コンビテンシー面接の活用術Vol.9(3/4)
7.性格への決めつけが部下を壊す
こうしたインタビューの際、上司が一方的に質問するのではなく、部下の話には十分すぎるくらい時間をかけてじっくり聞いてあげてください。それとともに、このとき特に気をつけなければならないのは、上司が「にわか心理学者」になってはいけないということです。このことはVol.5でも申しあげました。
インタビューの際に行動質問をするのはいいのですが、その回答を聞いて「こういう行動をとる人は、このような性格だ」と決めてかかる。それが「にわか心理学者」の最もよくないところです。しかも、「君はこういう性格の人間だから、こんなミスを何度も繰り返すんだ」とマイナス評価の領域でこれをつかい、その結果、部下を心理的に追い詰めていくことになります。
心の奥底をのぞきこむ「内観」は本人自身が心静かに行うことであって、他人がやるべきことではありません。上司にとっては指導のつもりかもしれませんが、部下にとっては、人事考課や育成・指導にかこつけて、自分自身でさえよくわからない自分の性格の基底部分に、否定的な矢を何本も射られる気持ちになるわけです。
その結果心が壊れていく部下がいることを、こうした上司の方は心に留めておいてください。このような例がたくさんあるわけではありませんが、十分な注意が必要なことをここに記しておきます。
前にも述べましたが、「コンピテンシー面接」にはいろいろな「流派」があり、心理的なアプローチ(その人がとった行動の背景となる考え方や意図・意思まで聞く)を実施しているところもあります。これに対しDDI社・MSCのアプローチは、基本的には行動のみにフォーカスするという方法をとっています。
たとえば部下が「最近こういうことがあって、やる気になってます」といった場合、私たちの提唱するコンピテンシー面接では、「なぜ、そんなにやる気になったの?」「やる気が高まるのはなぜ?」というように、「なぜ?」「どういう考えで?」とは問い返さないわけです。もちろん、本人が話したければ聞きますが……。
「なぜ?」「どういう考えで?」という観念質問に対する回答の中には、本人のいろんな「想い」があるでしょう。本人がそれを打ち明けるかどうかは別にして、たとえば「家族のしあわせのため」とか「自己実現のため」とか、あるいは「おカネのため」「いつか上司を追い抜いてやるため」という気持ちがあったかもしれません。
そうした想いや動機が何であれ、企業にとってより大切なのはその人が仕事をきちんと遂行し、着実に成果を上げてくれることなのではないか――したがって、想いや動機の深層まで追及しない、という考え方が私たちのべースにあります。
言い方を換えれば、コンピテンシー面接をじっくりと行って、部下の行動情報をたっぷりと収集することで、おのずと部下の考え方や価値観を垣間見ることはできるのです。
ですから、「STAR」に準じていえば、私たちが確認すべきことは「やる気になった物理的な状況・客観的な背景」であり、「やる気になって実際にとった行動」であり、そして「その行動の結果」です。
つまり、こうした「事実」が情報としてきちんと収集できれば、その人のコンピテンシーをあらわす行動特性がわかる――それが私たちが提唱する「コンピテンシー面接」にほかなりません。そして、その効用は本書全体を通じてお話したとおりです。
8.昇進昇格の判断への活用
ところでコンピテンシー評価は、多くの会社でさまざまな目的につかわれるようになってきました。前述したような方法で社員の育成に広く活用している企業もあれば、狭義のコーチングツールとして使用している企業もあります。
また、業績評価はボーナスに反映させ、コンピテンシー評価の結果を、給与を決定するシステムに直接組み入れている企業もありますが、この場合は上司(評価者)の責任はいっそう大きいといえるでしょう。採用の面接官トレーニングと同様、こうした役割を担う管理職の方は、ぜひともコンピテンシー面接のトレーニングを受けていただきたいと思います。
このほかにも、コンピテンシー評価を昇進昇格(これは当然、給与とも連動しますが)に活用しているケースがあります。ただ、その活用法や評価基準は、企業によってさまざまです。
これは昨今のビジネス環境を反映しているケースですが、企業のM&Aにともないマネージャーを選抜するためにこの手法を導入した事例があります。
2社が合併したことにより、マネージャーは約2倍に増えましたが、ポストはその人数分もちろん提供されません。合併した企業の力関係やお互いの人事制度をもちこめば、もめることは必至です。では、いかに公平かつ客観的にマネージャーポストを決めるか。その方法としてコンピテンシー評価を導入した結果、その企業では適切な人材を登用することができました。
「コンピテンシー=ある特定の仕事を成功させるために必要な知識および行動」という基本に立ち返れば、やはり「上位の職務を担うにはどのような行動様式と知識のレベルが必要か」を基準としたモデルをまず設定し、そこに企業独自の価値判断を組み入れていくべきでしょう。
