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ポール・バターフィールド・ブルース・バンド / East-West 1966 (2)

◆曲目抜粋感想

Work Song
当時では比較的新曲の1960年のナット・アダレイ、キャノンボール・アダレイから(スタンダード)ジャズナンバーをカバー。
既に著名な曲を選んだ方が伝わりやすかったのかもしれない。
テーマ部分のメロディをポール・バターフィールドの素朴なハープのイントロが先導する。
前半まで影を潜めていたイケルブルームフィールドのギター・ソロがいよいよこの曲で音量大き目で切り込む。マイナー・ペンタトニック・スケールを主体に、音の着地点が不明なソロがモード展開されていく。

マイケルのソロ以降は各自順番にソロを回す。
エルビン・ビショップもドキドキのソロが回ってくる。小節ごとに区切ったマイナー・ペンタを弾いてるが、チョーキングの連発のパワー・プレイだ。

Mary, Mary
Aマイナーのキーのリフレイン。推測だが、ギターの歪みとサスティン(伸び)が指の力以外にファズ(歪み系エフェクター)を通しているかもしれない。そのサスティンもピッキングしてから音が人工的に太くて長いからだ。
演奏の全体の音量が増すのでポール・バターフィールドの声量とブルース・ハープの肺活量に負担がかかる。「ブウウッ」といった息継ぎが聴こえる。
ソウルフルでリアリティがあるアンプリファイド・ハープだ。

Never Say No
リード・ボーカルがエルビン・ビショップの曲で、バリトン(低音)ボイスでスロー・テンポで歌っている。3分以内でこれといった展開も無いダウナーな曲。
音数の少ないマーク・ナフタリンのピアノとポール・バターフィールドが奥に引っ込み幽霊のように音が聴こえ音数が少ない。ドラムもハイハットとブラシを少なめに入れている。

この曲を聴いていて、ある仮説が浮かぶ。エレクトラ・レコード側はある事情で彼をあえて今回抜擢させているのではないか?
その事情とはずばり、マイケル・ブルームフィールドが脱退するのを織り込んでレコーディングに臨んでいるということだ。

East-West
最後の13分以上の問題のオリジナル曲は、このアルバムのタイトルにもなっている。
変則チューニングであろうと思われるマイケル・ブルームフィールドの落しどころが無く、果てしなく弾けるモード演奏が続く。ミストーンが出やしないかヒヤヒヤする。
中盤に差し掛かり、ポール・バターフィールドが他の楽器パートのソロのブリッジ役として強引気味に不協和音気味のハープが切り込み、徐々に音量が大きくなる。マイケルのソロの終わりの合図だ。

後半の恐らくレギュラー・チューニングのエルビン・ビショップのソロは、エンディングに向かっていくためのフレーズ調整で、音数が少ないのと繰り返し、着地点を模索し、壮大な曲のエンディングに導いていく。

◆総論
ロックに比重を置いて、シカゴブルース、ジャズ、フリージャムなど異なる音楽要素を破綻することなく1つの作品にまとめることができた。

ロックの概念は裾野が広く、様々なジャンルを取り込んで進化していく道筋を提示した作品。
結果2作目で早々にバンドのやれることや音楽の結論が出てしまった作品。



作品に触れて浮かび上がった個人的仮説、推測、奏法追記など

マイケル・ブルームフィールドの脱退の可能性。
以前から彼がバンドから脱退(契約終了)するのをレコード会社、残留するバンドメンバーともにある程度織り込んでいたのでは無いだろうか?

サム・レイのドラムにマイケルが不満を持っていてメンバー交代を要求していた可能性。
後任で本作でドラムを務めるビリー・ダベンポートはドラムがすっきりしていて、どんなテンポやリズムの曲でもスマートだ。WOR KSONGとEAST WESTといった新機軸は理想の域に達しなかったのであろう。

「病気」によるサム・レイの脱退は回復を待たず辞めたのであれば恐らく表向きの理由だろう。「解雇」になってしまうと、今後の活動に悪い影響や噂が出ないとも限らないからだ。

エルビン・ビショップの負担が今後増すのは必須事項なので、演奏面の成長を早い段階でエレクトラ・レコードのポール・ロスチャイルドが促していた可能性。

ライブステージのブッキングをなるべく多くしてマイケルのギター・プレイをオンジョブトレーニング(実地研修)で学ばせていったか?

それでもギタープレイを中心にしたバンドの方向性は当面望めないので、歌に比重を置いた方向性にリスク分散させるための1曲のリード・ボーカル採用ではなかっただろうか?

エレクトラ・レコードのポール・ロスチャイルドとマイケル・ブルームフィールドは想像以上にハードなネゴシエーションを普段からやっていたのではないだろうか?

◆アルバム・ジャケットの撮影場所はシカゴ科学産業博物館(Museum of Science and Industry, Chicago)

シカゴの科学産業博物館で撮影されたものだが、正面玄関の両脇にある左側のギリシャ神話の女神像銅像をバックにメンバー全員が映っている。
実はこの位置はわざわざよじ登らないと撮影できない。公共施設なので撮影許可が必要かもしれない。つまりそうまでして撮影し、アルバムカバー写真とする理由は何か?

レコーディングのチェス・スタジオから10キロ圏内にあったこと。エレクトラ・レコード側がEAST WESTを聴いてイメージしたものが、これ以上ないほど手身近にあって低予算で済みそうだったことかもしれない。撮影許可の手続きは仕事の許容範囲内だったのだろう。
マイケル・ブルームフィールドの脱退も想定して1枚でも多くこの作品を売って有名なバンドに価値をなるべく上げておきたかったのが理由ではないだろうか(深読みで強引だが)
※または全く正反対で、このギリシャ神話の女神像銅像を見てEAST WESTの作曲の構想が浮かんでバンド側が進言したのかもしれない。


◆East-West ギター奏法追記
D7のキーのワンコードで構成されている。
ギターを6弦から1弦にかけてのDADGADチューニングにして弾いてみると、ソロがレギュラー・チューニングより容易になっていく。

「DADGAD(ダドガド)チューニング」=モルダウ・チューニング、弦を抑えなくても開放弦だけで全部弾けるオープン・チューニングは落しどころが曖昧で分かりにくいモード(モルダウ)奏法と相性が良い。

さらに掘り下げると、特にレギュラー・チューニングより1音落した2弦「B}→「A」に落したこの音がカギになっている。
この2弦だけを横展開して半音移動でソロを弾くだけでもシタールの様なフレーズが再現しやすい。

2弦を軸に上下の弦の関連性を考慮して運指トレーニングすると、この曲はどこまでも弾けるはずだ。実際ライブでは1時間近く演奏していた情報もあるので、尚更チューニングを変換していれば永遠に弾けるはずだ。


終わり


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