③心身発達の「ゴールデンエイジ」
おさらい
前回はマルチスポーツの効用や懸念点、
もたらしうる社会的価値について考察しました。
今回は、幼少期の多様な運動経験がもたらすベネフィットについて「ゴールデンエイジ」という発達科学の用語をもとに紹介します。
ゴールデンエイジとは
ゴールデンエイジの定義には様々な表現がありますが、いずれも前提となっているのは「子どもの発達に関する科学=発達科学」の研究結果の一つである「スキャモンの発達曲線」です。
神経型のグラフが示す通り、神経系の発達は、
およそ12歳ごろまでにほぼ100%成熟することが示されています。ちなみに一般型は骨格や筋肉肉、臓器などの発育過程を指しています。
発達科学の分野では、神経系を中心とした心身の発達が著しい特定の時期をゴールデンエイジ(発達黄金期)と呼んでいます。
ゴールデンエイジの発達過程は大きく3つの段階に分類されています。
プレゴールデンエイジ(3~8歳)
神経回路の発達が著しい時期です。遊びを通じて運動を行うことで全身に神経回路が形成されていき、以降の時期の発達準備が進みます。
おおよそ6歳ごろまでに80%の発育が進み、8歳を終えるころには90%を超えていきます。この時期に、リズム感やバランス感覚などの自分の身体を操る「コーディネーション能力」(次回に詳細解説)をトレーニングできると、ゴールデンエイジの急速な発達を支える土台が整います。
ゴールデンエイジ(9~12歳)
神経系の発達がラストスパートを迎える時期であり、技術や複雑な動作の習得が神経回路の土台のうえでスムーズに進むようになります。
お手本の動作を見るだけで、かなりの精度で再現できる子どもも出てくるなど、人生の中でも最も発達著しい貴重な時期であり、各種のスポーツクラブで集中的に指導が行われる期間になります。
ポストゴールデンエイジ
神経系の発育がほぼ完了することで、骨格や筋肉の発達へ成長の軸がシフトしていく時期です。筋力や体力が伸び、各競技や運動においてパフォーマンスが向上していく時期になります。
この頃になると身体の出力が高まっていくため、それまでの時期の過ごし方に起因する慢性障害や、突発性のケガが増えてくるため、競技を長く続けられない状況になる人物も増加します。
(参考)学力におけるゴールデンエイジ
見過ごされがちではありますが、神経系の発達が著しいゴールデンエイジには学力・思考力についても運動能力と同様に急速に発達します。
神経系の発達は当然ながら運動神経に限ったことではないのです。
常識故に軽視されがちな発達の3大要因
睡眠
最も軽視されがちなファクターですが、中長期的な心身の発達においては最重要の要素と捉えています。
睡眠にはレム睡眠とノンレム睡眠の2種類あり、それぞれの種類で脳や身体に及ぼす影響が異なっています。
いくら運動や勉強に日中熱心に取り組んでも、睡眠時間そのものが不足すると、その努力を帳消しにするレベルのマイナス影響が生じます。すべての子どもにとっての最優先事項は、健全な成長に向けた睡眠時間の確保といっても過言ではありません。
学習塾やスポーツ教室に夜遅くまで通って努力しても、睡眠時間が確保できていなければ中長期的には逆効果になりうると言えます。
食事
You are what you eat「あなたの身体はあなたが食べた物である」という言葉があるように、
脳や身体の神経組織や骨・筋肉の成長には栄養素が欠かせません。
しかも、バランスのよい成長に必要な栄養素は多様であり、どれかひとつの万能食品を食べればよいというものではありません。
栄養ではなく食事が重要であり、栄養バランスの整った食事を3食とることは、発達において軽視できないプラスの影響を及ぼします。
運動
運動は、身体能力の発達のみならず協調性や忍耐力、ストレスの軽減など精神面にも好影響を及ぼします。
子どもの内発的な意欲喚起に関する心理学的理論である「自己決定理論」においては以下の3つの基本的欲求が満たされていくことで、内発的動機の喚起や心理的適応が進むとされています。
スポーツや運動を通じて、仲間と楽しみながら上達を競うこと、自分で行動を決めていくことは精神的成熟にプラスに働きます。
特に子どもにとって、複数のスポーツに取り組む中では自律性を問われる機会が増えます(例:どのスポーツを軸に据えるかの判断)。
おわりに
次回は「コーディネーション能力」について紹介していきます。また今回紹介した自己決定理論など、学業両立や精神の安定へ通じるキーワードについては別途機会を設けて解説する予定です。
今回もご覧いただき、ありがとうございました。
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