モデルとは、たとえば、昇進昇格のランクが1・2・3……という順番で上がっていく場合、「1の行動基準(および知識水準)」「2の行動基準(および知識水準)」……というように、それぞれのランクの能力要件が、行動レベルおよび必須知識として具体的かつ明確に設定された基準表が整えられているということです。
こうしたモデルがあれば、上司(評価者)は部下の一年間の「行動事実」と習得した(あるいは向上した)知識・スキルをその基準表に照らし合わせて、たとえば「現在、1のランクの部下(評価対象者)が2のランクにある能力要件を満足しているかどうか」を判断・評価するわけです。したがって満足しているなら、2のランクに昇格させ、満足していなければランク据え置きということになります。
このときも定期的なヒアリングをぜひ実施してください。そこで上司は、部下が日ごろ話せないことなどにあらためて耳を傾けるとともに、仕事の成果につながった部下の行動を、インタビューを通じて浮き彫りにし評価の材料となる行動情報の確認と補充を行うわけです。
昇進昇格審査にこうした「コンピテンシー評価」を活用した場合、その「正確」を期すためには、当該部門の複数の評価者(たとえば部長と課長)と評価者訓練を受けた人事部門の管理職が同席するのが望ましい形態といえるでしょう。ただ実際には、どの企業も上司と部下との一対一の面談に任せているのが現状のようです。
9.マネジメント能力の診断への活用例
昇進昇格の評価対象が一般社員の場合、評価を上司に任せるという方法もいたし方ないと思います。とはいえ、評価対象が管理職である場合はそうもいきません。
評価対象が課長であれば、その職位はいわば「事業の最前線における指揮官」という重要なポジションです。したがって、その人を次期部長の候補としてランクアップするか、部長に抜擢するか、あるいは現行のランクに据え置くかという判断は、本人のモチベーションへの影響とも相まって、事業の行く末を左右しかねません。
もちろん、企業にはそれぞれ自社のやり方や評価基準があり、多くの企業ではそれに則って管理職の昇進昇格評価が行われています。ただ、コンピテンシー評価の的確性と信頼性を認識している企業の中では、私たちのような人材アセスメントのプロに評価を依頼されるケースも少なくありません。
コンピテンシー評価の活用例として、以下、昇進昇格に伴う管理職の方々の能力診断をMSCが実際どのように行っているか、その概要をご説明しておきましょう。
評価はインタビュー(コンピテンシー面接)で行う場合とアセスメントセンター形式という方法がありますが、今回は、コンピテンシー面接によるアセスメントを紹介します。
インタビュー前にまず私たちが確認するのは、評価対象のプロフィールと、その方が管理職になってからの職務内容です。「管理職になってから」というのは、私たちが最終的に収集し、読みとろうとしている行動情報が、その方のマネジメントスタイルだからにほかなりません。
インタビューの時間はクライアントによっても異なりますが、約1.5時間から2時間が目安です。
先にこのインタビューを受けた方の感想――「あらためて自分のマネジメントについて整理できた」――をご紹介しましたが、それはこのようなコンピテンシー面接に関するものです。
その結果、何がわかるかというと、ターゲット・コンピテンシーの設定にもよりますが、その人自身のマネージャーとしての仕事におけるプランニング、問題解決の方法、部下に対する指示や指導の仕方、さらには意志決定の仕方などです。
もちろん、私たちはそのインタビュー結果で、クライアントに対して昇進昇格の判断や裁定をするわけではありません。右に挙げたようなマネジメントスタイルをリポートの形にまとめ、それをいわば判断材料として企業(多くの場合は人事部長宛)に提出します。個人のプロフィールはもちろんのこと、その企業のマネージャーをインタビューすることで、その企業かかかえる人事的な課題も併せて提言することが多くなります。
そのリポートを重要な判断材料の一つとして、クライアントは人的資源活用の最終判断を行うわけです。
リポートを読んで、その的確な内容に人事の担当者から高い評価をいただくことがよくあります。それがアセスメントのプロとして私たちが自負するところのものであり、同時にコンピテンシー面接というメソッドの神髄でもあるのです。
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🔵会社概要
会社名:株式会社マネジメントサービスセンター
創業:1966(昭和41)年9月
資本金:1億円
事業内容:人材開発コンサルティング・人材アセスメント
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