【真夏ノ冒険譚】
1.10
[本編]
俺が小学4年の頃
カノウ君って呼んでたその「ニート大学生」は
近所のマンションの3階に住んでいた
玄関の横に窓があって
それがカノウ君の部屋だった
最初はピンポンを押して普通に尋ねていた
通い慣れるようになると
ピンポンを鳴らさずに
窓から小さく声をかけるようにと言われた
「窓はいつでも少し空けておくから」、とも
そうして入るのがいつもの
『遊びに行き方』だった
ピンポンを押すと
カノウ君の母か、もしくは週末だと父が出て
歓迎してくれた
けれど、本人は嫌だったのかな
土曜の午後に遊びにいく事が多かった
平日に学校へ行くふりをして
家を出て朝から行くこともよくあった
そこはやはり引きこもり
学校行く時間に行くといつも寝ていて、
少し空いてる窓から声をかけ起こしていた
だからピンポンは鳴らさずに窓からだったのかな
とも思った
散々たる部屋の様
積まれたゲームソフト
漫画本、ゲーム攻略本
空き缶空きボトル、カップ麺の残骸、
そしてベットの下にはお約束の本
安定のTHEヲタク部屋
まーた『ジャス学』やってるよ
飽きねぇなこの人も...
そんな汚くも面白そうなモノの山みたいな所に
遊びにいくのが楽みだった
気晴らしに外へ
エアガンを撃ちに連れ出してくれたり
家の人には内緒だぞ、と
ラーメン屋へ連れてってくれたりもした
ある日、商店街の玩具屋に連れて行かれ
小学生では買えないR15のエアガンを
買ってくれた
モデルはソーコムだった
俺は、形がデザートイーグルの方が
かっこいいと言ったら
「D.Eなんてオートマグナム、
形はいいけど実用性欠けるし
エアガンの威力なんて
アルミ缶貫通はしないぞ」
ソーコムの方が現物でも実用的だし
エアガンとしても良いと言われた
(講習か)
カノウ君はミリタリー専門オタクというわけではなかったが、色々な事を知っていた。
そういや小学生中学生入り混じりの
4.5人vsカノウ君1で撃ち合いしても
手も足もでず皆順ぐりに「動くな」されてた
相手は手練れったって一人だ
人数で囲んで攻めりゃ獲れるだろ...
ガキのなまっちょろい安直思考
気付くと遮蔽物の多い
マンションの敷地内に誘導されてた
「動くな」喰らって降参し
彼の側で戦いの行方を見守る
その時カノウ君の汗かきながら壁を背にし
「おいショーマ!弾撃ち尽くすなよー」
なんて言いながらニヤニヤしてるのが
超かっこよかった
引きヲタとは思えない動き、動作
眼鏡かけた長身中背の男が
まるで映画にでてくるワンシーンのようだった
かくしてソーコムのモデルガンを買ってもらった
撃ち方、狙い方、隠れ方、走り方
色々教えてくれた
(叩き込まれた?)
おかげで同級生とエアガンごっこをしても
1対2.3人でも撃ち負けなかったり
そんなカノウ君に
ガキながら
誇らしさと
憧れと
恩を感じていた
いつかカノウ君がやった事ないような
面白いゲームを見つけて
貸してあげようと思ってた
それくらいしか
恩の返し方が思い当たらなかったんだ
当然のように俺が毎回持ってくモノは
彼が既に知ってる物だった
ある日のこと、
そろそろ中古のゲーム一本くらい買えるなと千円札4枚ほど貯めて中古ゲーム屋に行くと、友達同士でも見かけたことのないプレイステーション
3枚組のRPGのソフトを見つけた
レジェンドオブドラグーン
今でもタイトルを覚えているが、
それは無知だっただけで、
当時ではかなり番宣なども大々的に
やっていたタイトルだったらしい。
まずは自分で少しやってみる
これは画質、物語やBGM、戦闘システム
どれをとっても面白いと言える
かつ彼の知らないゲーム
なのではないかと思った。
カノウ君のことだから知ってるかもな...
