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ラヴェルを観る 映画 ボレロ 永遠の旋律

映画ボレロ 永遠の旋律 を観てきました。

ラヴェルと言えば『ボレロ』はもちろん、『水の戯れ』、『亡き王女のためのパヴァーヌ』など、とても有名な作品が多いのですが、では、作曲家ラヴェル本人はどんな人物だったのでしょうか。

モーリス・ラヴェルってどんな人?

ジョゼフ・モーリス・ラヴェル(1875-1937年)は、フランスの作曲家です。
フランス南西部、スペインにほど近いフランス領バスク地方のシブールで生まれます。
母はバスク人、父はスイス出身の発明家兼実業家でした。
父親は音楽好きで、ラヴェルが音楽の道へ進むことを激励しています。
パリ音楽院へ進み、1898年国民音楽協会の演奏会で公式デビューし作曲家として認められます。
個性が確立したのは、1901年『水の戯れ』。
第一次世界大戦では輸送兵となりますが、大戦中、最愛の母が亡くなり、創作意欲が湧かず3年間も新曲を生み出すことができませんでした。
1928年、アメリカに渡り4か月の演奏旅行を行い、ニューヨークではスタンディングオベーションを受けて世界的に有名になります。
しかし、この頃から記憶障害や失語症に悩まされるようになっていきます。
アメリカからの帰国後、ラベルが生涯に残せた楽曲は、
『ボレロ』(1928年)、『左手のためのピアノ協奏曲』(1930年)、『ピアノ協奏曲 ト長調』(1931年)、『ドゥルシネア姫に心を寄せるドン・キホーテ』(1933年)の、わずか4曲。
1937年に62歳で亡くなりました。(ウィキペディアを参照)

映画のあらすじ

作曲家モーリス・ラヴェルは、ダンサーのイダ・ルビンシュタインからバレエの音楽を依頼されるのですが、一音も書けずにいました。
映画では、そんなスランプだったラヴェルが、傑作『ボレロ』を創り上げる秘話が描かれています。
完成した『ボレロ』にイダが振り付けをした踊りは、まるで娼婦のような踊りでラヴェルは憤慨。
しかし、このセクシーさが人を惹きつけてやまないボレロの真髄だったのです。

『ボレロ』が生まれた背景

映画の冒頭で、作曲を依頼したイダを、機械の音が響き渡る工場へ連れて行くシーンがあります。
これにより『ボレロ』の機械的なリズムが見えてくる仕掛けになっています。
自動車や鉄道の開発などに秀でた才能を持っていた機械技師の父は、子供のラヴェルをよく工場に連れて行ったそうです。
ラヴェルは、その工場のベルト装置や警笛の音などに音楽を感じ、それを作品に取り入れようとしたようです。
もう一つ、ラヴェルがピアノを弾き、家政婦のルヴロ夫人と一緒にポップス曲『バレンシア』を楽しそうに歌う場面があります。
これが『ボレロ』の旋律のヒントとなったことがうかがえるシーンです。
ラヴェルが小さいときから、母はスペイン民謡を聴かせていたそうです。
ラヴェルはそのスペインの響きを大切にし、自身の作品に数多く取り入れています。
おそらくルヴロ夫人と一緒に歌った『バレンシア』にもスペイン民謡の趣を感じとったのでしょう。
この2つのシーンは、作曲にもっとも関連の深い印象的なシーンであり、また、『ボレロ』という作品は、両親からの影響を受けて生まれた作品だったことがよくわかりました。

バスク地方の海の景色

互いに好きなのに叶わないプラトニックな関係のミシアと、生まれ故郷であるバスク地方サン・ジャン・ド・リュズを訪れます。
ラヴェルは作曲に集中しようとはしますが、なかなか書けないというところで気分転換に海を一緒に散歩するシーン。これがなかなか美しいのです。
映画『ココ・アヴァン・シャネル』でも、恋人とシャネルが海辺を歩くシーンがあるのですが、監督のアンヌ・フォンテーヌが得意とする表現なのだろうと思います。
基本的に室内の場面が多い映画なので、この避暑地での開けた海の風景は、緊張した気持ちをほぐしてくれる大事なシーンです。

キャスティングの素晴らしさ

主役モーリス・ラヴェル役のラファエル・ペルソナの神経質そうなところと、彼を取り巻く大人の女性たちのキャスティングは、個性的でとても良かったです。
久々に観た「フランス映画」らしい映画でした。

最後に、「ボレロは今、世界で15分に一回演奏されている」という字幕。
ラヴェル自身が「この作品には音楽がない」と語っているように、音量と音の厚みが次第に増大するだけのシンプルかつ実験的な構成の作品。
一定のリズムが繰り返され、ラストに突然の転調で勢いが一気に加速し、鳥肌が立つような興奮に包まれます。
100年以上経った今でも、この原始的ともいえるリズムのあり方が人を引き寄せるのですね。

2年ほど前、沖澤のどか氏の指揮で、N響の『ボレロ』のコンサートに行きました。
「『ボレロ』での指揮者の役割は、340小節を一つの長い絵巻のように見せることだ」とインタビューでおっしゃっていたのを思い出しました。
今回、映画を観て、戦争の痛み、叶わぬ愛、最愛の母との別れ、大成功した後の苦悩、そして病...
こうしたラヴェルの苦難に満ちた人生の絵巻と重ね合わせて聴いてみると、より深く『ボレロ』を味わえるのではないでしょうか。

モーリス・ラヴェル指揮による「ボレロ」オリジナル録音(1930年)


こちらの記事は、ボレロの演奏のテンポについて書かれています。
映画にはない秘話ですので、ぜひどうぞ。



ここまでお読みいただきありがとうございました。

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