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ひねくれ映画『ラストマイル』4つの切り口で語り合いたい社会派エンタメミステリー
はじめに(ここだけネタバレはありません)
ネットで読める映画の考察って、当たりが少ないと思うんです。(自分のブログに当たりの記事は一個でもあるんか問題)
根拠が薄くて好き勝手なこと書いてたり、文章量の割に内容が薄かったり。。。(人のこと言えるほど上等な文章書いてるのか問題)
もちろん無料で公開してるのだから、プロが書いた文章じゃないのだから、当たり前です。
そもそも、クオリティは問題ではないのです!(他者擁護に見せかけた、自己弁護)
面白い映画について、好き勝手、書きたくなるんです。
いえ、むしろ、話したくなるのが良い映画なんです。(人の話は聞かないのに、自分の話は聞いて欲しい、めんどくさおじさんの典型……)
ということで、2024年8月に公開となった映画『ラストマイル』について、好き勝手書きたいと思います。
身近なテーマを扱っていて、有名な俳優さんがたくさん出ていて、王道なエンタメ作品なのに色んなことを考えさせられて、こんなに語り合いたくなる映画は中々無いと思います。
ただ、私は客観性を失わないために、
ただの酔っ払いおじさんのブログにならないために、
自分のしたい話とセットで、フレームを提起したいと思います!(お前の提供するフレームで語り合おうというのが既に気持ち悪いおじさんではないか問題は??)
さて、前段が長くなりましたが(このあとも長いので)、要約すると、
この記事は以下の4つの要素とおまけ3つで語ります。
映画『ラストマイル』は4つの切り口があると思うのです。
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登場人物の名前を、最初に整理しておきます。もっとたくさんの方が出演されていますが、今回取り上げる方の名前だけ記載します。
舟渡エレナ(演:満島ひかり)デイリーファスト西武蔵野ロジスティクスセンター・センター長
梨本孔(演:岡田将生)デイリーファスト・チームマネージャー
五十嵐道元(演:ディーン・フジオカ)デイリーファスト・ジャパン 統括本部長
サラ(演:Sarah Macdonald)デイリーファスト・アメリカ本部・アジア担当
八木竜平(演:阿部サダヲ)運送業者・羊急便 関東局
佐野昭(演:火野正平)佐野運送 父
佐野亘(演:宇野祥平)佐野運送 息子
山崎佑(演:中村倫也)デイリーファスト・元チームマネージャー
筧まりか(演:仁村紗和)山崎佑の恋人
中堂系(演:井浦新)UDIラボ 法医解剖医
白井一馬(演:望月歩)バイク便ドライバー
桔梗ゆづる(演:麻生久美子)西武蔵野署 警視
陣馬耕平(演:橋本じゅん)警視庁 第4機動捜査隊 警部補
勝俣奏太(演:前田旺志郎)警視庁 第4機動捜査隊 巡査長
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1.物流問題・下請問題・資本主義・グローバル化 ~あれ、小難しい?? いえ、そんなことはありません、大人の社会科見学が魅力です
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言わずもがなですが、あえて言わせてください。
まず一つ目の切り口は、物流です。ロジスティクスです。
この映画は、物流倉庫のシーンが多く、説明も豊富です。大人の社会科見学みたいで楽しいです。
持ち戻り、再配送、宅配ボックスいっぱい、、、なんていう馴染みのあるところから、ラストワンマイル、フリーロケーション、自前の商品と3PL、バーコード間違いによる誤配送、、、等など色んな物流用語がバンバン出てきます。
【個人的用語解説】
ラストワンマイル:荷物を顧客に届ける最後の区間の配送サービスのこと。ネットショッピングにおいて、このラストワンマイルの品質向上が重要とされています。
タイトルに「ワン」が無いのは、SEO対策でしょうか。「ワンマイル」は、商品を届ける物流の最後の1区間のことを意味するので、「ワン」じゃないから、みんな等しく物流の最後の砦、的な意味が込められているのでしょうか。謎ですね。