などと少し思いつつも
これならば、もしかしたら恩が返せるかもと
勇んで貸しに行った
何故かその日は、いつも散らかってる部屋が
片付いてるのに違和感があった
兎角、持参した戦利品を見せてみる
「このゲームは、知らない...」
目の前でプレイし
「面白そうだ...」
と言ってくれた
やっと、恩が少し返せたと思った。
その一週間後
いつものように学校行くふりして朝からカノウ君を起こしにマンションの部屋の前まで行くと
いつも掌の半分くらい空いてる窓が閉まってた
まだ朝だし、家の人もいるだろうから
ピンポンは押しづらかった
窓の外の鉄格子越しに
窓をノックしても反応がなかった
大概は寝ててもそれで起きるのはずが、
その日はしんと鎮まるままだった
ガッカリ感と何故か少し悲しさのような気持ちのままその日は少し遅刻して学校に行った
いつもにない事だから違和感を感じてはいた
次の日も朝から行ったけど、結果は同じだった。
次の土曜
午後ならと思い
午前の授業が終わってそのまま
カノウ君のマンションに向かった
同じだった
3日はおかしい
いてもたってもいられなくなった俺は
とうとうピンポンを押した
けれど他の家族の反応すらなかった
そこで目をつけたのが電気メーターだった
どこでそんな知恵を付けたのか、
電気メーターの回転の早さで
そこに人がいる可能性が高いか低いか
知っていたからだ。
メーターの回転がすごくゆっくりだった
まるで空室の、最低限の回転速度のような速さで
窓から声をかける時は小さな声でと言われていたけれど、ピンポンも鳴らした事だし
なによりその違和感に気が気でいられなく窓越しに名前を大きな声で呼んでたみた
その時ちょうど隣のおばさんが帰って来て
こう言われた
「カノウさんなら引っ越したのよ」
バカだった
電気メーターに目を配るよりも表札がなくなってる事に気付いていなかった
悲しくも
寂しくも
なんとも言えない喪失感だった
「レジェンドオブドラグーン、
借りパクじゃんか...」
正直そんな事はどうでもよかった
借したソフトを返さないという事もなかったし、するような人でもない
とか
どうして一言、言ってくれなかったんだ
とか
色々考えた。
それからは同級生としか
遊べなくなったのがつまらなかった。
遊ぶ同級生は決まって四人
マイペースだが寂しがりな
オノ(男子)
好きなもの:
ゲーム、サッカー
同い年だがどことなくお姉さんぽい
雰囲気があるため呼び名は
センパイ(女子)
好きなもの:
ゲーム、勉強?、絵描き、模型作り
家が近く小学生前から知ってる天然元気っ子
リナ(女子)
双子の姉で
天然のはるか上をゆく大自然ボケの妹を持つ。
好きなもの:
ゲーム、おいしいもの
そこに俺を含む4人がお決まりだった
みんなゲームが好きで、よくソフトやメモリーカードを持ち寄ってウチで一人用のRPGを代わるがわる遊んだりなどしてた
そんな同級生達には
カノウ君という存在を
内緒にしていた
そしていつも俺はカノウ君から
教えてもらったり、借りたりしたソフトを
あたかも自分が見つけたかのように自慢していた
3人も楽しんでくれていた
カノウ君と会えなくなり
そのまま夏休みに入る
いつもの四人で、ウチでゲームをしていた
モンスターファーム、テイルズ、
FF7...
ふと気付いた
(これ、カノウ君のだ...)
