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『短編小説』挑戦の朝

 朝日が静かに差し込む部屋の中で、佐伯はゆっくりと目を覚ました。昨夜の雨が残した冷え冷えとした空気が、薄いカーテン越しに入り込んでいる。時計の針は七時を指していた。彼は布団の中でしばらくの間、天井を見つめていた。

 今日こそ決断を下すべき日だった。

 佐伯は三年間勤めた会社を辞めるつもりでいた。しかし、その意思を伝えることができずに、ずるずると時間だけが過ぎていた。安定した収入、慣れ親しんだ環境、そして何よりも親の期待。すべてが彼の足を縛りつけていた。

 彼は布団から体を起こし、窓を開けた。冷たい風が頬を撫でる。通りにはすでに人々が歩き始め、忙しなく一日が動き出していた。

 「本当にこれでいいのか……」

 呟くように言いながら、佐伯は机の上に置かれた退職願を手に取った。白い封筒の中には、何度も書き直した手紙が入っている。会社の規則に則った形式の文面だったが、彼にとってそれはただの紙切れではなかった。彼の人生を変えるための、一歩だった。

 コーヒーを淹れ、ゆっくりと口にする。苦味が喉を通るとともに、彼の心にもある種の覚悟が広がっていく。もはや迷っている時間はない。佐伯はスーツに袖を通し、ネクタイを締める。鏡に映った自分の顔は、どこか引き締まって見えた。

 扉を開けた瞬間、朝の光が彼の前に広がった。その光は彼にとって、新たな挑戦の象徴のように思えた。

 佐伯は一歩、外へ踏み出した。

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光治(みつおさむ)
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