フリーロケーション:倉庫の棚にバーコードがついていて、それと商品のバーコードを紐付けすることで、空いているスペースにどんどん商品を置ける、という倉庫管理方法。対義語は、固定ロケーション。置き場所が固定ではないのでスペースを最大限活用できるメリットがあります。
3PL(スリーピーエル):3rd Party Logisticsの略称で、倉庫への入荷・保管・出荷のサービスを代行すること。商品を預かっておいて、指示が来たら、代わりに発送するよ、というサービス。主に商品の保管費と出荷作業費と配送費が発生する、委託サービス。今回の映画のトリックの一要素です。
バーコード間違いによる誤配送:倉庫はバーコードですべての商品を識別・管理しているため、たとえ違う商品でもバーコードが同一であれば同じ商品と見なされます。そのため、誤配送の主な原因(桃太郎と思ったら金太郎が入っている理由)はバーコード不備によるものがほとんどです。今回の映画のトリックの一要素です。
*****
物流は今年、2024年問題と言われるホットな年なのですが、まさかのこの映画は2年前の2022年に撮影とのことです(2022年12月1日にクランクインして、2023年3月11日までの撮影だったそうです)。制作陣のこの慧眼には脱帽です。
※2024年問題:働き方改革に伴い、ドライバーの労働時間に法律で制限が設けられ、新たに生じる様々な物流問題。
もちろん、2年前から物流クライシスとかコロナでの物流破綻とかで、物流は話題になっていたと思いますが、、、普遍的な切り取り方・取り上げ方をしている、というところがすごいと思うのです。
そして、物流問題の根幹は下請問題です。
配達員の賃金が荷物1個につき、150円から170円になり、20円上がった、というシーンがあります。
10分で1個運んでも1時間で6個。1日8時間で48個。1か月20日で960個。1個170円で月16万3千200円です。
(映画では1日200個配る「やっちゃん」という登場人物が出てきますが、仮に再配達なしでもそんな数行くんでしょうか。。。)
パンフレットの中で塚原あゆ子監督が『この映画で映画で描いてみたいことは?』という質問に対し、『流通に限らず、経済活動の歪みというのは一体どこから始まっているのだろうと。突き詰めて言うとそういうことだと思います』と答えます。下請問題は、歪みの最たるものだと個人的に思います。
*****
問題を大きく捉えると、海外製品・サービスの流入も一因であるとこの映画では述べられているように思われます。
Amazonがモデルになっているであろう、本映画のDAYLIY FAST社は、日本の配送会社に値下げを強いていきます。そうです、あれです、、、「GAFA」に飲み込まれるのです。
さらに、中国製の安い商品に飲み込まれ、高品質な洗濯機が売れなくなって潰れてしまった元メーカー勤務でドライバーの佐野亘(宇野祥平)の話も登場します。
グローバル化の波で、より優れたものが入ってくると同時に、より熾烈な競争にさらされるようになったのです。
ただ、ネットではAmazonの話がよく取り上げられていますが、
(Amazonが怒らないのだろうか、、、とか)
これは、別にAmazonに限った話では無いと思います。
楽天だって「顧客満足の最大化」と謳っていますし、、、 (マジックワード)楽天の倉庫だって炎上してますし、ブラックフライデーでもプライムデーでもなくて、楽天スーパーセールなだけですし。
配送会社のヤマトだって契約解除は大きな問題になりました。
*****
ちょっと脱線しましたが、結局、映画のストーリーとしては、
最後に配達員の佐野親子が子どもの命を救います。
ラストワンマイルで真剣に仕事をしている日本人がいたから、
最後に子どもを守れた。
安い海外製品には負けてしまったけど高品質な洗濯機が頑丈だったから、
良い日本のモノづくりで、最後に命を守れた。
そういうメッセージが込められてたんじゃないかと思います。
*****
考えすぎかもしれませんが、
「洗濯機、直りますか?」
「部品がないからもう直せません」
というやりとりがその後にあります。
直らないんかい!! と思ったのは、私だけではないはずです。。。
失われた技術は戻らない、安いものに駆逐されたらいくら惜しんでももう帰ってこない。。。
そんなメッセージに感じられました。