FF7を最初にカノウ君の部屋で彼が
プレイしているのを見て、
一目でその世界に引き込まれ
その日に貸して欲しいと言った
けれど、その時はまだ彼がこのゲームをクリアしておらず代わりのソフトを持たされたっけな。
それも面白かった記憶がある。
それがテイルズオブデスティニーだった
そのテイルズを初めて見た時も代わりのソフトを持たされたっけな。
スターオーシャンというゲームだったかな
カノウ君は貸して欲しいと言ったゲームを
彼がプレイ中でその場では貸してくれずとも
やり終えたら、必ず貸してくれた。
バカだった
そんな事を今更思い出した
「FF7、借りパクじゃんか...」
そこでカノウ君という存在と
それが突然いなくなってしまった事を
3人に打ち明けた
3人とも
いつしか少しだけ元気が無くなってた俺に
実は気付いてたようだった。
センパイが言う
「そんなのみんなで探しに行けばいいよ」
なんだか胸が躍った
こいつらは知りもしない人を探すのに
一緒に来てくれるのかと
そして探しに行けば
彼が見つかるかもしれないと。
まじで、一緒に来てくれるの...?
いこうっ
自分達が今まで想い焦がれた
ファンタジーのような、ゲームのような冒険に、
とうとう現実で出る気分だった。
「失踪したカノウ君を探す旅」
作戦会議がはじまる
四人で話す
どうやって探そうか
住所も電話番号もわからない
当時はPCなど普及しておらず
SNSはおろかネットすらろくにない
さすがセンパイ
次の作戦会議の日タウンページなるものを
持って来た
この冒険唯一の「導きの書」だった
これでカノウと記載ある家を
片っ端から公衆電話からかければ...
希望が見えた
公衆電話代として四人で集めた
10円玉で膨れるキンチャク袋
「これもつかいなさいよ...」
センパイがそう言い放ちカードを取り出す
1000のテレカじゃんか...いいのかよ
レイアースのテレカだった..
道中敵との会敵にも備える
オノはひ弱だから戦えないだろう
だが本人は戦うと言う。
センパイは魔法撃ってくれるってさ。
リナは天然だし回復な。
俺は長い木の棒を長剣とし、腰にはソーコム。
四人の戦士
導きの書
希望の装置を起動させるための貢物
すべてが揃った
あとは出発あるのみ
そしていざ旅立ちの朝を迎える
通う小学校決まりで
公衆電話の使用は
家か学校にかける時のみ許されていたため
近所の公衆電話では
小学生が四人も集まって
ジャカジャカ電話をかけまくる姿を
目撃されようものなら学校への通報や
オトナの注意という
妨害の恐れがあった
俺たち一行は
なるべく遠く
目立たない山の中
そんな立地の公衆電話を目的地とした。
思い当たる格好の場所があったのだ
「花の国」と呼ばれる山の一部を公園とした場所
その立ち入り禁止区画の奥に
公衆電話があるのを知っていた。
もっぱら学校では幽霊がでるとかでないとか
そんな噂もあるような所だった。
道中の駄菓子屋で食料も確保した。
きなこ棒、へんなグミ、よっちゃんイカ、
そしてチェリオ。
基本的な物を中心とし
オノは「タラタラしてんじゃねーよ」
センパイは「わさびのリ」
リナは「粉みたいなヨーグルト」
俺は「すもも漬け」
各々一番ポテンシャルを発揮できる
と思われるものを調達した。
という名分の元
各自好きなものを買っただけだった。
花の国へは通学路圏内から少し行った先だったので難なく辿りつけた
辺り一面に赤を主とし咲き誇るポピー
その様はまるで
赤い海のようだった
その真ん中の道をかき分けて進む
真夏の日差し
うだる汗
真夏ノ炎天下の中ひた歩く
それに飽きたのか
はたまた思考回路を焼かれたか
さてはこのポピー...人喰い花が紛れてるかっ!
剣で一閃...
正直に言う所
早く使いたくて仕方なかったのだ
オノも加勢すべくと、
履いてるシューズで蹴りを放つも...
ひ弱な体質と日差しによって
体力をすでにかなり消費していたようだ
そのまま転ぶ。
そこはセンパイ
「やめなよ、なわけあるか」
続いてリナ
「花をやめて!」
冷静な女子二人に叱られ
ひた進む
ここまでは人喰い花(らしきモノ)以外
オトナの妨害もなく「立ち入り禁止」の看板の前まで辿り着けた
ここから先は立ち入り禁止の禁忌区画
そこに侵入する前に
ひとまずキャンプをすることにした。
しまった...
