内海隆一郎「人びとのシリーズ」
没後5年のこの作家の作品が、ほぼ絶版だなんて信じがたい話だ。
芥川賞、直木賞の候補に計6度ほど上がり、ドラマの原作にもなった作品もあるというのに、辛うじて電子書籍がちらほらある程度だなんて。
内海隆一郎と言えば和製O.ヘンリーと呼んでも過言ではない短編の名手で、ハートウォーミングな情景を書かせたら日本一と言ってもこれまた過言じゃない筆致を誇る。
日常生活の何気ない出来事にある心あたたまる様を描く短編は、緻密なまでに隙のない精巧さを持ちながら至って自然体な筆運びが素晴らしい。
特に「人びとのシリーズ」と呼ばれる「人びとの旅路」「人びとの街角」「人びとの岸辺」「人びとの坂道」「欅通りの人びと」等は、優れた短編集であり、比類なき内海文学の真髄がそこにあるからこそ、読める機会があるならば是非にオススメしたい。
内海隆一郎「人びとの情景」 (PHP文庫) https://www.amazon.co.jp/dp/B085PXC1R3/ref=cm_sw_r_cp_apa_i_2z7zEb7MR40ZR