*****
また、これも勘繰り過ぎかもしれませんが、
顔立ちがハーフっぽい役者さんを、
アメリカ本社のサラの部下で、日本の責任者役にすることで、
海外と日本の板挟みになっている、外資系企業で働く中間管理職の日本人、という立場をより分かりやすく描いている気がします。
ディーンフジオカさんは、ハーフではないそうですが、(ハーフ顔な日本人イケメン、、、)
満島ひかりさんは、アメリカ人の祖父を持つクォーターだそうで、
狙った配役なのではないかと思ってしまいます。
*****
そしてやっぱり1番頭が良いのは、デイリーファスト・アメリカ・アジア担当 サラだったのではないかと思います。
(GAFAの、、、)アメリカ大企業のスーパーエリートサラリーマン サラはブラックフライデーの売り上げを失わないために、筧まりか(仁村紗和)からの犯行予告を無視(隠蔽)します。
しかし保険として、エレナ(満島ひかり)を日本へ送り込みます。一度休職して、キャリアに傷のある彼女を送りこむというのは、いざという時に責任を取らせるための首斬り要員としてでもあったと推察出来ます。
もちろんそれはあくまでリスクヘッジで、
優秀なソルジャーとして彼女はまず最優先事項の稼働・売り上げ死守という
任務を果たし、
差し違えても問題を解決してくれるだろう、
という期待もあったと思います。
だって「ぼくはわるくないです、エレナがやらかしましたぁ」と嘘の報告をあげてくるポンコツ筋トレイケメン五十嵐だけでは、きっと株価が暴落していたでしょうし。
わざわざ五十嵐をすっ飛ばして、直接日本語でエレナに電話をしてフォローをしていたのは、
彼女になんとかしてもらいたかったからでしょうし、彼女ならなんとかできると思っていたからでしょう。
以下の公式インタビュー動画でもエレナの優秀さについて語られています。
(6分50秒あたりからです。)
エレナは、マクロで物事をとらえ、世界を俯瞰で見ている。。。
とても優秀で、そして孤独。。。
そんな彼女さえも手玉に取る、サラなわけですよ?
怖すぎませんか??
九死に一生を得た部下の山崎佑(中村倫也)に、速攻で誓約書にサインまでさせるこの周到っぷり。きっとこれもサラの指示です。
「生きててよかったわね。じゃ、サインとってきなさい」って五十嵐に言ってますよ、ぜったい。(ひぃ、こわ、、、)
一番頭が良くて、全部のリスクを分かっている。そして、最善手を打ち続ける。。。
そして、想定通り、優秀なエレナは、期待に応える。。。
すべてサラの筋書き通りです。
お分かりいただけましたでしょうか。。。
真犯人は、サラですね、はい。
エレナ(満島ひかり)は最後に、『爆弾はまだある』と言いますが、
大企業は今回同様、優秀な人材を使いつぶしながら、訴訟に勝ったり負けたりしながら、爆弾を抱えたまま大きくなってゆくんだろうなと思います。
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2.シェアード・ユニバース ~単純にテレビドラマ2本見てから見ると、より面白いよ! という話
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今作『ラストマイル』は『アンナチュラル』・『MIU404』 という2本のテレビドラマと関連があります。
関連というのも続編ではなく、「シェアード・ユニバース」作品と銘打っております。
※シェアード・ユニバース:
複数の作品の世界観がつながっていて、クロスオーバーする。作品は単独でも成立するが、全体のストーリー、キャラクター、世界設定が共有されながら、発展していく作品群。
アンナチュラル:2018年1月~3月放送
MIU404 :2020年6月~9月放送
ラストマイル:2024年8月23日公開
ちょっと期間があいております。「お待たせしました。お待たせしすぎたかもしれません。。。」ってかんじです。しかし大丈夫です。良い作品にはファンがたくさんいるのです。
(わたしのようなニワカファンも大々的に宣伝していれば、「え、元々ファンでした」みたいな顔して映画は観に行くのです。そしてまた勝手にファンになるのです。)
実際「シェアード・ユニバース」は、映画の興行収入を増やすためにドラマの知名度を使う、というのがわかりやすい側面だと思います。
