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【7日目】『好き嫌いゲージ』と感情の”メカニズム”(ニンゲンのトリセツ・改)

◆感情には「メカニズム」がある

 前回「感情」と僕たちが呼んでいるものが、実はココロが出す「モトあつめの命令」であると分かりましたね。『モト』という概念がないとこういう説明はできないはずですから、これもまた「新しい知識」だったのではないかと思います。
 ではこの「新しい知識」にもとづいて、人間にいろいろある感情の「メカニズム」を考えていきましょう。

 心理学の世界では、代表的な感情は六つであるとされています。それはすなわち

  • 喜び

  • 悲しみ

  • 嫌悪感

  • 怒り

  • 恐怖

  • 驚き

なのだそうです。では、これらの感情が【好き嫌いゲージ】のどういう動きで起こるのかを見ていきます。


◆『喜び』のメカニズム

 まずは『喜び』です。これは好き嫌いゲージの針が「半分より『好き』寄り」であることを示しています。
 『喜び』と一口に言っても、いろいろな種類の『うれしさ』や『楽しさ』がありますよね。うれしい、面白い、興味深い、親しみやすい、愛を感じる……などなど。でも、こういったすべての『いい気分』というのは、好き嫌いゲージの針が「半分より『好き』寄り」を指していることを示しています。
 僕たちというのは結局「幸せだったらオッケー」だと思うんですが、要するに好き嫌いゲージがこの「半分より『好き』寄り」になりさえすれば、それは「幸せ」と呼んでオッケーだということです。


◆『悲しみ』と『嫌悪感』のメカニズム

 『悲しみ』という感情は、先ほどの『喜び』と逆に、好き嫌いゲージの針が「半分より『嫌い』寄り」であることを示しています。これはモトの量が減ってきていることを表していて、ココロとしては「もっと増やしたい」と思っている状態です。ですから、なんだか悲しい気持ちになってきたら「気分をアゲたい」(=モトあつめがしたい)という気持ちになります。

 こういうネガティブな気持ちにもいろいろありまして、その一つが『嫌悪感』です。これは『悲しみ』と同じように好き嫌いゲージの針が「半分より『嫌い』寄り」のときの感情なのですが、単なる『悲しみ』との違いは

  • 何かを見たり聞いたりしたときの反応

として出てくる気持ちが『嫌悪感』だ、という点です。嫌なものを見たり、嫌なことを聞いた(または想像した)……その結果、好き嫌いゲージが「半分より『嫌い』寄り」に動いた。そのときココロが出す感情が『嫌悪感』なのです。
 『嫌悪感』が出ると、その「嫌悪の対象」をさけようとするものです。この「さける」という動作をうながすことで、ココロは「これ以上好き嫌いゲージをサゲるものから離れよう」としているわけです。

 この『嫌悪感』が『怒り』をともなうこともよくあります。それにもちゃんと「メカニズム」があります。実は『怒り』には針の「動き方」が大きく関係しているのです。


◆『怒り』のメカニズム

 やっかいな感情の一つ『怒り』もまた、この【好き嫌いゲージ】の針の動きによって起こります。『怒り』のメカニズムはこうです。

  • 好き嫌いゲージの針が急に『嫌い』寄りに動いた

 ポイントは「針の動く速度」です。じわじわと『嫌い』方向に動いたときは『悲しみ』や『さみしさ』になるのですが、キュッと急に『嫌い』方向に動いたときのみ、ココロは『怒り』という反応を出します。
 どうしてこんな反応をするのかというと……まず「怒っている人」がどんな動作をするか、ちょっと思い出してみてください。怒っている人というのは

  • 大きな声で怒鳴る

  • 暴力を振るう

  • 怖い顔を見せる

このような反応をするものです(大人の静かな怒り、のようなものもありますが、今回は素直な反応としてです)。ではどうして『怒った人』はこのような反応をするのでしょうか?
 実は『モト』と『モトあつめ』という概念があれば、この説明も一発です。要は「急に誰かに奪われたモト」を取り返そうとしているのです。というのも先ほどの反応(大声、暴力、威嚇(いかく))というのは、どれも

  • 相手に注目させる

ためにやるものです。大声で暴れている生き物には、僕たちは本能的に注意を向けますから(自分に危害が及ぶかもしれないからです)。それで、注目を受けた者はどうなるか……ほら「注意を向けられるとモトが増える」んでしたね。こういう方法の『モトあつめ』をココロが「やりなさい」と命じたときに出てくるのが『怒り』という感情の正体なんです。

 ここまで『怒り』のメカニズムが分かると、こういうことも分かってきます……怒っている人は「減ったモト」を奪い返してモトを回復しようとしているわけですから、すなわち

・すべての『怒り』は防衛反応である

ということが言えます。何かに「攻撃されて、損害を受けた」という『考え』がココロに送られ、ココロが「奪われたモトをすぐに取り返しなさい」と『怒り』という感情で「命令」しているんです。

