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消滅させてはいけないアイヌ文化〜サガシムシ〈ウポポイ〉に行くの巻

つい先日、手塚治虫文化賞や日本漫画家協会賞なども受賞した漫画「ゴールデンカムイ」全31巻を読破しました。
フィクションながらも、全編に北海道とアイヌが登場し、アイヌの習慣や風俗について詳しく解説されていたりして、エンターテイメントとしても、探究学習としても楽しめる作品でした。

私は北海道に生まれ育った生粋の道産子だけど、アイヌに関して知っているのは、小学校時代「北海道の歴史」の授業で習ったこと(ほとんど忘れてしまっていたけど)と、修学旅行で行った白老ポロトコタン(現ウポポイ)で見たことが全て。

2年前、なんとなく手に取った直木賞受賞作「熱源」をきっかけに何冊かのアイヌ関連の本を読み、「万物全てにカムイ(神)が宿る、でもカムイとアイヌ(人間)は持ちつ持たれつの対等な関係」というアイヌの教えや素朴な生き方、アイヌ刺繍の美しさにすっかり魅せられ、「ウポポイ行くぞー!」と意気込んでいたのになかなか行くことができていませんでした。
が…昨日、2年越しで行ってまいりました。

民族共生象徴空間 ウポポイ

自宅から地下鉄やら鈍行やらに色々乗り継いで、2時間半。
のーんびり読書しながら、白老(しらおい)へ。

見れば見るほどなんか怖い…

途中の苫小牧(とまこまい)では怪しい視線を感じ、振り向くとあちらでもこちらでもホッキ貝がホッケーしててギョッとしつつ乗り換えたら、1両編成、向かい合わせ座席の混み合った電車の中でやきそば弁当(カップ焼きそば)を食べながら2Lのペットボトルからお茶をがぶ飲みしてる若者がいて、さらにギョッとしたのでした。

白老駅から徒歩10分。
白老牛や虎杖浜(こじょうはま)のたらこでも有名な白老は、昔からアイヌたちが多く居住していた土地で、私が子供の頃には「ポロトコタン(大きな湖の集落の意)」というアイヌ民族博物館がありました。

そこを、2020年に大幅にリニューアルしてオープンしたのが、ウポポイ。

ウポポイとは、「みんなで歌うこと」という意味のアイヌ語です。

到着。さてさて、中へ。

エントランス
トゥレっポんは、カブでも玉ねぎでもありません。
先日記事にもした
「オオウバユリ」の根っこを模したキャラクター
右端が新しくなったアイヌ民族博物館
奥に広がるのがポロト湖

気温22℃、生憎の曇り空だったけど、エゾゼミの鳴き声と、湖からの涼しい風、そして風の音を、耳からも肌からも楽しむことができました。

ポロト湖の湖畔に広がる自然の中にある
ウポポイ全図

まず向かったのは、体験交流ホール。
ここでは、時間ごとに様々な公演や短編アニメ放映などが行われています。

そうそう。
地図を見ていただけるとお分かりになると思いますが、すべての標識や看板などはアイヌ語で表記されており、それに日本語や多言語が併記されています。
ここ、ウポポイの公用語はアイヌ語なのです。

アイヌの歌・踊り・語り〈シノッ〉

整理券をもらって、中へ。

舞台と客席には段差もなく、奥にはポロト湖を挟んで、アイヌの伝統家屋「チセ」が見える開放的な雰囲気のホールです。

始まったのは、映像を効果的に使ったアイヌの歌や踊りや楽器演奏でした。
ビーンビーンと地鳴りのようなムックリ(口琴)の独特な音色、高く低く様々な調子で歌われる歌、踊るたびにドンドンと踏み鳴らされる足音が、ホール全体に響きます。

体全体でその響きを受け止めているうちに、自然と涙が出そうになりました。

アイヌたちは何百年も前から、和人のいないこの北国で、文字通り“自然とともに”生きてきたという事実に。
文字を持たないアイヌたちが口承で守り続けて来たものを、時を経てこうして観ることができるという幸福に。
単一民族国家と言われる日本には、アイヌという先住民族がいて、彼らが私達の住むここ北海道に私達和人が暮らすずっと以前から生活を営み、文化を守り続けているという尊さに。
そして、その文化や言葉が、一時は私達和人によって迫害され、日本人への同化が進められたことによって、消滅の危機に瀕していたという悲しみに。

