龜蟲
【昆虫エッセイ】
高校生の頃、某ローソンでバイトをしていた。
週2回、放課後17時から22時まで。
おでんの汁を入れ忘れた、などの類の失敗談は今となっては笑い話だが(いや、被害者は絶対今も恨んでるはず)、虫にまつわる印象的な出来事というのも幾つか記憶している。
北海道にしては珍しい、蒸し暑い日だった。
レジに来た30代くらいの男性の胸元にくっついている黄緑色のピンバッジのようなものが目に入った。
親指の第一関節くらいありそうなカメムシ。
ギョッとして声を出しそうになったが、咄嗟に飲み込み、思った。
『付いてることを教えたら、ここでリリースされる。店内はカメカメパニックになる。』
『顔に出してはいけない、あれはただのピンバッジだ。そうだ、そういうことにしよう。』
目線をそちらに向けないようにし、できるだけ刺激を与えぬよう素知らぬ顔でレジ打ちを続けた。
『お会計は○○○円になります。』
鞄から財布を取り出す男性の目が、自分の胸元に止まった。
『…ぅぅうわぁぁ!』
しまった。気づいてしまったか。
男性はカメムシを払い落とした。
レジ台に落ちたカメムシは、虫の居所が悪かったかのように、すぐにブーンと店内のどこかへ飛んでいってしまった。
『あー、びっくりした…』
男性は独り言をつぶやき、会計を済ませ帰っていった。
内心『連れてきたなら連れて帰れよ。』
と思ったが、高校生ながらその辺はわきまえていたので、笑顔で『ありがとうございました。またお越しくだしいませ💢』と言った。
さて。
どうしようか。
私はその頃、虫を見たら『キャッ』と反応するようにしていた。
友人からの『虫見たら男の人の前ではキャッて言いなよ』というアドバイスを真に受けていたからだ。
か弱く、守ってあげたくなる女子を演じなくては。
あざとい。今考えるとあざとすぎる。
本当は蛇をムチのように振り回すことだってできるのに。
私は同じシフトに入っていた別の高校の男子(決して気があった訳ではない)に、『ねぇ、どっかいっちゃったよぉ、どぉしよぉ』と、女子全開にしてすがりつき(ついてはない)、彼にカメムシ退治をさせた。
ほうきを使ったり、追いかけたり、結構捕まえるのに苦労していたようだった。
今考えると、私キモい。
そして、名前も覚えていない彼よ、ゴメン。
そんな思い出のカメムシよりも大型のカメムシに出会った。
トホシカメムシ
2cm以上はあるように見えた。
これならピンバッジ…いや、立派なエンブレムにもなりそうだ。
顔を見ると意外にも愛らしさを感じた。
【カメムシ退治の豆知識】
カメムシが大量発生する地域である実家では、室内にカメムシを発見すると、ガムテープで退治する。
10cmほどに切ったガムテープを、粘着面を外側にして反らせ、カメムシの背中にそっとくっつける。
背中だけにつけるのがポイントだ。
そしてそのままガムテープを折りたたみ、潰さないように四方を粘着させ、密封する。
これで臭わない。