チェリオは買った直後に
意気揚々と飲み干してしまっていたのだ
オノもそれに釣られ飲み干していた
センパイ
「全部食べたらダメだよ」
ちゃんとチェリオも残していた
が、気付く
チェリオはガラス瓶で蓋が栓のため
一回開けたら持ち運びには不向き
「大丈夫、リナ水筒もってきた」
とリナ
さすがは回復担当
小学4年女子に似つかわしくない
ゴツい大きな水筒をリュックから取り出した。
おそらく象印...
一時の休息を終え、
いざ禁忌区画への侵入を試みる
ここでもっとも気を付けなければならないのが
オトナとのエンカウント
通報やら注意などされようものなら一大事
周りに気を付けながら看板を乗り越える
今までの開放的で日差しの明るかった景色とは
一変して目の前には薄暗い森が広がっていた
かろうじて道はあるが
それを覆わんとするばかりに
身の丈程の草木が行手を阻む
今が使い時とばかりに
長剣で斬り払いながら進んだ
疲労と禁忌区画への侵入という背徳感のせいか
魔が差しハイ気味になったセンパイの手には
いつの間にか木の剣が携えられていた
隊列として俺とセンパイ
二人で行手を阻む草木を斬りながら前進し
そのすぐ後ろにリナ
「草ならやっちゃえ!」
などとまだ元気がある様子でついてくる
オノは休息をしたとはいえ貧弱体質ゆえに肩で息をしながらタラタラと数歩後ろに続いていた。
辺りの明かりも次第に陰りを増してゆき
ついに禁忌区画最深部に入ろうとしていた
今、何時だろう
ポケットの中のデジモンを見ると
明らかに時間が狂っている
小学生四人の中で唯一センパイが
腕時計なる小洒落たものをつけていた
16時前であった
「良い子は帰りましょうの鐘」
まで残り約2時間
そこにいる全員が、帰りが遅くなり
家の人に怒られる事を覚悟した。
と、思いきや..
「やべーよ母さんに叱られる」
とオノが呟いたが
帰った後の母より
目前のセンパイのオーラによって黙らされた。
剣も振り飽き、疲れ
ひた進む
時も進む
すっかり日も山向こうに落ち
いよいよ街灯に明かりが灯り始め
うるさかった蝉の鳴き声も
ひぐらしくらいになってきた頃合
もともとハイキングコースではない道ゆえか
街灯の間隔も広く
中にはついたり消えたりするような物まである
これがいわゆるオバケ電球っ!
出番を持て余し、いざこの時のためと
颯爽と腰からソーコムを取り出す
かの日、
師の教えを思い出し、
狙いを定め、
撃つ。
HIT!
「割れたらどうすんのよバカっ」
センパイに叱られる
そうして進むうちに、前方に街灯の光ではない
ぼんやりとした灯りが見えてきた。
とうとう辿り着いたのだ
目的地
例の公衆電話に
ほぼ瀕死な一名も含め
なんだかんだと喋りながら
辿り着いた四人だったが
一斉に黙る。
薄暗闇にそびえ立ち
ぼんやりとした明かりを灯した電話ボックスは
目的地到達の喜びをかき消すほどの
不気味さを帯びていたからだった。
怪談話、幽霊噂の類いに免疫がある俺ではあったが所詮は小4
正直なところ
確かにその不気味さに気圧される感じがしていた
明らかに怖がるオノ
しかしおそるおそるも俺と並び立つ
意外とけろりとしてるリナ
(こいつも免疫有りか?)
...?