しかし続編ではないので、過去2作を見ていなくても問題はないのです。そこがシェアード・ユニバースの大事なところです。
しかし、個人的には両方1話だけでもいいから見てから劇場に足を運んだ方が面白いとは思います。(何回「しかし」って言うねん。。。)
ーーそれって結局、売れた作品に寄っかかって二毛作してるだけじゃないんすか?(ひねくれ者の囁きが聞こえる。。。)
違うんす、寄っかかってもつまんなくなった作品はいっぱいあります。。。この映画はとても面白いんです。
ーー登場人物のイケメン俳優を使い回してるだけではないんすか?(ひねくれ者の戯言が聞こえる。。。)
パンフレットで新井順子プロデューサーが『実際の制作で苦労されたことはなんでしょう?』という質問に対し、『とにもかくにもスケジュール調整ですね。石原さとみさん、綾野剛さん、星野源さんを筆頭に、みなさん数年先までお仕事が入っておられます。』というお話があります。もうこれは本当に大変だったのだろうと思います。
*****
では、どんな世界観が共通なのか、何をシェアしているのかというと、
私はこの3つのストーリーの共通点は、
社会のゆがみが、犯罪という形で表出する。
皺寄せが弱者に向かい、誰も手を差し伸べなかったからこそ、今度は無関係の他者を傷つける形で、痛みが社会に逆流し噴出する。
それが、共通する世界観ではないかと思うんです。問題提起はそこだと思うんです。
アンナチュラルは、
不自然死の原因を追求しないからこそ起こる事件たちの話です。
MIU404は、
非正規雇用・ブラック企業・毒親、2話
正しい教育を受けられなかった少年、3話
暴力団に搾取される風俗嬢、4話
違法に働かされる外国人、5話
などなどです。
そしてラストマイルは、、、
・注文したものが当日届く
・無料で何度も再配達してくれる
・理由を問わず無料で返品ができる
そんな圧倒的な利便性は、
インフラと呼べるくらい社会に浸透しますが、
それを支える実態は、、、という話です。
パンフレットの中で脚本の野木亜紀子氏がこう語ります。
『これだけ宅配やネットショッピングが身近になった時代に物流が止まったら大変です。そこで調べていったら、今の日本の構造が見えてきました。上から下へどんどん皺寄せがいく。そのくせ、下流にはお金は落ちない。どんどん苦しくなるばかり。エンドユーザーに届ける、末端のラストマイルのドライバーたちは、疲弊していくしかない。(中略)今の日本に存在する問題をカリカチュアし、物語を通して、あの構造を見せたいと思いました。裏の主役としてドライバー親子を描きましたが、彼らの頑張りで何とかなる世界ではもうないんです』
※カリカチュア:風刺的に描写すること。特徴を際立たせて描写すること。
便利な世界は、誰かの犠牲の上に成り立つ歪な世界です。
*****
「シェアード・ユニバース」とか「アベンジャーズキャスティング」とかって大層な名前つけるから、変な感じになるんではないかと考えます(変なひねくれ者が現れるのです)。
単に「テレビドラマ2本見てから見ると、より面白いよ!」ってだけの話だと思います。過去のドラマの登場人物がちょいちょい出てくるのがノイズだという意見もありますが、
私はむしろ昔のドラマの登場人物が、成長したり更生したりして、ちょいちょい出てくることで、
未来や希望を感じさせると思います。
だってこの映画、基本的に救いのないオチじゃないですか。
『爆弾はまだある』
『次はあなたの番よ』(あなたが病む番よ!)
で映画が終わるんですよ!?
(いや、「次はあなたが責任を負う番よ。倉庫の稼働を死んでも守らなくてはいけない番よ」か。
「次はあなたがこの難問に向き合う番よ。あなたは罪を贖える? 爆弾を止められる?」とかが普通の解釈だとは思うんですが、、、)
ともかく、この映画は
山崎佑(中村倫也)が目を覚ましてハッピーエンドじゃないんですよ!?頼むから目を覚ましてくれよ、倫也ぁあ!
(目を覚ましたとしても、彼女が自分のために犯罪者になって、しかも亡くなってるんですから、どうしたって悲しい話なのですが。。。)
テレビドラマじゃ出来ないようなカタルシスも救いもない、でも考える余白を残す、ビターエンドなわけですよ。ほろ苦いエンディングなわけですよ。
ほら、すこしは希望が欲しくはないですか?
ハッピー、足りてなくないっすか?
