拝啓 萩原慎一郎様
歌集「滑走路」拝読いたしました。
日々起こる出来事に、気持ちがジェットコースターのようにあがったり、さがったりする青春時代を31文字の連なりで追体験するような気持ちでした。
『ぼくも非正規きみも非正規秋がきて牛丼屋にて牛丼食べる』
『頭を下げて頭を下げて牛丼を食べて頭を下げて暮れゆく』
『食べるならおいしいものが食べたいな 昼は牛丼屋でいいけれど』
何度も登場する牛丼。これほどおいしくなさそうな牛丼の2文字を見たのは初めてかもしれません。安くて早い牛丼の具材となることは、肉牛界の非正規雇用のように思えてきます。
いつから、働く者のお昼ご飯は、ただ空腹を素早く満たすものになってしまったのでしょう。思えば、小学生ですら入学すると給食を時間までに食べ終える事を強制されていますね。
『ぼくたちは他者を完全否定する権利などなく ナイフで刺すな』
『この街で今日もやりきれぬ感情を抱いているのはぼくだけじゃない』
『生きているというより生き抜いている こころに雨の記憶を抱いて』
食べ物の出てこないうたからは、静かな怒りを見た気がしました。
あなたは相当怒っていて、絶望と希望の間を行きつ戻りつしながら吐き出すところのない怒りが内へこもっていて、それでも優しいあなたは温泉のお湯ように31文字にして外へ吐き出していたのではと感じたのです。
いえ。違いますね。
怒っているのは私でした。私が怒っているので、あなたのうたをそんなふうに詠んでしまうのですね、きっと。
誰かの考えを、その本質を無視し、自分に都合のいいようにねじ曲げて利用しているだけの人だけがおいしい思いをするような世の中にしてしまったことに絶望し、それを見ないふりして目をつぶって走ってきた自分に今怒っているんだと思います。
『今日という日を懸命に生きてゆく蟻であっても僕であっても』
『一人ではないのだ そんな気がしたら大丈夫だよ 弁当を食む』
『今日願い明日も願いあさっても願い未来は変わってゆくさ』
今日も私はここで、未来が変わることを願って弁当を食べ働き、時々、この歌集を読み返すことにします。あなたがこの歌集を通して贈ってくれたものをちゃんと受け取って未来に贈れるように。
とりとめない文章になってしまいました。あなたのうたに出会えたことを、どうしても自分の外へはきだしたかったのです。
そろそろ、この手紙をおしまいにしますね。
あなたがいま、そこで健やかでいられることを祈っています。
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