今後、リハ専門職は何を目指すべきか
1998年4月に始まった私の作業療法士としての臨床経験は、23年3か月で一旦幕を閉じました。今後は法人本部の経営戦略部の事務職員として、地域住民が安心して生活できる地域づくりに過去の経験を活かして貢献したいと考えています。
そこで本日のnoteでは、私がリハ部門の管理職として考えてきた「今後、リハ専門職は何を目指すべきか」についてを整理します。今回のnoteは、私のリハ部門での卒業noteとなります。少しでも多くのリハ専門職の皆さまにご覧いただき、業界の将来を考えるきっかけとしていただけると幸甚です。
理学療法士・作業療法士の需給推計(案)から分かること
医療従事者の需給に関する検討会(平成31年4月5日)で提示された「理学療法士・作業療法士の需給推計について」の資料の一部を下に示します。需要ケース1〜3の定義は、各曲線の色と同じ文字色で私が加筆しました。この図は、いずれ理学療法士・作業療法士が余ることを示唆しています。
理学療法士の供給量のトレンドから分かること
理学療法士・作業療法士が余ることを回避するには、「供給を減らす」又は「需要を増やす」のいずれか又はその両方が必要となります。
下の図は、理学療法士の国家試験合格者の推移(左)と年齢階層別の日本理学療法士協会の会員数(右)を示しています。なお、作業療法士、言語聴覚士の同データには辿り着けませんでした。したがって、このデータを基にした論理はあくまで理学療法士に限りますが、業界の概ねの傾向を反映していると推測します。
この左右の図から分かることは、まず、直近10年の理学療法士の国家試験合格者数はほぼ高止まりしているということ。そして、年齢階層別の会員数の構造はピラミッド型をしているということです。このことから、理学療法士の供給量も全体数も当面は減らないことが推測できます。
一方、需要を増やす動きは近年散見されています。例えば、保険外でのリハビリテーション事業の増加などです。しかし、現時点では、例えば1年分の供給量に当たる約10,000人を上回るだけの人数が保険外でのリハビリテーション事業等に毎年流出するには至っていないように感じます。つまり、予測されている受給推計の鈍化は期待できるものの、それを覆すにはさらなる市場の拡大が必要です。
求められるリハ専門職を明確化する3つの視点
リハ専門職の市場を拡大するには、「既存市場に浸透して市場を広げる」又は「新規市場を新たに開拓する」のいずれか又はその両方が必要となります。
そのためには、少なくともリハ専門職の利害関係者である対象者、雇用者、同僚の3者に求められることが必要となります。これら3者から求められるリハ専門職の要件について、私の調査結果と一般企業の調査結果を基にそれぞれ表に整理したので下に示します。
求められるリハ専門職の要件
さらに、これら対象者、雇用者、同僚のそれぞれから求められるリハ専門職の要件をKJ法的手法を用いて集約すると、求められるリハ専門職の要件は以下の5つであると考えることができます。
① 専門的な知識と技術、② (利害関係者に対する)わかりやすい説明、③ (リハ専門職自身の)身だしなみと適切な表情、④ 協調性とチームワーク、⑤ 先見性と実行力 です。これら5つの要件を整理したベン図を下に示します。
リハ専門職に求められる要件と、私が考えるリハ専門職の介入のあり方の関係性
限られたリハ資源を効果的に投入するには、選択と集中が求められます。具体的には、介入初期は直接的介入の量を増やし、その後は徐々に直接的介入の量を減らしながら間接的介入の量を増やしていくというイメージです。この点は、私の過去のnoteで整理したことがありますので、詳しくは以下をご覧いただければと思います。
さて、ここでの直接的介入とは、リハ専門職が対象者に対して個別で直接介入することを指します。一方、間接的介入とは、ご家族や他職種に加え、環境や対象者ご本人などの資源を介する方法であり、いわゆるマネジメントによる介入を指します。