⇒そこで過去2作の登場人物達なわけです!
具体的には、
アンナチュラル第7話「殺人遊戯」と、
MIU404第3話「分岐点」が絡みます。
1人目は、バイク便ドライバー 白井一馬(望月歩)です。
アンナチュラル第7話で友達を死なせてしまったことを悔い、『僕だけが生きてていいのかな?』と泣いていた高校生の彼です。
『死んだやつは答えちゃくれない。この先も。……ゆるされるように、生きろ』by 中堂系(井浦新)『ゆめなぁらば、どぉれほどぉ、よぉかったでぇしょぉお♪』 by米津玄師
あのドラマ、エンディングの始まるタイミングが絶妙でしたよね。
社会をめぐる血液ともいえるような流通がストップしたとき、最初に酸素不足になるのは。。。
映画の中で、物流の混乱によって最初に割を食うのは、手術を待つ患者に必要な薬品が届かない、
というケースで描写されます。
ここでもまた弱者がまず、そのしわ寄せを受ける構造です。
ただそこは、バイク便が救います。一度は死のうと思っていた彼は、(単に普通に大学生とかになって、遊ぶお金の為にバイトで配送をしてるだけかもしれませんが) ともかく世の為に働いているのです。こんな素敵な話はありません。(むしろ、リア充なチャラチャラ大学生になっていたとしても、それはとても喜ばしいことです)
2人目は、第4機動捜査隊巡査長 勝俣奏太(前田旺志郎)です。
MIU404の第3話で、桔梗ゆづる(麻生久美子)が
『社会全体でそういう子どもたち(=未成年をかさに着て好き放題に犯罪行為をする子どもたち)をどれだけすくい上げられるか? 5年後、10年後の治安はそこにかかっている』
というセリフがあります。
この伏線を回収するのが、この映画であり、成長した彼の姿なのです。
この時の虚偽通報をしまくる非行オオカミ少年が、更生して立派な刑事になっているのです。
5年後、10年後の治安を乱しそうなヤツ筆頭な子どもが、治安を維持する側になっとるわけです。
これはこの映画の数少ないハッピーポイントだと思います。
あとのハッピーポイントなんて、佐野パパが息子のために、おっさんぶん殴るところぐらいではないでしょうか⁇
(いや、たぶんもっと他にあっただろう……)
*****
3.裏テーマ:犯人は誰か? ~Why done it?→Who done it?(ホワイダニット?→フーダニット?)
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ミステリーには、「フーダニット、ハウダニット、ホワイダニット」という要素があります。
フーダニット:誰がしたのか?(犯人)
ハウダニット:どうやってしたのか?(方法)
ホワイダニット:なぜしたのか?(動機)
という3つですね。
この映画のミステリー要素として、
まず、ホワイダニット(動機)はシンプルで、「恋人の復讐」です。
続いてフーダニット(犯人)ですが、舟渡エレナ(満島ひかり)が山崎佑(中村倫也)の恋人かと思ったら、あれ違ったなぁという話です。
そしてハウダニット(方法)が深堀されていきます。どうやって商品と爆弾を入れ替えたのか、ですね。
しかし、映画のストーリーが進むにつれて、
犯人がどうしてそんなことをしたのかをよくよく考えると、
犯行の動機は「復讐」であることは間違いありませんが、
原因は他者を蔑ろにし、利益追求を貫く大企業にあるのではないかと思えてきます。
そしてなぜそんな巨大なモンスターが生まれてしまったのかというと、
彼らのもたらす便利さを、我々が顧客として選択しているからです。
より良いサービス・より安い商品を求めるユーザーは、悪に加担していると言えます。
映画でも、
・宅配ボックスの荷物をさっさと回収しないユーザー
・何度も再配達をしてもらうユーザー
・自分で注文をしておきながら身勝手な理由で返品を行うユーザー
などなどが登場します。
別に違法行為をしているわけではありません。企業の提供するサービスを享受しているだけです。悪意なんてありません。
でも、資本主義の持つ自己責任論を支えているのは間違いありません。
「世界は罪を贖ってくれるんですか?」
ーーつまり、犯人は誰か?
ポチッとるそこのお前らじゃああああ!
