたので、概要はこちらで包括的で掴みに行っていただければと思います。

<引用元>『西村直浩ドラム・パーカッション教室』様より
https://nishimuradrum.issite.work/「演奏してみた」動画の音楽著作権てどうなって/

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めちゃめちゃ分かりやすいので図をお借りしてきました。弾いてみたをクリーンに楽しむ上で重要なのは、このフローチャートの遵守です。

ここからは以下のような、ごく一般的な弾いてみた動画のケースに落とし込んだ上で、どのような問題点があるのかを見ていきたいと思います。

<想定ケース>
著作権フリーでないJASRAC登録の楽曲に対して
1.「自分が演奏した音源」を
2.「CD音源に載せた」動画を作成して
3.「Twitterに動画」+「YouTubeのURL」で拡散

1. 複製権

まず1.の「自分が演奏した音源」ですが、要は元の楽曲のメロディを録音という形で複製しているわけですよね。これがおそらく一般的に著作権として広く認識されている複製権というやつです。(厳密にいうと、「著作権」と定義される権利の中の一つです)

作品の個性的表現(著作物性)を参考にして(依拠性)同じものを製作(類似性)することに対して制限をかける権利で、つまるところ、これが担保されていないと、例え自作オケを使用した動画であっても投稿は違反と解釈できます。(フローチャートでいうところの1つ目のNG)

日本では多くの場合、JASRACに著作権の委託管理しているので、利用にあたってはJASRACの許諾が必要です。担保の仕方は2通り。まずは個人でJASRACとの利用許諾手続きを行うこと。2つ目は3.のセクションで後述しますが、利用許諾契約を締結しているプラットフォームで動画投稿を行うこと。おすすめは圧倒的に後者ですね。というか、前者は手間に対してのメリットが小さすぎます。詳細は後述します。

2. 原盤権

この辺からややこしくなります。原盤権著作隣接権の一種で、音楽を録音、編集して完成した音源(いわゆる原盤、マスター音源)に対して発生する権利のことです。

また新しい用語が出てきましたね。著作権と似た響きですが、著作隣接権というのは基本的には著作権とは独立した概念です。著作権が著作物の創作者を守る権利であるのに対し、著作隣接権はその流布に貢献のある者を守る権利です。弾いてみたの領域でいえば、レコード音源をインターネット上にアップロードする権利は製作を担うレコード会社が専有している、ということになります。

ここで重要なのは、JASRACは原盤権についてはノータッチなので、こちらは著作権(複製権)とは別軸で担保する必要があるという点です。YouTubeにCD音源付きの弾いてみたを投稿すると、削除されたり公開制限がかかったりしますが、クレーム元がJASRACではなくレコード会社なのは、こういう背景があったんですね。自分も調べるまでこの仕組みを知りませんでした。

CD音源を利用するということは、弾いてみたを作る側からすればオケ作成の手間やクオリティの観点からもメリットは大きい一方で、製作者からしてみれば完全なフリーライド。JASRACと異なり、個人がレコード会社に申請するフローも確立されていない為、使用可否が非常に判断しづらい状況になっています。このような背景から、弾いてみたで今一番の論点になっているのはこの原盤権だと思います。

3. 投稿先のプラットフォーム

これらの問題に対して、投稿先によっては解決策を提示してくれている場合があります。著作権全般(複製権)と原盤権、それぞれ見ていきましょう。

3-1. 著作権全般

まずは著作権。YouTube等、一部のUGCサービスでは前述の通り、JASRACに対して著作権の包括的な利用許諾契約を代行してくれている為、以下URL記載のプラットフォーム上への投稿であれば、個々の申請は不要です

なるほど、Twitterってこの記事の投稿時点では原盤権どころか、複製権も保護されていないんですね。身も蓋もない言い方をすると、Twitter上でよく見る弾いてみた動画って、著作権侵害が只々野放しになっているだけなんですね… 正直、自作オケであれば動画付きでツイートして良いものと思っていましたが、これは大きな勘違いだったようです。

ただ、これだけカルチャーとして広まっている既成事実に加え、宣伝ツールとしては最適なSNSなので、Twitter社には今後の対応を期待したいところですね。それまでは動画付きのツイートは控えるのがベターだと思います。(動画のURLをツイートに記載する分にはOKのようです)

意外なのは画像メインのSNSであるInstagramが利用許諾契約を締結していたことでした。ここはやはり流石GAFA傘下コンテンツ、ということなのでしょうか…?

