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落書きが顔に見えた

何を書いたらいいのかわからず、もう全てを投げ出してしまいたくなった。まるでプロみたいだな、と修行中の身分を忘れて少し嬉しくなったけれど、やはり何も書けない。書いたものは目も当てられない代物だし、そもそも自分すら好きになれない。

僕は節目節目で悶々として、夜な夜な自意識の発露——というと格好つけすぎだろうか——のような日記、というか落書きをすることがある。
僕の記憶が正しければ、それは高校の時にセカンドの守備で三回エラーをしたときと、浪人して京大の落ちた時の二回だ。三回エラーをして僕は懲罰交代を食らった。じゃあ三回大学に落ちていたら……あまり考えないようにしよう。
そのノートは今でも僕の下宿のどこかで(この前実家で発見して持ってきた。あんなものが親の目に触れたらと思うと今でもゾッとする)眠っている。思えばあの時は荒れていた。とても恥ずかしく思う。エラーをした時は、野球帽(しかも公式戦で使うやつ)をボロボロに破って、チームの全員にドン引きされた記憶がある。受験に失敗した時は、浪人時代に使っていたテキストをボロボロに破った。しかし情けないことに、使えそうなやつだとか、ちょっと思い入れのあるテキストには手をつけなかった。
高校の頃の友人と会う時は、いつも帽子の話を持ち出されて、とても恥ずかしい思いをする。しかし恥ずかしいことをしたのだから仕方がない。

今日、久々にそんな落書きをした。多分だいぶまずい状態である。

中二病の塊のような暴言と詩を九対一で混ぜ合わせたような言葉を、思いつくままにもう使わないレポート用紙に書き殴っていたら、だんだんと書くのすら億劫になる、というより暴言のレパートリーが少なくなってきた。恥ずかしいので少しだけ抜粋すると、

・「休みたい、もうじゅうぶん休んだが」
・「才能はない、責任感も、根性もない。くそくらえ、とは思う。何を?」

こんなことを二回ずつくらい書いている。しかも本当はもっと乱れた文章(とは言えない気もするが)である。てか比較的フレーズとして様になっているものを選んでいる。こんなところまで少し格好をつけてしまう自分が情けない。

これを続けていると恥ずかしさで高熱を出して明日喫茶店に行けないかもしれないのでやめ。
で、そんな文章書きに飽き飽きして、お絵かきを始めた。まあ、到底絵とも言えない、ただの筆跡なのだけれど、少なくとも気分としてはお絵かきをした。


これがなんとも楽しい。何も考えずにただペンを走らせるだけ。ちょっとレタリングみたいなものをしてみたりもする。昔教科書の端の方によく明朝体チックな漢字を書いていたのを思い出した。気に入っていた、というより書きやすい漢字があったのだけれど、それが何なのか忘れてしまってとても悲しい。
と、そんな風に四、五分あまりマッキーペンで無心に線を走らせていると、だんだんと顔のようなものが出来上がってきた。まあ、それは「顔のようなもの」にすぎないのであって、男か女か、大人か子供か、はたまた人間か動物か、それすら何にもわからないものなのだけれど、なんだか顔らしく見えてくる。

そいつはなぜだか壁(?)の向こうから、首だけ出してこっちを伺っている。目と口は点。鼻はない。いや、もしかしたら口じゃなくて鼻なのかもしれない。


どうでもいい。


なんだか腹が立ってきた。顔なんて書きたくはなかった。ただペンが紙の上を滑走する感覚だけを味わえれば、それで満足だった。
しかもそいつはなんだか人を挑発するような、「やれやれ」とでも言っていそうな、そんななんとも言えない憎らしい顔つきだ。
誰だお前は。俺はこんなに悶々としているのに、お前はなんでそんなに余裕面でこっちを見ているんだ。
「やれやれ、また荒れてるよ。懲りないね」と顔。
「うるさい。俺はお前と違って本気で物事に取り組もうとしているんだ」これは僕。
「そういう綺麗なことを言う人間は、大したことないもんさ」
「俺のことなんて知らないくせに」
「知りたくもない」
「少しは興味を持て、顔の輪郭も曖昧なくせに、偉そうに」
「お前が描いたんじゃないか」
「描きたくなんてなかった」
「私だって描かれたくなんかなかった」
なんて会話は交わしていない。交わしていたら、今日初めての会話だった。

おわり

え? おわり? おわります。オチなどないので。

追記

そう言えば喫茶店の店員さんとやりとりをした。
「アイスコーヒーです」
「ミルクだけお願いします」
これだけ。


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むね
喉から手が出ちゃう