はい、ここが私はこの映画の裏テーマだと思います。
会社に爆弾を仕掛けるのではなく、
エンドユーザーに爆弾を届けるというのは、
かなりひどい爆弾テロだと思いますが、
ポチッとるそこのお前らじゃああああ!
と言いたいのです。
なぜ裏テーマの話が出たかと申しますと、
以下の記事で、脚本家の野木亜紀子さんのお話を読んだからです。
いわば「裏テーマ」は、いかに巧妙に出すかをすごく考えますよね。流れのなかで、いかに自然に出せるか。あくまで裏だから。そんな小賢しいことは考えなくても、物語が面白ければいいんですよ、本当は。ただ、自分がドラマオタクなので表面的な面白さ以外のものも求めたくなるんですよね。自分がお客さんだったときに、そういう楽しみ方をしていたから。
個人的に、この映画の裏テーマは「犯人は誰か?」ということではないかと思います。
(この記事を書かれた方は、裏テーマが「情報社会における“強者”への対抗」と書かれているので意見が違うのですが、、、)
裏テーマは、犯人は誰か?
こんな悲劇を止められなかったのはなぜか?
こんな世の中にしたのは誰か?
「豊かさは誰かの犠牲の上に成り立っている」
という話だと思うのです。
以下の記事で、脚本家の野木亜紀子さんはこう語っております。
「現実にある企業の問題点を伝えているわけではなく、世界の構造を風刺しています。社会のしわ寄せで苦労しているのは末端の人々であって、物流に限らずどの業界でも起きている。そこに私たちも加担している。そんな構図が見せられたらと思いました」
ありのまま見れば、連続爆弾事件の犯人は筧まりか(仁村紗和)です。
しかし、それを止められなかったのは、犯行予告を無視したサラの責任です。
そもそも、山崎佑(中村倫也)が飛び降りなければ、事件は起きませんでした。そう考えると、五十嵐(ディーン・フジオカ)の責任は大きくあります。少なくとも山崎佑(中村倫也)が心を壊したことに関して、贖うべき罪はあるはずです。
従業員が大怪我をしても、ベルトコンベアは止まらず倉庫は稼働し続ける。秒速2.7メートルで動くベルトコンベアの重量制限は70kg。そこに人が落っこちてきても、稼働は0にはならなかった。「2.7m/s→0」にはならなかった。
何の意味もなかったから、『バカなことをした』というセリフになるのかと思います。
替えの利く歯車でしかありません。
「死んでも止めるなって山崎に伝えろ!」
ベルトコンベアはまた動き出します。
五十嵐の言葉通り、飛び降りた自分だけが「がらくた」になって、
世界は変わらず回り続けます。
倉庫は動き続けます。
それは、、、
あなたがポチッた商品を届けるためです。
あなたの欲望が、すべての始まりです。
『What do you want?(何が欲しい?)』
という犯人からのメッセージは、
「お前たちは、私の大事な人を苦しめてまで、
まだそんなに欲しがるのか?