  このような『怒り』の「メカニズム」が分かると、いわゆる「アンガーコントロール」、つまり自分の怒りの感情を自分自身でなだめるのがすこし楽になるはずです。特に「すべての怒りは防衛反応」だという考え方は、自他ともにやっかいな『怒り』を扱う上でとても重要になります。よく覚えておいてください。
 扱いの難しい『怒り』の気持ちについては、次巻『カンジョウのトリセツ(初級編)』で大きく取り上げますので、どうぞお楽しみに。


◆『恐怖』のメカニズム

 怖いのはイヤなものです。イヤな気持ちなのですから、この『恐怖』も当然好き嫌いゲージの針が『嫌い』寄りのときの感情です。
 『恐怖』が出てくるメカニズムはこうです。

  • 好き嫌いゲージの針が『嫌い』側に大幅に低下している

  怖いものに触れたとき僕たちがどうするかというと

  • 大声を上げて助けを求める

  • 逃げる

  • 隠れる

  • 体を小さくして、目や耳をふさぐ

こういうことが「したく」なりますよね。なんでこんなことを「したく」なるのかというと、実は「モトの量がガッツリ減った」ことを【好き嫌いゲージ】で検知したココロが「これ以上モトを減らすな」と僕たちに命令しているのです。これらの「行動」というのは、恐怖の対象から目をそらし、自分から遠ざけるための行動です。遠ざけることによって「モトの減少を回避しよう」としているのです。
 つまり、怖い! と思っているときは「モトの量がスッカラカン」であることを意味しています。ココロのモトが足りないのですから、その状態ではどうしても「幸せ」になることができません。ですから怖いものからはまず「逃げる」ことが必要だったりします。

 この『恐怖』とどう向き合うのかが、幸せな人生にとってものすごく重要だったりしますよね。『恐怖』もまた『怒り』と同様に扱いが難しい感情ですので、次巻でくわしく解説します……お楽しみに。


◆『驚き』のメカニズム

 最後に『驚き』のメカニズムです。『驚き』は次のような反応です。

  • 好き嫌いゲージの針が急に「どちらか」に動いた

 実はこれは「動き方」の問題でして、「どちら側に動いたか」とは関係なく起こる感情なんです。すなわち『好き』側でも『嫌い』側でも、急に針が動いたらまずはこの『驚き』の感情が出てきます。ゲージの動きが急なので、まずは周りの状況をよく確かめなさい、というココロの命令がこの『驚き』だと言えます。
 『驚き』の感情が出て周囲の状況が確認できたら、その後で「どちら側か」が判定されて、それに応じて各種感情が出ます。
 たとえば、サプライズプレゼントなどでゲージが『好き』側だと分かれば、『驚き』は「安心感」と「うれしさ」に変わります。逆に、急に何者かに襲われたときなどは、『驚き』が「怒り」や「恐怖」に変わります。それぞれ、好き嫌いゲージが「どちらか」に急に動いたため、まずココロは『驚き』という感情を出して僕たちに周囲を確認させ、その後で別の感情を、好き嫌いゲージの針の位置で出してくる、というメカニズムなんです。

 ですから「びっくりする気持ち」は、ことの良し悪しに関係なく出ます。まず「びっくり」して、それから喜んだり怒ったりする……そういう経験って、読者のみなさんにも多分思い当たるんじゃないかと思うのですが……ありますよね?

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 このように、あらゆる『感情』がこの【好き嫌いゲージ】によって「判定」されて出てくるのです。なぜかというと(復習になりますが)『感情』というものが

・ココロがモトあつめをするための命令

だからです。僕たちのココロという「器官」は四六時中「モトを集めたい」とだけ思っていますので、常に【好き嫌いゲージ】の示す「モトの量」と「針の動き方」を監視していて、それに応じてガンガン感情を出してくるわけです。

 それで……いつでも”ココロのおもむくまま”に生きられたらいいのですが、そうもいかないのが「人生」ってやつですよね。ココロのメカニズムが理解できたとしても、この「そうもいかない人生」というもの全てに対処できるわけではないものです。
 なぜこんなことになってしまうのかというと……それは実は、僕たちニンゲンの『構造』に由来しています。次回は『モト』から分かる、僕たちの知られざる「新しい『構造』の知識」です。


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日南本倶生(みゅんひはうぜん)
「ニンゲンのトリセツ」著者、リリジャス・クリエイター。京都でちまちま生きているぶよんぶよんのオジサンです。新作の原稿を転載中、長編小説連載中。みんなの投げ銭まってるぜ!(笑)