北村紗衣(きたむらさえ)さんの「女の子が死にたくなる前に見ておくべきサバイバルのためのガールズ洋画100選」レビュー「『自分に寄り添う映画』は自分で探す他ないが…寄る辺ない存在に寄り添う本書に…救われる思いがするのです…」
本書は北村さんが2009年5月23日に
はてなダイアリー(現:はてなブログ)に書かれた
同名のブログエントリを大幅に加筆更新し書籍化されたものです。
「女の子」がメイン読者に想定されておりますが…
正確には
「『男性』という枠に当てはまらない存在」
が読者に想定されていると北村さんは仰られます…。
本書で『男性』と言うのは…
1.健常者である。
2.異性愛者である。
3.女性ではない。
4.多数民族に属する。
…といった意味を持ち…
項番1~4の何れにも当てはまらない存在は…
非常にしばしばその存在を黙殺され…
「存在しないも同然・空気の様な存在」
として扱われて来て…
1.女性であり
2.発達障害者である
ところの北村さんはオールタイムベスト映画の上位に
フランシス・フォード・コッポラの「ゴッドファーザー」が
ランクインする不条理を感じられたと言います。
マイケルの妻ケイには
1.一切真実を知らされず
2.一切の決定権がなく
3.夫マイケルとの対話すら拒絶され
扉が閉まる場面で
映画が閉じる本作が…
何故「名作」と呼ばれるのかが北村さんには納得が行きません。
「『男の世界』に女は口を出すな」
という本作の様な作品が次々と作られるのは…
映画界が正に「男の世界」であるからで…
こうした映画が長年持て囃される状況は…
「『男性』という枠に当てはまらない存在」
が排除されるのが常態化し…
「ソレの何がおかしいのか」
すら分からない閉塞的状況を生みました。
結局…「自分がしっくり来る…自分に寄り添う映画」と言うのは…
自分で探すしかなく
北村さんにとっての「寄り添い洋画100選」が本書なのです。
本書を読む前はもっとこう…
「思想がうるさい」本を想定し身構えていたのですが…
前書きで北村さんが仰られておられる様に…
何処から読んでも良く…
各映画の紹介記事は見開き2ページですので…
本当にサクッと読めて…
ちょっとした隙間時間に読み進めるコトが可能なのです。
「健常者で異性愛者の男性」以外の存在には
「ゴッドファーザー」のケイの様な「寄る辺のなさ」がつきまとい…
そうした「寄る辺のない存在」に寄り添う映画の紹介本なのですから…
その設計思想からいって当然…
「気安く読める」
「短時間で読める」
「思想がうるさくない」
といった特徴は必須で…
この本自体が「寄る辺ない存在に寄り添う存在」となっているのです。
本書のタイトルは「女の子が死にたくなる前に…」というモノですが…
この…『女の子』と言うのは…
先程も説明致しました通り…
本書に於ける『男性』の対比概念で…
1.障害者である。
2.同性愛者である。
3.女性である。
4.少数民族に属する。
という意味の何れかを指し…
つまりは「寄る辺ない存在」を意味しているのです。
北村さんの御指南に基づき…100本の映画のうち…自分のスキな
「エイリアン」「グロリア」「バービー」
「チャーリーズ・エンジェル(2000年)」
「マッド・マックス 怒りのデスロード」を拝読。
あのね。
本書は作者の個人的な体験と映画を結び付けておらず…
従って過度な感情移入がなく…
極力映画内容の紹介と見所の紹介に留まっているんです。
「北村さんの思想」は
100選全てに目を通したトキに
浮かび上がって来るのでしょうが…
別に「北村さんの思想」が伝わらなくてもいい。
伝えるべきは「寄り添い得る映画」であって
「北村さんの思想」ではないからです。
つまり本書は「思想」が優先する
「頭でっかち」な内容ではないと言いたいのです。
本書の設計思想から言って…
過去の映画であればあるほど…
その価値観が「寄る辺のない存在」にとっては
受け入れられないコトが多く…
21世紀の映画が多いのが特徴で…
従って「女の子=若年」であっても受け入れ易いと思います…。
従来の映画紹介本は…
「オレがオレが」と書いたヒトの「人となり」が
全面に出て来るので「非常に暑苦しい」のですが…
本書はそう言うコトはないので…
サクッと読めるのではないでしょうか…。
「サクッと読める」から…
スナック菓子の様に「軽い」のではなく…
例えば「冬の旅」のレビューが
僕の心に刺さります…。
「サクッと読める」けれど…
この上なく大切なものが…
この地上から
永久に失われてしまった読後感は…
途方もなく「重い」のです…。
本書は非常に「書名」が長く…ソレが昨今の書籍の特徴でもあるのですが…書店で購入しようとすると…店員さんとの意思疎通に難儀し…
結局ネット通販最大手で「黙って」注文するのが一番心的負荷が低く…
最初からネットで注文するコトを想定した作りなのかしら…
…が本書の「唯一の不満」ではあります。