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ケツワレムシ
【昆虫エッセイ】
キバネハサミムシ ♀
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エゾハサミムシ ♂ 写り悪いけど。
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これこれ。
この子。
実家の玄関前にたくさん出没していた時期があった。
夜になるとカサカサカサ、かなりのスピードで動き回っていて、突然現れると少しギョッとする。
見た目の悪い虫を見れば『気持ち悪い』しか口にしなくなってしまう母にとっては、おぞましい虫ランキングTOP5に常にランクインするグロテスクな姿の持ち主だ。
我が家ではこれをケツワレムシと呼んでいる。
母が命名した。
べらぼうにセンスがない。
が、ケツワレムシ、ケツワレムシ…なかなか言いやすいのだ。
しかもハサミムシよりもその形態をよく表現しているのではないか、とさえ思えてくる。
おケツ、割れてるもんね。
ぱっくりと。
しかし『おしりというのは解剖学的にもともと割れているものだと思います』と突っ込まれたら何も言えなくなってしまう。
事実、意外かもしれないが、私のお尻も割れている。
それに、学名【ケツワレムシ】にしてしまうと、あの割れてるところを使って虫を取ったり、威嚇したりする…という、彼らの大切な攻撃・防御の姿勢を否定してしまうみたいで、申し訳ない気持ちになる。
よって、彼らはやはり【ハサミムシ】が正解なのだ。
『なんのはなしですか』
❝ハサミムシはその見た目と毒々しいハサミから「有毒」であるなどと言われますが、見た目が気持ち悪い以外は無害な虫です。❞
解説にまで見た目が気持ち悪いことを公言されており、気の毒になってくる。
ハサミムシの母親は、卵を産み、それが孵るまでの40~80日もの間、決してそばを離れず、飲まず食わずで卵を世話し、守りきる。
そして、孵った小さな幼虫たちは、すぐには餌となる昆虫を捕まえられないため、傍らの母親の体を食べ始める。
母親は逃げることなく、幼虫たちのために自らの体を犠牲にするそうだ。
なんだこれは。
むしろとんでもなく優しいではないか。
人間の持つ母性や父性とは別の、太古から伝わる種保存のための生まれ持った本能による行動だったとしても、何と尊い生き物なのか、と驚きを隠せなかった。
見た目で判断してはいけない。
外見が気持ち悪いことなんて、子を守り、種を存続させ、この広い世界をハサミムシとして生き抜くということには何の関係もないことなのだ。
ジメジメした薄暗いところにひっそりと暮らしているハサミムシを、もっと多くの人が『気持ち悪い』以外の言葉で出迎えてくれるようになりますよう。