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人様の、お父様の、顔の、毛穴の、角栓の、はなし

【ナースのはなし】

―清拭―セイシキ
患者の身体を温タオルなどで拭いて清潔にする方法。入浴に比べエネルギーの消耗が少なく、呼吸・循環に及ぼす影響も少ないため、離床が困難な場合などにベッド上で行われることが多い。全身清拭、部分清拭がある。

アサミの豆知識

入浴できない場合に行われることの多い清拭は、年齢も性別も意識のあるなしにも関係なく、誰にでも爽快感を感じてもらえる看護技術の一つだと思っている。

ベースン(洗面器)に張ったお湯が、体を拭いたタオルをすすぐ度に濁り、垢が浮いていくのと反比例するかのように、患者の皮膚は明るく、柔らかくなり、温感を取り戻していく。
人が気持ちよさそうにしてくれるのは、看護師としてとても気持ちがいいものだ。

看護師には奉仕の心が必要だ、とかなんとか言う人もいるが、私は「一緒に喜び、一緒に気持ちよく過ごせるようにすること」が必要だと思っている。


脳梗塞後に意識の戻らない老齢男性の顔を蒸しタオルで包み込み、べとついた皮脂を拭き取る。
開いた毛穴からは長期間の寝たきり生活の間にじわりじわりと溜まっていった角栓がびっしりと詰まっている。

タオルで温め柔らかくなった頬の角栓を、親指と親指で挟み込んでぎゅぎゅっと絞り出す。
ニュニュッと飛び出す黒ずんだ皮脂の塊。
右の頬、鼻の頭、左の頬、顎に眉間。
絞り尽くす。そこに毛穴がある限り。

黒く点々と頭を出していた角栓がキレイに取れた。
仕上げに新しい蒸しタオルで清拭し、満足感に浸っていると、背後から声がした。

「どうも、こんにちは。お父さーん、来たよー。」

娘さんだった。

「人様のお父様のお顔の角栓を絞り出していた」なんて、そんな業務外も甚だしいことをしていたとバレはしないだろうか。
変な汗が吹き出る。

「あれ?お父さん、今日なんだか顔色いいね!ピンク色してる!」

笑顔で近づく娘さんの言葉にホッとし、タオルを手にその場を後にした。
「顔がピンクなのは私が絞り尽くしたからです」とは言えぬまま…

なんのはなしですか

このとき「一緒に喜び、一緒に気持ちよく過ごせるようにする」ことができたかどうかはわからないけど、もし私が患者ならば、当方ニキビができやすい体質なので、顔の角栓をそのままにはせずにきれいに絞ってもらっても構わないです、でも痛くしないでね、というはなし。

ちなみに、これまで何度リピしたかわからない「毛穴撫子(けあななでしこ)重曹スクラブ洗顔」というパウダーウォッシュが毛穴と角栓にはお勧めです。洗い心地ツルッツル。

いや、なんのはなしだべか

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