「ちょっと...走ったりしたら、怒るからね...」
センパイがつぶやいた。
此奴、いつもはすましているが
この類に一番免疫ないなと察する。
(心中ニンマリ)
ともあれ既に選択肢などない
公衆電話の扉を開け
無理やりすし詰めのように押し入り
例の導きの書を取り出す
再び言おう
バカだった
そもそも近所の人への聞き込みから始めれば
手がかりがあったかもしれない
今思えばそれが一番現実的だっただろう
実際に冒険に出るという
わくわくシチュエーションに酔うあまり
皆そのことが念頭になかった
一同はタウンページ関東版
と記載された表紙で気付く
この世界の
どこぞへ行ったかも知れぬ相手を探すのに
日本の関東と
限定されている書を手にしている事に。
タウンページの表紙の顔のイラストデザインが
まるで嘲笑のように見えた
住所もわからないんだよね?
センパイが問う
わからない。
ならばと五十音順
「か行」
呪文書かっ!...
その文字数の多さと小さな文字の羅列は
疲労を伴った小学四年生には
一見そのように見えた。
解読を進める
か行の項目の「の」
そこから最初の「かのう家」の番号に辿りつくには造作もなかったが
そこに名を連ねるは代表者名
お父さんの名前とかって知らないの?
とセンパイ
知らない。
確かマンションの表札でも
姓しか記載がなかったのをうろ覚えてる
カノウの漢字は確か「狩野」だったことも
しかし記載されているの狩野家の多い事
とにかく上からかけていこう
キンチャクから十円玉をわし掴み
受話器片手にダイヤルしていく
当初の片っ端から電話する作戦
いざ決行となると
なかなかに骨が折れると痛感した。
結果から言うと
カノウ君の家は見つからなかった。
それでもおそらく200件近くはかけただろう
一件一件のコール毎に相手が出ても出なくとも
四人とも期待と夢中に溢れていた。
「狩野」というワード一つ
その名の数。
代表者名も不明なためキリもなければ宛もない
この作戦はもうやめようと言った
そしてこんな徒労についてきてくれて
ありがとう
、と
疲れも相当であるはずのくせに...
三人とも笑顔と真顔のあいだのような
活き活きとした顔でいてくれてた
だがそれも束の間
辺りはすっかり闇に覆われていた
「やばいな、センパイ今何時?」
時計の針は19時頃を刺していた
街中ならば、まだ真っ暗という空ではないものの木々の生い茂る森のなかではほぼ闇だった。
先の、一同怪談への免疫の有無は
四人共、解っていたのだろう
突然リナが
学校で流行っていたこの公衆電話にまつわる
幽霊話をし始める
おそらくはリナ脳内
オノ:免疫弱
センパイ:免疫無し
俺:免疫不明
少なくとも二人には効果アリ
と思っての悪ふざけだろう
いつもはすましてるセンパイが取り乱し
あからさまに怖がるオノの反応
それが面白かったのだろう。
そこに俺自身も愉悦を感じないと
言えば嘘になる
正直少し、いや、すごく、楽しかった
それもまたもや束の間
二人が喜び二人が泣く悪ふざけが
その場全員を混沌へと陥れる
その季節によく現れるモノの出現によって...
ソレはなんとも形容し難い耳障りな音を立て
大地を縦横無尽に這い回る
瀕死の蝉である
虫はよく捕まえて遊んでた
蜘蛛や蛇だって捕まえられた
だが、蝉だけはダメだった...