3-2. 原盤権(やっぱりYouTubeって優秀)

では、原盤権はどうでしょうか。結論から言うと、CD音源をそのまま使うのは黒、というか、完全に白とする理屈が立たないのが現状です。

前述の通り、原盤権は個々のレコード会社が保持しているので、著作権管理団体とは異なり、包括的な利用許諾契約はもちろん不可。個人で利用許可を取りに行くにも、レコード会社からしたら薄利な個別対応が増えるだけなので、普通は相手にしてもらえないのではないでしょう。では、弾いてみたは完全自作音源以外での投稿は一切認められないのでしょうか。

ここで一石を投じるのがYouTubeのコンテンツIDという機能です。独自の音声認証技術により、音声にIDを付けて、そのIDを元にアップロードされた動画を1つ1つ認証していくという技術です。

例えば、某バンドのCD音源をバックに使用した弾いてみた動画をアップした場合、楽曲の権利者はレコード会社になります。レコード会社は、コンテンツID機能を通じて、楽曲が使用された旨の通知を受け取り、その動画の音声を「無音」にするのか、そのまま使用を許可し、その動画に広告を表示させ、広告料の一部を受け取るかを、選択できるようになります。

YouTubeでコンテンツIDを通したりん☆しぐ弾いてみた動画の概要欄

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これ、メチャメチャ画期的ですよね。弾いてみたを全て規制するのは困難、ならば収益化してしまい、製作者と利用者にとってWIN-WINの関係を築いちゃおう、という発想です。現に、上記の動画は過去に公開地域が限定されており、日本での視聴ができませんでしたが、ここ数年で許容範囲が広がったのか、先日再公開設定を行ったところ、日本での視聴が可能になっていました。何よりも優先的に守られるべきである製作者の収益を守る、素晴らしいシステムだと思います。

ただ、これってどこまでいっても収益を正規の権利者に帰属させる手段であって、原盤権の使用を許可しているわけではないんですよね。個々の対応が難しい為、実質的にシステムを通じて目を通した上で使用を黙認している状態ということです。以上を踏まえると、「コンテンツID機能があるならガンガン原曲使っちゃえばいいじゃん」というのがグレーゾーンであることが良く分かると思います。
また、以下のポイントにも注意が必要ですね。

・コンテンツIDの対象となっていない(=レコード会社の目を通していない)動画は実質無審査無許可の状態
・レコード会社の方針が変わればすぐに利用停止することもできる
・YouTube固有の機能なので、同じ動画を他プラットフォームでは使えない

利権団体ってどうにもヤ○ザ的な悪い印象が付きまといがちですが、こうしてみると、色々と救済措置や譲歩を設けて、各方面をきちんと守る仕組み作りをしようとしてくれているんですよね。音楽に恩恵を受けている側の人間としては、その仕組み作りを邪魔をしないよう、最低限守るべきラインは理解した上で活動をする義務があると、改めて感じました。

海外の楽曲のケース

ここまではあくまでJASRACを中心にした日本の楽曲を前提に話してきましたが、一方で海外の楽曲も同様の仕組みになっているのでしょうか。

各国の対応をまとめていると流石にキリがない為、アメリカのケースにつき、軽く動画を見てみましたが、根本にある著作権・著作隣接権の考え方は同じのようですね。ただ、準拠法や用語の解釈に差異がありますので、楽曲の使用にあたっては一層注意が必要です。何より海外って訴訟社会ですしね…

需要があれば後日英語メディアを調べてみたいと思いますので、気になる方は是非コメント等いただければと思います!

個人的な見解と対応

前述の通り、製作者と利用者の双方の利益を実現する各対応は現在進行中で進んでいるので、恩恵を享受する立場である自分は、その対応を理解した上で、邪魔・違反することない範囲での活動をする義務があると思います。

現状のまとめとなりますが、私個人としては、以下の3点を落し処として守っていれば、最低限アーティストの利益を損じることなく、弾いてみたを楽しむことができるのでは、と考えています。

・動画そのものはTwitterに上げず、YouTubeのURLのみを投稿する
・CD音源を使うならYouTubeでコンテンツID機能を通す(スルーされたらその動画は非公開にする)
・一番の論点である原盤権の使用可否は各レコード会社に委ね、申し入れがあった場合は素直に受け入れる

(最後はちょっとセコいような気もするのですが… どなたか、もっと上手に整理をつけることができる方いらっしゃったら教えてください…)

また、これはあくまでもこの記事の投稿時点での解なので、常に情報をアップデートしていくことも、忘れることなくやっていきたいと思います。

終わりに

いつもと違って長文クソ真面目記事を書いてしまったので、いい加減頭がバグりそうです。

この件、全編通して「クソほどみみっちいなオイ!」という声が今にも聞こえてきそうですし、特にPR媒体として非常に優秀なTwitterで動画が上げられないことに対しては、正直なところ自分も思うところはあります。が、ルールはルールです。

個人的に、他人が自分のポリシーに当てはまらない活動をしていても批判するつもりも、取り締まるつもりも更々ありませんが、この考えはより多くの演奏家に拡まり、根付くことで初めて意味があるものだと思います。弾いてみた界隈にポジティブな循環が生まれれば、将来的に弾いてみたにまつわる規制の緩和・改善にもつながるかもしれないですよね。

この記事を見て一人でも共感してくれる方がいらっしゃれば嬉しいです。

<参考リンク集>


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