色々な感情が渦巻いて、心の底から圧倒されてしまいました。
上に公演の様子を収めたYou Tube動画を載せましたが、やはり実際に観るのとではかなり…違うなぁという印象。
体の芯に響く音の違いなのかな。

こちらが「ムックリ」という楽器。
小さな弁の音を口の中で響かせて鳴らす「口琴」の一種で、竹や鉄などで作られ、自然界に聞こえる雨や風の音、動物の声、ときには自分の感情を音色にのせて自由に表現するそうです。

これは「イヨマンテ リムセ」という狩りで得た動物の魂をカムイの世界に送り出す儀礼「イヨマンテ」や祝いの席で楽しむために踊る「熊の霊送りの踊り」です。
いくつもの歌を歌いつなぎ、先歌に合わせて踊りが変化していきます。
「ホロロセ」と呼ばれるお囃子や、掛け声も特徴的です。

ウポポイ園内巡り

アイヌの伝統家屋「チセ」
右側の木組みされたものは
ヘペレセッという仔熊の檻
チセの内部。
実際のアイヌの住居はこんなに大きくなかった。
こちらはコンクリートなどを用いて
見学・観光用に作られたチセらしい。
鮭皮のブーツ

チセを巡った後は、アイヌ民族博物館へ。

熱源にも出てきた、ピウスツキの銅像

二階の展示室には、貴重なアイヌの民具や着物、狩猟道具が展示されていました。

これは樺太アイヌの着物
色合いや技法が北海道のアイヌとは全然違う!
何という美しさ。

祭礼で使うものだけでなく、刀や弓入れなどの実用品にもこれだけの美しい装飾を施すアイヌの美的感覚や物(カムイ)を大切に扱うという精神がすばらしい。

常設展のあとは、アイヌ文化や、文字を持たなかったアイヌ語の保存に尽力した、知里真志保の特別展も観覧しました。

動物や昆虫のアイヌ語も研究し
アイヌ語辞書に編纂されたらしい
こんな面白いあみだくじも。
正解した?
いたる所…トイレの中にもアイヌ紋様が

生き物倶楽部としての活動

一応ね、ワタクシ生き物倶楽部の部員ですから。
虫たち…特に盛大に大合唱していたエゾゼミを見つけたかったのですが、立入禁止区域に入るわけにはいかなかったので、断念。
こちらの三種のみ発見いたしました。

シロヒトリさん
アワフキバチか何か
巨大な蛹!
持って帰りたいのをぐっと我慢した。
3cm近くあった。
なんの蛹だろう。

園内グルメ

蛹の次に乗せるのが正解かわからないけど
お昼は行者にんにくをたっぷりつかった
ザンギ(北海道式唐揚げ)定食を。
以前少しだけハワイアンキルトをやっていた私。
アイヌ刺繍と繋がるものがあるなぁと思っていたら
ありました!ハワイアンキルトとアイヌ刺繍が
交互に、全く違和感なくパッチワークになってる!
アイヌ語とハワイ語もなんとなく似ているし
北と南でなんとも不思議な共通点。

その後、もう一つ地元の保存会の方たちによる公演を観覧し、帰途についたのでした。

アイヌは「さようなら」を言わない

ウポポイの中では、会う方、会う方が笑顔で「イランカラプテ!」とご挨拶をしてくださいました。
これは、アイヌ語でいうところの「こんにちは」。
本来は「あなたの心に触れさせていただきます」という意味があるらしい。

出るときには、トゥレッポんが、またね!「スイウヌカラアンロ!」と手を降ってくれました。

自然や動物との共生について考え、自分たちの行いを反省した数時間となりました。

スイウヌカラアンロ!!

ショップでは魔除けにもなるというアイヌ刺繍のトートバッグと、小さな壁掛け、レザークラフトのバッヂを購入しました。

額は母へのお土産に。

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