足元でソレに暴れられた俺は正気を失いかけた
そしてリナは頭上の違和感に気付く
公衆電話の灯りに群がる蛾と無数の蜘蛛の巣
リナSUN値振り切り発狂
俺はエアガンをそこかしこにぶちまけた
弾倉が尽きるまで。
四人共々それぞれの弱点をつかれる形となり
それはまさに地獄絵図
弾が尽きようがソレの這う音がなくなるまで
剣で地面を薙ぎ払い続ける
怪談話に正気を抜かれ事態の急変に
戸惑い、取り乱すセンパイ
尚、瀕死の蝉もダメな様子
周りをよく見てしまったが故に
その場で座り込み泣き叫ぶリナ
怪談と蛾の群れ
這い回るモノ
他の三人の有様
あらゆるものが突き刺さり泣き叫ぶオノ
恐い、
怖い、
叫び、
錯乱、
阿鼻叫喚のフルコース
混沌の出来上がり
「とりあえず走れ!」と一声を吐く
ひたすら禁忌区画出口までひた走る
センパイ、
よしちゃんとに着いてきてる
リナ、
よし泣きじゃくりながらも走れてる
オノは?、
よし喚きながらなんだかんだ着いてこれてる
なんとか立ち入り禁止看板まで辿り着き
それを乗り越え
街灯の多い花の国の広場に出た
夜の街灯に照らされた花畑
夜の闇に
月光と街灯の灯りに浮かび上がる
紅き海
その様のなんと美しきかな
その頃にはいつの間にか
四人して腹を抱えて笑ってた
広場の公園にある大きな時計は
20時をちょうど回っていた
この際もう何時でも関係ない
四人で一緒に
家が一番遠い順に回って帰る事にした
センパイ、オノ、最後は近所の
というよりほぼ目の前の
リナの家を巡り
ようやく自宅の玄関に帰り着いた
母親に当たり前のように怒られた
何してたの?
カノウ君を探しに...
それに付け足すように道に迷っただの
そこで泣いた子送ってただのと
嘘まじりの言い訳をしてみたけど
あまり意味はなかった
その晩
風呂に入る時
身体中が擦り傷だらけなのに気が付いた
きっと帰りの草むらを闇雲に走った時に
草に当たり着いた傷なのだろう
そのまま湯船に浸かってみる
案の定、しみた。
センパイは優等生だから
怒られるよりも心配されたらしい
オノは叩かれた上に夕飯抜き
リナは女の子というのもあり
帰りの遅さになかなか叱られたようだ
と、いうことや
その日の風呂が三人共
色んな意味で「しみた」
という事をその後日四人で集まった時に知った
リナは怖がらせる味をしめたのか
『身体に擦り傷に加えて手形が付いてた』
などとセンパイに嘘ぶく
平常運転いつものセンパイ
「今度あんたのリュックにバッタ詰めとくから」
その一言で黙らされていた
オノはそのやりとりを見て苦笑いしつつ
すっかりいつものマイペースな彼に戻ってた
それから半年くらいが経ち
小学5年になってすぐの時に
ファイナルファンタジーⅧの予約が開始した
それまでの人生で
一番と言っていい程親にねだった
夜中に親に頼み込んだ
だがすぐには承諾を得られなかった
それでも発売したらすぐに手に入れて
三人の友達と一緒にやりたかった
そこで妙案したのは
「FF8募金箱」
マジックでそう書いたメモを小さな箱に貼り
リビングのカウンターに設置してみたのだ
最初におねだりした時の親の様子では
望みは薄かった
それでも僅かな期待を抱きつつ
発売開始まで毎朝中身を確認した
....やっぱり入ってる訳ないよな...
とうとう発売日当日
半ば諦めつつ
ダメ元で募金箱開けてみる
!っ
「ゆめかまぼろしか」
そこには一万円札が入っていた
直感で解った
こんなやり口は親父
粋な真似を...
すぐに父親の部屋へ行き
ホントに!?ありがとう!
そう言うと父親は
「あ〜?そんなもの知らないネ」
などとトボケる
そのトボケ方、間違いない
直感が確信に変わった
とにかくありがとう!と言い
一万円札握りしめ
近くのコンビニ、サンクスへと駆けた
かくして父親の粋な計らいにより
無事発売日にソフトを手に入れた俺は
すぐさま三人を招集した
それからは
またその四人で一人用のFF8をやっていた
小5の2学期
俺が遠くに引っ越さなければいけなくなるまで
結局カノウ君は見つからなかったけど
今までたくさん面白いゲームを教えてくれた
スターオーシャン
テイルズオブデスティニー
ファイナルファンタジー
そして思い出も
「ニート大学生」のくせに
近所の評判も良く
言動も知性的ではきはきと話し
博識で
引きこもりヲタクのくせに
外でも遊んでくれて
あんたに教えてもらった事
一生忘れない
最後に「ホンモノの冒険」まで
俺達にくれたのかな...
おしまい
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