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スマホストーリーズ

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寝転んでスマホで書かれたチープな超短編たち。
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金属の掌で踊る

金属の掌で踊る

不機嫌な男が、殺気を放ちながらランチタイムのファミレスに入る。
美人のウェイトレスが出迎える。
「いらっしゃいませ。何名様ですか?」
FMラジオのパーソナリティーのような美声が男の耳垢だらけの外耳をくすぐった。男は彼女に見とれながら人差し指を立て「ひとり」と口の形だけで言う。

男が席へ案内してくれる女の後ろ姿に見とれていると、女の両脚が台座のようなものから生えていて足首から下がなく、床を滑るよう

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見た目も中身?

見た目も中身?

ある日、突如として巨大なUFOが地球に飛来する。そのスケール、テクノロジー、洗練されたデザインは人類の文明をはるかに凌駕していることが明らかだった。

人々は呆気にとられ、とりわけUFO直下にいた人々は取るものもとりあえず逃げ出す始末だった。国連軍やマスコミらも遠巻きに静観するほかなかった。

そんな中、UFOからメッセージが放送された。それは気の利いたことに英語に翻訳されていた。

以下のような

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スープが命

スープが命

 ある晩のこと、一軒のラーメン屋の前で一人の男が行きつ戻りつしている。時間を気にしながらも、なかなか中に足を踏み入れない。

 客足の途切れた店内では、片付け始めながら入口のガラス戸越しにチラチラと人影が見え隠れするのに店主が気づいていた。
 
 店主は戸を開けて男を見ると言った。
「お客さん、入るの?入らないの?もう片付けちゃうよ。」
男は、
「すみません。ラーメン一杯ください。」
男を中へ通す

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隠し味

隠し味

その女は夕飯の支度をしていた。
有り合わせの材料とトマト缶で適当にスープを作るつもりで。
スープが出来上がり、火を消そうとした時だった。
女の鼻からふいに血が垂れる。

あっ

と気づいた時にはすでに遅く、スープの鍋に鼻血が入ってしまう。

「3秒ルール!」

と叫び、慌ててお玉でその部分だけ掬い出そうとしたものの、ボコボコとしぶきのあがった鍋の中であっという間に混ざってしまう。

彼女は自分に言

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遅れ者

遅れ者

大多数がオートチャージのスイカを使うようになった近未来。しかし、まだごく少数の者が旧世代のスイカを使っていた。

駅の改札を通ろうとした男がバーに通せんぼされる。侮蔑と苛立ちのこもった視線を浴びながら券売機まで戻る。券売機の不具合でチャージできず、クレームボタンを押すと、券売機の横の金属板がスライドして駅員の顔が現れた。

「どうしました?」

小さな穴が円状に開いたアクリル板越しに駅員が言った。

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正義の見方

正義の見方

自宅近くのコンビニにコーヒーを買いに行った。車を降りて店に入るところで一回り年下の男と目が合った。軽く微笑みかけてきたその感じで、どうやら顔見知りらしいとわかったのだが、どこの誰だか思い出せない。

「あの、ヒロトくんだよね?ジンです。何年か前、群馬のキャンプ場で一緒になった。」
「ああ、そうだった。ジンくん、思い出したよ。」

毎年いくつかの家族連れで遊びに行く、ファミリー向けのゆるいキャンプイ

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