そんなに欲望が尽きないなら爆弾をくれてやる」
という無差別な復讐と解釈出来ます。
人の命を軽んじる企業が、
宅配業者に圧力をかけて安くした製品を、
そんな人の血と涙に汚れた商品を、
ポチッとするだけで手に入れる消費者が、
何の疑いもなく、中身の見えない荷物を開封すると、
ボン!! と爆発します。
社会の歪みの責任は自分たちにあるし、その報いを受けるのも自分たち。お前たちは被害者ではなく、加害者、、、というメッセージです。
低開発の発展とか、ファストファッションの人権問題とか、
「豊かさは誰かの犠牲の上に成り立っている」というのはずっと前から議論されていることですが、改めて考えさせられるきっかけになります。
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4.働くこと、そして壊れること。 ~仕事で擦り切れる現代人にこそ、刺さる映画
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長くなりましたが、一番私が語り合いたいのはここです。もうここまで読んで疲れて離脱している人がたくさんいると思います(そもそも読んでいる人がたくさんいるかも怪しいブログですが)。しかし、私はここが一番熱いと思うのです。
ーー働くこと、そして壊れること
これがもう、この映画のど真ん中です。
ここが刺さるかどうかは、人によって変わると思うんです。ここが自分の琴線に触れるかどうかで、この映画の評価というか、良しあしが一番変わると思います。
「壊れる」
その言葉を聞いて、何が思い浮かびますか。
壊れるという定義にもよりますし、主語にもよります。そしてもちろん、何がそれを壊したのか? という話もあります。
私個人が映画を見て思うことは、「現代人はみんな壊れている」ということです。というのも、世の中には三種類の人間しかいないと思うんです。
「①病んでて仕事してないやつ、②病んでるのに仕事してるやつ、③不労所得で生きてるやつ」の3パターンしか、人類にはいないと思うんです。病まずに仕事してるやつは、いないと思うんです。
病まずに仕事してるやつは仕事をしてないんです、人に仕事を押し付けて朗らかに生きてるんです。
病まなければ仕事じゃないんです、、、つまり、それは不労所得なのです。
(不労所得にわか勢と、不労所得がち勢がいるのですが、わたし? 私は病まずに仕事してるんで、もちろん不労所得にわか勢です。)
ということで、私にとって壊れることは、「病むこと」です。
「資本主義社会によって、人々が皆等しく、病むこと」。それが私が働くことと、壊れることについて考えることです。
八木(阿部サダヲ)は電子煙草が止まらなくて、中間管理職の板挟みで苦しんで、社長にブチ切れ。
エレナ(満島ひかり)は眠れなくなって、休職。
孔(岡田将生)はお菓子とかマックばっかりたべちゃうし(何故か太らないしハゲないし肌荒れすらしないイケメン)
五十嵐(ディーン・フジオカ)も筋トレしちゃうけど、ほんとは苦しい。だって外資だから。いつでもクビになるから。
みんな苦しい。どこにいても、何をしていても、苦しいわけです。
苦しさを埋めるために、物を買って。欲望を満たすために働いて、どんどん苦しくなっていって、、、
みんなそうやって、
ニコチン中毒になったり (電子タバコにニコチンは無いかもですが)
不眠になったり (クマとかは一切ない)
過食になったり偏食になったり (な、なぜ太らん?)
筋トレで現実逃避したり (健康的で良いリフレッシュでは)
ロボットになれない、不完全なAIみたいな、ぽんこつな僕らは、すぐにあっちこっち故障します。
そして自分のためならぜんぶマッチポンプで、
結局、プラスマイナスゼロだと思うのですが、
他者が介在すれば、そこには意味が生まれると思います。
映画のラストで、子ども達からお母さんへの誕生日プレゼントが届けられたように、誰かを想っての行動は尊いなと思います。
働くということは、社会に貢献し、誰かのためになることで対価を得ることです。だからこそ、勤勉に働くことで他人も自分も傷つけているというのは、、、悲しい自家撞着ですが。
価値ではなく、意味であれば、自分が決められます。
仕事で擦り切れる現代人は、
何のために、誰のために病むのか?
そこ命題なんだと思います。
言うなれば、ホワイダニットが、そこには人それぞれあるから、病んでいても頑張れるんだと思います。
そんなことを考えます。
*****
おまけ。『がらくた』って誰目線?