そこで、私が考える望ましい直接的介入と間接的介入の割合の推移を時系列に示した図を下に示します。さらに下の図には、直接的介入と間接的介入のそれぞれに対して、求められるリハ専門職の5つの要件のうち、特に必要と考えられる要件を赤で強調したベン図を付記しました。つまり、直接的介入には「専門的な知識と技術」「わかりやすい説明」「身だしなみと適切な表情」が特に必要となり、間接的介入には「専門的な知識と技術」「協調性とチームワーク」が特に必要となると考えます。
今後、リハ専門職は何を目指すべきか
対象者への直接的介入及び間接的介入には、求められるリハ専門職の5つの要件のうちの4つ(先見性と実行力を除く)が特に必要と考えましたが、これらはどちらかといえば、既存市場に浸透して市場を広げる際に必要な要件と考えることができます。
他方、新規市場を新たに開拓するには、先程唯一含まれなかった要件である先見性と実行力が特に求められると考えます。そこで、これまでとこれからの価値創出の型と生み出す価値を比較した図を下記に示します。
この図から分かるように、価値を創出するためにはN倍化することがこれまでは最も価値がありました。これは、リハ専門職が従事する業界においても同じことが言えます。例えば、対象者にリハビリテーションの成果を提供するという価値創出のためには、これまではリハ専門職の数をN倍化して介入量を増やすことに価値がありました。しかし、市場と連動する我が国の人口は既に縮小トレンドにあるため、新卒の若いリハ専門職でN倍化することに今後は価値があるとは言えません。また、現在は出来高払い方式のリハビリテーション料も、近い将来には包括払い方式に改定される可能性もあります。包括払い方式になるということは、医療資源の効率化が求められるということを意味します。したがって、これからは妄想を形に変えるような、0→1の「創造」の価値が他の業界と同じように最も高くなると考えます。
リハ専門職が従事する業界での「創造」とは、全く新しいリハビリテーションの形や手段の出現と考えます。それによって、これまでリハビリテーションの対象ではなかった方にもリハビリテーションの成果が提供されたり、マネジメントによる介入にヒントを得た労働集約型産業(人の手による仕事量が多い産業)からの脱却なども期待できるものと考えます。そしてこれが、新規市場を新たに開拓することに繋がっていくのだと考えます。
まとめ
現状のままでは、近い将来リハ専門職が余る時代が到来します。それを回避するにはリハ専門職の市場を拡大することが有効ですが、それによりリハ専門職は市場原理と対峙することになります。つまり、求められるリハ専門職以外は淘汰されるようになるということです。
求められるリハ専門職であり続けるためには、5つの要件を高め続けることが必要となります。この要件とは、① 専門的な知識と技術、② (利害関係者に対する)わかりやすい説明、③ (リハ専門職自身の)身だしなみと適切な表情、④ 協調性とチームワーク、⑤ 先見性と実行力です。特に、現在や未来の対象者にリハビリテーションの成果を提供する新たなプロダクトやプロセスを創造する先見性と実行力を備えたリハ専門職は、さらに価値が高まるだろうと推測します。それは、単に最先端を横展開するということではありません。対象者が秘める真の想いと、対象者自身も気づいていない見えない想いの両方を実現し、さらにそれは、人の手による仕事量に依存しないという全く新しいものを創造するということです。
私の感覚では、専門職と言われる職種ほど世間知らずが多いように感じます。しかし、創造のヒントはきっと世間や異業種、異文化の中にあるのだろうと私は感じています。
最後に、私がリハ部門の管理職として最後に改定した自部門のビジョン(2020年度版)を紹介し、このnoteを閉じます。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。感想などございましたら、是非コメントいただけるとありがたく存じます。また、たくさんのリハ専門職にご覧いただけるよう、よろしかったらシェアしていただけると幸いです。
さて、今後は自分で決めた道を悔やんで過去に逃げるということがないよう、リハ専門職への退路を絶って前に進みたいと考えています。