本多猪四郎監督の映画「ゴジラ(1954年)」レビュー「『同じ過ち』を…二度とは繰り返すまい…との反省が『ゴジラ』を生んだのだ…」
大戸島近傍の海底の地層に空洞があり…
三葉虫と同世代に生きた恐竜が奇跡的に生き延びていたが…
水爆実験による放射能の影響で体長50mの「怪獣」と化し…
大戸島の民間伝承で…島に天変地異をもたらし…
村の娘を生贄に捧げて怒りを鎮めたという
移動厄災の名に因んで「ゴジラ」と命名され…
国会の指名で大戸島調査団の団長に任ぜられた
古生物学者の山根博士(志村喬)は何とかゴジラを生け捕りにして…
恐竜の時代から生き続ける生命の神秘を解き明かしたいと目論む…。
しかし…東京に上陸したゴジラは放射能の炎を吐き…
首都を蹂躙して火の海に変える…
またしても東京が焦土と化すのを防げなかった…
山根の表情が苦悶に歪む…。
大戸島の生き残りの少年が火の海になった東京を見ながら
「ちくしょう…ちくしょう…」
と涙を流し…山根は…移動厄災を…移動する水爆をッ!
「人智」で制御し…水爆を平和利用して…
人類に福音を齎そうとした自らの増上慢がッ
ゴジラを生け捕りにしろと…
殺処分するのに猛反対した自分がッ
取り返しのつかない過ちを招いたと首を垂れる…。
山根の一人娘・恵美子は…かつては自分の婚約者だったが…
戦争で片目を失ってから疎遠となり…
酸素の性質を研究する隻眼の科学者・芹沢(平田昭彦)が…
かつての婚約者の自分だけに見せてくれた…
酸素の性質を利用して生物を窒息死させた挙句…
肉体を溶解させる究極の破滅兵器
「オキシジェン・デストロイヤー」
のコトを思い出す…。
「オキシジェン・デストロイヤー」なら…
ゴジラを滅却するコトが出来るかも知れない…。
だが芹沢は恵美子からの申し出を拒絶する。
確かに「オキシジェン・デストロイヤー」は…
ゴジラを滅却し…人類の福音と成り得る可能性を秘めている…。
だがソレは水爆を…
移動する厄災を…
遥かに上回る殺傷能力を秘めた破滅兵器で滅ぼすコトを意味し…
将来必ずや悪用されるに違いないからである…。
しかし…恵美子の言う通り…移動厄災ゴジラを止めるには
「オキシジェン・デストロイヤー」を使うしかない…
芹沢は…長い長い逡巡の後に…
「使うのは1度だけ」
と恵美子に釘を刺しながら
「オキシジェン・デストロイヤー」
の設計図を焼却するのだった…
コレで…
「オキシジェン・デストロイヤー」は
試作品がひとつ残るのみで…
その原理は…オレの頭の中にしかない…。
芹沢の隻眼に…ある重大な決意が宿る…。
NHKBSで放映してたものを久しぶりに視聴。
本作品に通底する思想は…
「同じ過ちを二度繰り返すな」と言うもので…
例えば…ゴジラが水爆実験の結果生まれたとの山根の報告を受けた
恰幅のいい強面の男性議員が国内外に対して緘口令を敷く様に提案すると…
菅井きん演ずる女性議員が即座に立ち上がり…
「また国民に何も報せない気かッ!」
と猛抗議し…
強面男性議員は菅井きん議員に向かって「黙れッ!」と恫喝して来る…。
かつて強権発動に対して「黙った」結果…
恫喝に怯んだ結果…
日本はどうなったのか…?
菅井きん議員は決して黙らず…
「『黙れ』とは何事かッ」
と言い返すのだ。
「過去の反省」が…作劇に覿面に反映されているのだ…。
「原水爆の平和利用」という山根の妄言にも本作は非常に手厳しい。
「原子力」や「水爆」は人間の手に余る怪物であり…
まさにゴジラこそが水爆が生んだ怪物で…
その怪物が再び首都を蹂躙し火の海に変えるのだ…。
「過去から何も学ばない」山根の姿勢が…
取り返しのつかない事態を生んだとの作劇は…
ただただ居住まいを正させるのである…。
芹沢は「過去から学んだ」人間として描かれるが…
過去から学んだが故に…苦渋の選択を行う作劇に…
「良心」とはこう描くのだと教えられる思いがする…。
宮崎駿監督の「未来少年コナン」でも…
太陽エネルギーは…
確かに一時は人間に福音をもたらしたが…
直ぐに手に負えなくなり…
最終的に「誰の手にも余る怪物」と化し…
その怪物が地軸を捻じ曲げ…
5つの大陸を悉く海に沈めたと描写されている…。
太陽エネルギーを人智で制御出来ると考えたのは
大変な思い上がりだったのだ…。
「太陽エネルギー」こそが
宮崎監督にとってのゴジラなんだと思う…。
「オキシジェン・デストロイヤー」が作動し…
ゴジラは海中で窒息し白骨化して行く…
山根の…
「このゴジラが最後の一匹とは思えない…」
との感慨は…
水爆実験を止めないと「第2のゴジラ」が必ずや目覚める…
人間はそれ程…同じ過ちを何度も繰り返す程…
愚かであってはならないとの「祈り」の言葉を…
山根は非常に高額の授業料を払って漸く学ぶ…。
山根の言葉を…
「それなら幾らでも『ゴジラの続編』が作れるね♪」
と曲解した連中に災いあれ…。
ホントに…何度同じ過ちを繰り返せば気が済むのだ…。
オマエ達は…一体「ゴジラ」から何を学んだのだ…。