![](https://assets.st-note.com/img/1725798235-6ZpAj2USsgYlOKdQ7Rok1e3w.png?width=1200)
「がらくたの歌詞が、映画の登場人物の中の、誰目線なのか問題」です。
この映画で出てくる登場人物で、
恋愛関係なのは、犯人と恋人だけです。
つまりこのどっちかではないかと思います。
素直に考えると、一人称が『僕』なので、
山崎佑(中村倫也)目線の曲なのかと一瞬思いますが、
『あなたを否定してきたその全てを』とあり、否定されたのは、山崎佑(中村倫也)です。
『許せなかった 何もかもすべてを』とあり、許せなかったのは、筧まりか(仁村紗和)です。
『たとえばあなたがずっと壊れていても』という部分について、壊れているのは、植物状態で目を覚まさないことを指すのなら、やはり筧まりか(仁村紗和)目線の曲になる気がします。
しかしなぜ『僕』なのか問題が残ります。
一人称が『僕』なのは『マイノリティ』だから、というのはちょっとこじつけな気がします。
そこで「どっちでもない」という第三の選択肢を思いつきます。
ググってみると、インタビューで米津玄師さんが以下のように語っておられるのを見つけました。
「壊れてちゃダメなんだろうか」って思ったんですよね。別に壊れていようがなかろうがあなたはあなただし、壊れていてもいなくてもそれぞれ私は受容するつもりでいるから、「別に壊れてたっていいじゃないか」って言えたらよかったかな、ってちょっと思ったんですよね。その体験が「がらくた」を作る上でものすごく大きな影響を及ぼしていて、その方向性で、映画の登場人物の心情とリンクする部分を手繰り寄せながら作っていったらこういう歌詞になりました。
これは、映画の登場人物の心情とリンクするだけであって、別にそこまで寄せていないというか、特にどっち目線でもないという話では。。。
いやぁ、ついつい勝手にどっち目線か考えてしまいました。正解は無い、という話でしたね。
これがあれですね五十嵐(ディーン・フジオカ)の言うところの「正常性バイアス」ってやつですね。。。(たぶん違う)
*****
終わりに
![](https://assets.st-note.com/img/1725975560-F2wjGMhLptKAVufz5UXEmaJC.png?width=1200)
話がごちゃついたので(好き勝手脱線してしまったので)整理なのですが、
・本作品の表テーマ:物流問題
・3作品の共通テーマ:歪んだ社会の皺寄せが弱者へ向かい、犯罪という形で表出する。
・本作品の裏テーマ:犯人は誰か? ネットでポチるお前らじゃあああ!!
です。。。
いやぁ、何はともあれ面白かったですよね。
説教臭さがそんなに無かったし、ちゃんとエンタメでしたよね。
なんか、胡散臭さとか嘘臭さがないというか。
「連続爆破事件」なんてとてもフィクションなのに、すごくリアリティがある映画だったというか。(あれ、自分のブログはなんか少し胡散臭い気が、、、)
謎のオシャレ映画にしていないというか、
ちゃんと緊迫感があって、
人間臭さがあるというか、
血が通ってるというか。
あと、伏線がちゃんと拾われていくのがすごく好きでした。
しかもそれが難しすぎなくて、わかる範囲なんです。
・不眠だったエレナがやっと最後に眠れる。(梨本孔に鍵を押し付けて。。。)
・良いモノづくりで、洗濯機が最後に命を救ってくれる。
・やんちゃしていた前作の登場人物たちが、更生して頑張って、世の中のために働いている。
わかりやすい構図。わかりやすい文脈。「難しすぎない」というのは、エンタメに必要な要素ですよね。
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蛇足
![](https://assets.st-note.com/img/1725974019-jLn8luB0RQMX9wSINqst6KVA.png?width=1200)
頭サル、体タヌキ、尾ヘビ、四肢トラ、なら鵺。
あれ、豚いらない。。。
蛇足ですが、今回の個人的裏テーマは、コピー&ペーストでした。
Canvaというサイトで、イラストをコピペしまくって、挿絵(見出し画像と挿入画像)を作りました。
アンディ・ウォーホルは『キャンベルのスープ缶』というトマト缶で1点ものではない、コピーの価値を世に訴えかけましたが、同じ思想です(ウソです、そんなに高尚ではありません)。
世の中にあるブログって、なんでもかんでも二番煎じでオリジナリティがない、カルピス薄めたものばっかりと個人的に思います。(いやまてぃ、お前のはカルピス何倍希釈やねんと)
でも、そんなコピー&ペーストのブログの中に、
たまに、すごく面白いブログがあります。
知りたかったニッチな情報をゲットできる、
とてもありがたいブログがあったり、
自分の胸に刺さる、すごく共感できて、じぶんだけじゃなかったんだと救われる気持ちになるブログがあったりします。
何もかも複製みたいな、コピペばっかの世の中です。
でもさ、、、でもさ!! 複製の中に、自分だけの本物があるんよ。
千と千尋の神隠しのラストの豚みたいに、
本当の豚がいるんよ。
わたしのブログも、誰かの本物になれたらいいなって、そう思ったりする日もあるんだよ!
という個人的裏テーマでした。。。
最後までお読みいただき誠にありがとうございます!