見出し画像

読書記録1:ミトンとふびん 吉本ばなな

自分の心の中の濁っている部分。
それは怒りだったり、悲しみだったり、苦しみだったり。
忘れていても時々呼び起こされることもあれば、新しい濁りがうまれることもある。昔の記憶も、今の気持ちも、パレットの上の絵の具のように混ざり合っていく。

この本を読んだら、それが取り除かれた、一つ一つ手放せた、昇華できたんです。
そんな感想は持たなかった。

六編の物語それぞれに、わたしはぼんやりとした絵画のようなシーンを思い浮かべていた。
台北を舞台にしたストーリーでは、通り雨が上がって少しコントラストの濃い街の路上と深い緑の南国の街路樹。
ローマの話では美しく晴れた青空、白さのある建物と日に焼けた住人たち。

はっきりとした線で書かれた絵ではなく、水彩画でもない。
絵としてや色としての主張は強くないけど、筆跡は生き生きとしていて、なにげない街の日常を切り取ったような油絵。
その油絵の色が混ざり合っている部分に、自分の心の濁りがじんわりと同化していくような気持ちになった。
油絵だけどそこだけは染み込んでいくイメージだった。

それは決して暗い気持ちでなく、濁りを自分の中の一つというのを想うようなそんな気持ちだった。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?